深く静かに米国が北朝鮮との緊張感を高めているようだ

2020年07月12日 06:00

北朝鮮と米国が神経戦をしている。金正恩には、長引く制裁とコロナ禍での中国との国境封鎖による経済困窮や自身の健康不安などの要因が、一方のトランプも、11月の大統領選を控え、収まる様子のないコロナに加え人種差別抗議デモや暴露本なども厄介だ。

朝鮮中央通信より:編集部

そんな中、ビーガン国務副長官兼北朝鮮担当特別代表が、コロナ禍をおして7日から9日まで訪韓した。産経は11日の社説「主張で訪韓目的の一つを、北への「文政権の融和への固執に釘を刺す」こととする。筆者も同感だ。

東亜日報は8日、その根拠となりそうな記事を載せている。すなわち、米朝交渉の常連フッカーNSCアジア上級部長が同行していない、統一部への訪問を当日まで決めていなかった、国務省が訪韓は「北朝鮮の非核化に対する調整を強化するため」と明らかにした、などだ。

その通りだったことは、6日と10日のハンギョレに表れている。6日の社説「ビーガン訪韓、言葉ではなく行動で朝米対話の扉を開けよは、今は南北・朝米対話の突破口を見出す時で、まず米国の交渉への意志を示す行動が必要、8月の韓米合同軍事演習の調整は検討に値する、などとしていた。

だが10日の「南北協力支持のメッセージは出したが、朝鮮半島情勢管理レベルの訪問では、ビーガンの記者会見には、韓国政府が推進しようとしている南北協力事業や、北朝鮮が要求する経済制裁の緩和に関する具体的な内容がなかった、と意気消沈の体だ。

文政権に釘を刺しに来たのだから当たり前だ。が、文氏は勘が働いたようで、最終日の午前にSKハイニックスを訪問、ビーガンとの面会を避けた。そこへ行くと北朝鮮は、ビーガンのカウンターパート崔善姫第1外務次官が4日、米朝対話の可能性を否定する談話を出して米国の機先を制した。

VOA紙は4日、トランプは大統領選挙の前に「10月のサプライズ」として金正恩と会う、とのボルトンのコメントを受けて、崔善姫が、平壌が敵対的政策と呼ぶものをワシントンが放棄しなければ、近い将来に米国との核交渉を再開する計画はない」と述べたと報じた

6日にも北朝鮮の対外メディア「朝鮮の今日」が、「南朝鮮で現在の北南関係の悪化の主な原因が『韓米実務グループ』にあるという非難の世論が高まっている」と報じたが、7日ハンギョレに依れば6月に金与正が韓国を非難した内容と同じと。

これら北朝鮮の一連の発信はどう考えても、北が韓国抜きで米国との首脳会談を望むシグナルと思われる。9日の東亜日報、トランプも7日にTV番組のインタビューで次のように述べたとのVOA記事を報じている。

彼ら(北朝鮮)が会いたがっていることを知っている。私たちは確実にそのようにするだろう。それが役立つと考えられるなら、そのようにする。(会談が役立つと考えるかとの問いに)おそらくそうだろう、私は彼(正恩氏)ととてもいい関係を結んでいる。役に立つだろう。

文政権が明け透けに、また北朝鮮が反語を用いながら求める米朝首脳会談だが、筆者にはトランプの関心が、むしろその前段階の北朝鮮への強烈な牽制にあるように思えてならない。それはここ数日の以下3本の報道から読み取れる。

6日の東亜日報は、崔善姫が声明した4日、ルイジアナ州の空軍基地を離陸した1機のB-52が約1万キロを飛び、三沢基地上空に展開した後グアムに降りたと報じた。同紙は、米軍が最近宣言した爆撃機戦力の「躍動的展開」態勢の構築に向けた運用戦略を点検したとみられる、とする。

2本目は9日のCNNの「北朝鮮、平壌近郊の施設で核弾頭製造か 衛星画像で活動判明」との記事だ。衛星画像には、撮影日の30May, 2020、Warhead Manufacturing Facility(弾頭製造施設)、Wollo-ri, DPRK(元魯里)、そして位置を示す 39.05°N, 125.62°Eなどとある。  

画像は米ミドルベリー国際大学院の専門家らが分析した。施設は15年に米研究機関が発見し、役割が特定できなかったことから公表を差し控えていたが、米科学者アンキット・パンダ氏が出版予定の著書で書いたことから公になったそうだ。本当にそうか?この時期を意図した公表ではなかろうか。

分析に加わったジェフリー・ルイス教授は、「北朝鮮の核施設の特徴を全て兼ね備え」たこの施設は、自動車、トラック、輸送コンテナなどの交通量も多く、工場は非常に活発に稼働しているとし、「その活動は交渉が続いている間も、今現在も減速していない。まだ核兵器の製造を続けている」と述べた。

10日の東亜日報も、平壌近郊のこの元魯里施設が新里のICBM組立施設から14km、カンソンのウラン濃縮施設から13kmしか離れていないとし、ここが核弾頭製造施設なら高濃縮ウランを生産して核弾頭に装着した後、ICBMに搭載する過程を一貫で行う核兵器総合生産団地を構築したも同然とする。

その上で同紙は、北朝鮮が核開発に邁進するのには、大統領選を控えた米国に対して交渉力を高めるという狙いがあり、核ミサイルの完成まで開発を止めないだろうとし、韓国は南北関係改善と米朝対話の仲裁にしがみつくのではなく、北朝鮮の完全な非核化を最優先しなければならない、と真っ当だ。

3本目も東亜日報の10日の別記事。7日のエスパー米国防長官と河野防衛相とレイノルズ豪州国防長官とのTV会議後、国防総省発表の共同声明に「北朝鮮に対してあらゆる範囲の大量破壊兵器と弾道ミサイル計画のCVID達成に向けた措置を実施し、交渉のテーブルに戻ることを求める」という内容が盛り込まれた。FFVDからCVID回帰は北朝鮮への圧力を強める狙いがあるからに相違ない。

米国メディアには、とかくトランプの金正恩への友好的な態度を難じる論調がある。また金正恩にはトランプこそ制裁緩和の頼みの綱との気持ちが滲む。が、このどちらも見当外れと筆者には思える。なぜなら前者に関して、トランプが正恩を罵倒したところで、留飲は下がっても実益は何もない

後者に関しては、国連安保理が制裁決議をしている以上、仮にトランプが緩和したいと考えたところでどうなるものでもない。文在寅の制裁破りの北支援も同様だ。東亜日報のいう通り、北朝鮮の完全な非核化を最優先しなければならないのは明らかだ。

6月17日の各紙は「米、原子力空母3隻で中国牽制 3年ぶり、太平洋に同時展開」との誤報続きのワシントン共同電を報じ、記事は「米メディアは太平洋への3隻派遣は北朝鮮情勢が緊迫した17年11月以来で極めて異例の態勢だと指摘している」と書いている。

だがこれが「中国牽制」とは限るまい。17年11月と同様、核弾頭製造施設が露見した北朝鮮を牽制していてもおかしくない。ハンギョレのいう8月の米韓合同軍事演習の調整などもっての外、それに乗じて元魯里を爆撃する可能性すらあり得よう。

朝鮮戦争70周年に何が起きても不思議はない。

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