高校現場を襲う悪夢の10月 〜 進路に影を落とすコロナ禍

愛川 晶

7月1日に各企業から提出された求人票が公開され、新規高卒者の就職シーズンが始まった。全国的な集計はまだこれからだが、やはり空前とも言える売り手市場だった昨年度に比べると、求人数がかなり落ち込むのは避けられない情勢だ。

しかも、困ったことに、ここに来て、また新型コロナウイルスの感染者が増加し始めた。今回は感染が深刻な地域が、東京とその隣県に限定されている。進路指導の現場に長くいたから肌で知っているのだが、高校新卒者の場合、最も多いのは都市部の飲食業とサービス業からの求人で、それこそ膨大な枚数が送られてくる。

まり、昨年までは、仕事を選びさえしなければ、どんな生徒でも正社員になる道がとりあえず確保されていたのだ。

しかし、まったく先の見えない中、特にそういった業種では新たな雇用が控えられるはずだし、また保護者の側でも、心配で子供を都会へ送り出す気にならないだろう。こうなると、生徒たちの選択の幅は極端に狭まってしまう。

そもそも、こんな状況の中、都内の企業は全国から生徒を集めて、会社見学会が開催できるのだろうか。生徒の一生にかかわることだから、ネットで済ますのも難しい。

これらに加えて、今年は何と、高卒新規採用の日程が1カ月後ろへ移動し、応募書類発送が10月5日、採用試験の解禁日が10月16日だという。 6月11日の厚生労働省の発表を聞いて、正直なところ、あ然としてしまった。

今のところ、批判的な報道はまったく見あたらないが、この変更は非常に大きな問題をはらんでいる。そのような措置を取った理由は、休校期間が長引いたせいで、生徒が意思決定をする時間的余裕が足りないと判断したため。

それは一応理解できるが、だったら、文部科学省と連係して、専門学校や短大・大学の推薦入試の日程も同時にずらすべきだった。実情を何も知らないから、そんなことが平気でできるのだ。

現在、一部の受験校を除けば、進学希望者の多くは推薦入試を選択する。就職用調査書の作成と履歴書の記載内容のチェック、就職者向け模擬面接、そして、進学用調査の作成と志願理由書の記載内容のチェック、進学者向け模擬面接、さらにはかなりの割合で課されるプレゼンテーションの指導……今年、3年生の担任はこれらをすべて一度にこなさなければならないのだ。

croissant./写真AC

私自身、59歳まで担任をやったが、9月と10月に分かれていても、何度か倒れそうになった。全部が同時期だなんて、恐ろしくて、想像することさえできない。下手をすれば、過労で死人が出かねないほど深刻な事態だ。

いまさら再び変更もできないのだろうから、悪夢のような10月が来る前に、担任以外にも仕事を分担させる体制を構築するよう、各都道府県の教育委員会が校長を強く指導すべきだ。