河井夫妻起訴:政界の闇、論点のずれた報道、本当に問題なのは何か

2020年07月12日 06:00

東京地検特捜部は7月8日、前法相の河井克行衆院議員(57)と妻の案里参院議員(46)を公職選挙法違反の罪で起訴した。

河井案里、河井克行(法務省サイト、Wikipedia)

案里議員が初当選した昨年7月の参院選で、地元議員ら100人に計2900万円を配って票の取りまとめを依頼した罪に問われている。また、三原市の天満祥典市長は辞意を固めるほか、追随し辞職する地方議員も出始めて入り、広島県下でとんでもない逮捕者、辞職者を出す大事件へと発展している。

現職国会議員の逮捕、起訴自体が検察にすると大金星なのだが、法務大臣経験者の逮捕は戦後初めて、さらに夫婦揃って逮捕というのも過去に類を見ない事件であり、そこからの波及を考えるとかつてない大型の事案だと言える。また、昨年12月にIR統合型リゾートを巡る贈収賄で衆院議員の秋元司議員の逮捕まで10年近く国会議員の逮捕はなく、現職国会議員が公選法による買収容疑という極めて異例の事件でもあり、世間の耳目を集めている。

これまで国会議員の逮捕と言えば、ほとんどが収賄と政治資金規正法違反だった。2000年以降でいえば、中尾栄一建設省入札事件(2000年)、村上正邦・小山孝雄のKSD事件(2001年)、鈴木宗男林野庁事件(2002年)、石川知裕陸山会事件(2010年)、秋元司IR事件(2019年)と続く。最近、『無敗の男』という書籍で再び注目を集めている中村喜四郎が94年に逮捕されたのもゼネコン汚職だった。他にも辻本清美の秘書給与の名義貸し事件や西村真悟の弁護士法違反など三面記事のような逮捕もあったことあったが、基本的には贈収賄が最も多い。

そういう意味で、今回の逮捕が選挙に関する買収という点は非常に大きな課題を世間に投げかけるものになりそうだ。

安倍側近の河井克行前法相は松下政経塾

話の本論に入る前に、逮捕された二人がどんな人物なのか整理しておきたい。

河井克行氏は事件の背景から昔ながらの自民党だと思っておられる方が多いが、実は一世を風靡した松下幸之助さんの興した松下政経塾の6期生を経て政界入りしている。6期といえば、まだ松下幸之助さんご存命の時期で、幸之助さん自らが面接して入塾を許された希少な世代だ。先輩には逢沢一郎、野田佳彦(共に1期生)を筆頭に、松原仁(2期)、鈴木淳司(3期)、原口一博(4期)、伊藤達也 (5期)、高市早苗(5期)と錚々たる顔ぶれが並び、同世代の後輩(7~9期)には谷田川元、山井和則、玄葉光一郎、前原誠司、秋葉賢也、本多平直、松野博一などが続く政経塾黄金期といっていい豊作の時代に政経塾で学んでいる。 その後、広島県議を経て衆院議員へ転身、衆院議員として当選七回を数える。

松下政経塾公式サイトより(編集部)

2015年、内閣総理大臣補佐官に就任したのを皮切りに、2017年には自由民主党総裁外交特別補佐、2019年9月には法務大臣に就任するなど安倍首相の側近としてその足場を固めてきた。

一方、妻の案里氏は、慶応大学卒業後、科学技術振興事業団に勤務時代に夫・克行氏と出会い結婚。その後、広島県議4期(途中知事選に出馬・その後県議に復帰)を経て2019年の参議院選挙で初当選を果たしたという経歴の持ち主である。

しかし、この初当選の選挙が、近年稀にみるとんでもない金権選挙となって今日の逮捕、起訴を迎えている。

2019年の参院選広島選挙区は改選2議席を巡り、案里容疑者、自民党現職の溝手顕正氏、野党系無所属現職の森本真治氏が争う激戦だった。本来は溝手、森本の安定議席だと思われていたところに割って入ったのが河井案里氏だ。

ちなみに、皮肉なことに無所属の森本真治は松下政経塾の河井氏の後輩である。

1億5000万円は問題ではない

今回騒がれている争点の一つが、二階幹事長が1億5000万円という巨額の資金を提供し、それが買収資金に利用されたという点だ。

写真AC:編集部

広島選挙区には参院自民党の長老で、安倍首相とそりの合わない溝手顕正議員(当時)がいた。夫・河井克行氏は「安倍側近」として、溝手氏を追い落とす意図を持って、妻案里を出馬させたという。言うなれば、自民党内の御家騒動の形相が強く、自民党広島県連の意向に反して党本部から下された刺客行為は地元議員の反発もあり、広島地検としては初動の情報収集がし易かったことも想像に難くない。

官邸の意向を汲んだ形で選挙戦に突入した案里氏の陣営には溝手氏の10倍に近い、1億5000万円もの政治資金が自民党から提供されていたとされるのだが、はっきり言って、これは自民党内の権力闘争で、外野がどうのこうのいうような問題ではない。誰にいくら配るかは時の幹事長の専権事項とされており、各選挙区事情に応じて支援金を配るのは至って普通のことだ。

野党側は、1億5千万円が買収行為に充てられた可能性があると指摘しているが、安倍晋三首相が答えている通り「世間で言われる(買収の)使途に使うことができないのは当然だ」であり、それを前提として支給したわけではないと言われれば党側の責任を問うことは難しい。ただ、永田町筋では「河井前法相はケチで一億もの大金をポケットマネーで配るとは思えない」「そんな大金持ってないだろう。」というのがもっぱらの噂で、原資がこの1億5000万円だというのは間違いなさそうだ。

市民の血税だという言う声もあるが、政党助成金というのは、そもそも選挙資金として使われることが前提で支給されている。この法は、贈収賄などを繰り返す政治家を横目に、「政治に必要な資金は国民が負担するので、悪いことをせず、国民のための政治をしっかりやってほしい」という意図が含まれている。したがって、その資金を誰にどう配るかは党の差配であり、そこを追求しても今回の問題は解決しない。

金を配るのはOK。問題は配り方

次に論点になっているのは、「選挙のたびに金を配るなんてけしからん。」という点だが、勘違いをしてはいけないのは金を配ること自体は違反でも何でもない。議員間の資金供与は常識的に行われている。嘘だと思うなら政治家の政治団体収支報告書をご覧頂ければ、政党支部から個人の政治団体、個人の政治団体から政党支部、議員個人からの寄付など日常的に誰もがやっている。私も友人が立候補すると言えば、陣中見舞いを包むし、選挙になったら色々な議員が陣中見舞いを持ってくる。一般家庭が子供が生まれたら出産祝いを包むのと同じだ。ただ、この場合必ず政治資金のカンパとして領収書を発行し、収支報告書に記載する。ここが問題の一つだ。

今回の事件で違法性が問われるのは、金を配ったことではなく、

  1. 買収を目的として資金供与されたという点
  2. 収支報告書に記載していない点

という二点が問題だということを再確認しておきたい。

特に自民党という政党は、親分が子分の面倒を見るという文化が非常に根強く、子分の面倒を見る=金を配ることが美徳とされ、それができることがいい親分だという風潮が強い。特に昭和という時代は、派閥政治が横行し、許認可を振りかざし政治家は金を集め、子分を育て、また有権者にとっても買収は当たり前、選挙事務所に行けば飲み食いタダといった空気感があった。

ただ、社会が成熟するにつれ、情報公開が進み、政治家が裏で手を回してという文化が通用しなくなり、それに群がる企業も年々減りそうした風潮は明らかに衰退していった。有権者の中でも、クリーンな政治を求める風潮が強まり、政治家へのタカリ根性もなくなっていく。そうする中で、買収を伴う金権選挙はほぼ一掃されてきた。

大きな節目は55年体制の崩壊だったと思うが、それ以降、選挙で金を配ったという話は一部の田舎を除いて聞かなくなった。そんな中、こんなに大胆に配りまくっていたのかというのは正直驚きを隠せない。特に、今回、買収目的だと断定される一番の要素は、議員以外の地元有力者にまで頒布していることだ。議員に対しては苦し紛れの言い訳も通用しなくもないが、地元有力者は買収以外の目的を見出すのは極めて困難だからだ。

ただ、子飼いの議員に対しては今も金を配っている政治家は非常に多い。配る大義としては、子飼いの議員の選挙応援に際して陣中見舞い、また親分の選挙を応援してもらう際の必要経費として支払われるケースが大半だ。特に後者の場合がグレーで、買収費用なのか経費なのかという点が問題になる。

実際選挙を子飼いの議員に手伝わせるにあたり経費が発生するのも事実だ。例えば、親分の選挙応援に際して、ポスターを貼りに行くアルバイトの人件費などが発生する場合が多々ある。これらの費用を子飼いの議員は立て替えて払うが、後日経費として負担するケースなどがそれにあたる。

いずれにせよ、こうした不透明な金の流れを全て公に公開できる収支報告書に記載しているかどうかは絶対的なバロメーターであり、そもそもどこにも報告せずに金をポケットに入れた場合は脱税容疑がかかり、不記載=やましいことがあると言われても仕方がない。

したがって、今回金銭授受があった議員の中には、収支報告書にしっかり記載している議員とそうでない議員は置かれている状況が全く違う。

いずれにせよ、検察が貰った側はお咎めなしという判断をしたとしても、お金を受け取り収支報告書に不記載だった議員はかなり大量に辞職に追い込まれる可能性があり、すでに呉市などでは受領した議員に辞職勧告が出されている。

ただ、収支報告書については訂正が認められているので法的な違法性はクリアできるケースもあるが、当初「貰っていません」と金銭授受を否定していた議員に至っては言い逃れは困難であろうし、配った両議員は間違いなく有罪判決だ。

しかし、私自身はこれで良かったと思っている。こうした悪しき慣習が表に出ることで、一時的に政治不信は拡大するが、政治家側も有権者側も「こういうことはやめなきゃいけない」というバイアスがかかり、今後の政治にとってはとてもいい結果を残すことになると思っている。

今でも業界内では「金を配る国会議員=いい議員」「金を配らない議員=わかってない議員」などという声は少なからずある。金をもらわないと動かないという子分もいる。

政治と金の問題は尽きないが、これを一つの契機になれば、この政治的混乱も意味があったと思える。

さらに詳しい情報は、動画をご参照頂きたい。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
村山 祥栄
前京都市会議員、大正大学客員教授

過去の記事

ページの先頭に戻る↑