コロナ禍で問われる適正な公共調達:布マスク・持続化給付金・Go Toトラベルキャンペーン

2020年07月16日 11:30

はじめに

コロナ禍における公共調達においては、金額が大きく、過去に経験したことがなく、そして時間的な制約が厳しい案件が続き、その多くが事業実施に際して色々と批判された。

全世帯向けに配布される布マスクは、先行して行われていた妊婦向けの配布マスクで多くの不良品が見つかったことで検査体制を強化したことなどが原因となって当初の予定より大幅に配布が遅れ、多くの地域では緊急事態宣言が解除された後に届く事態となった。

もともとこの全世帯向けのマスク配布事業自体への批判が強かったこともあり、この遅延によって再び炎上することとなった。持続化給付金に係る業務委託については、受注者となった一般社団法人であるサービスデザイン推進協議会がその業務のほとんどを大手広告代理店に再委託し、そこから多数の外注先へと拡散し、その金銭の流れが不透明であったことに加え、その全体像を発注者自身が十分に把握していなかったことなどが問題となった。

Go Toトラベルキャンペーンは、首都圏において感染の再拡大の兆候が強まってきたその最中に実施時期を先送りするどころか前倒しする決定を政府が行ったことで「人災を誘発するのか」との批判が巻き起こった。

筆者が過去に掲載した論考、「『アベノマスク』4つの論点 〜 公共調達の視点から」でも指摘したように、政府の施策に対してその事業内容についての批判は多くなされている一方で、入札や契約のあり方をめぐる議論が欠如しているか、物足りないように思われる。本稿では、過去に掲載した論考(上記の論考のほか、「持続化給付金業務委託について:法的視点からの論点整理」「持続化給付金問題② 公共契約において重要なのは手続的公正さ」)の記述も踏まえつつ、新たな情報を追加する形で、上記で触れた三つの公共調達のケースを考察する。

なお、各事業それ自体の是非はここでは論じない。

1. 全世帯向けの布マスク配布(厚生労働省)

編集部撮影、官邸サイト

特命随意契約で行われている。言い換えれば、競争入札ではなく、随意契約の中でも競争的手続を経ない方式でなされている。ただ注意が必要なのは、契約相手であるマスク製造業者、あるいは商社との間での価格や仕様に係る交渉の過程で、契約条件を一定の枠内に抑えなければならないのであるから、これに応じられない業者は対象外とせざるを得ないのであり、発注者側において適切な業者とそうでない業者との間の比較は(見えない形で)なされているだろうから、全く競争的な要素がないという訳ではない、ということである。

とはいえ、特命随意契約は公告に基づく競い合いの形式を踏まえていないのであるからそのままでは非競争的といわれても仕方がなく、そうであるが故に、透明性を徹底することがその手続を正当化する生命線となるのである。

透明性の徹底という観点からは、この布マスク配布事業は明らかに遅きに失したといわざるを得ない。現在においても、不明な点は少なくない。例えば、4月初旬にマスク一枚当たり約200円を見込んでいるとの政府側の見立てが示されたが、政府のアナウンスの直後に契約された全体の半分に係る布マスク調達は平均150円を切る金額だった。

3月中にはすでに交渉が大詰めの段階に至っており、その段階で実際の契約金額はほぼ判明していたのだろうから、何故に政府は高い金額を国民に提示したのだろうか。そこから「安くなった」と強弁しても、元々の見立て自体を何故に高めに出したのかが不明なままである。

一部報道を見ると当初の予定からマスクの「スペックダウン」の可能性もあり、そうすると当初の予定が高く、実際の契約金額が安いのは当然の結果となる。その辺の事情次第が分からないと、この布マスク調達がリーズナブルなものだったかどうかは評価することができない。

2. 持続化給付金(経済産業省、中小企業庁)

一般競争入札で契約業者が決定されている。布マスク調達を特命随意契約で行ったことについて筆者は妥当だと思う一方、持続化給付金支給に係る業務委託で一般競争入札が用いられたことにはやや驚いた。緊急性が高い公共契約の場合には随意契約が許されているだけではなく、場合によっては随意契約を用いるべきであるともいえる。

例えば布マスク配布については、生産体制の確保、調整を企画段階から行う必要があるが、競争入札を前提にしていながら特定業者との事前の交渉などを行えば入札妨害行為となってしまう。競争入札においては「公告からのスタート」であるのが大原則であり、何らかの事前の情報提供などを行うのであれば「全ての可能性のある業者」に「平等」に行わなければならない。非競争的な随意契約を選択することを決断しさえすれば、その辺りの制約は随分と緩和される。

この一般競争入札は非常に窮屈なスケジュールで行われている。公告から応募まで5日間、その翌日には落札者が決定されるタイトな日程である。(事前にヒアリングした業者のうち)2者が応募し200頁に及ぶ提案書を提出したと聞くが、それらを複数の内部職員で業者ヒアリングなしで評価を下したという(おそらく時期的にも法的にもすれすれの選択だったのだろう)。その結果、再委託問題を抱えたサービスデザイン推進協議会への発注が炎上することとなった。

契約日は落札者決定から2週間後である。落札者決定後すぐに契約を締結するならば、より公告期間や審査期間を確保できたという見方もできるが、落札者が決まればコミュニケーションの制約が急に緩まり、この2週間という受発注者の調整期間が双方欲しかったのだろう。

現在なされている業務は一次補正予算分であり、今後二次補正分が続くという。この一般競争入札が妥当なものであったという前提を置くならば(サービスデザイン推進協議会(+再委託先)が潜在的に可能性のある業者も含めて最も優れた業者であるとするならば)、継続中の業務の追加発注になるので、通常の発想であれば「契約変更」ということになる(形式上は随意契約になると思われるが実務においては厳密ではない)。

しかし、経済産業省は(確認公募型随意契約の前提としての)「入札可能性調査」を行い、応札候補者が現れれば競争入札を行うと宣言し、現段階で、複数事業者が応札の意向を示しており、競争入札が実施される見込みであるという。やや意外な途中経過であるが、このことは当初の契約(手続)がより効果的になされているのであれば、より効率的な発注が行われていた(すなわち違う結果となった)可能性を示唆している。

また、競争入札になったとき、事前のヒアリングは行われるのか、公告期間、審査期間はどのくらいとるのか、既存の受注業者が持っている情報(業務体制、ノウハウ、トラブル事案等)を開示するのかどうか、そして入札過程全般に係る透明性をどう確保するのか、注目すべき点が多々出現することになる。

3.  Go Toトラベルキャンペーン(国土交通省、観光庁)

写真AC

企画競争型の随意契約である。これは競争入札と特命随意契約の中間的な存在で、競争入札でない以上価格要素を必須としないが、価格を評価の対象にしても構わない。法的には会計法や予算決算及び会計令上の制約があるが、競争入札よりもメリットが大きいことを十分に示せるのであれば正当化が可能な手続である。

委託業務の規模は前2事業よりも大きいが、競争的に業者を決めている点、そして何よりも「評価点数に係る項目ごとの得点」「各委員の採点」「各委員の発言」のいずれも国土交通省・観光庁のウェブサイトで公表するなど透明性の徹底に努めている点で、前2事業とは決定的に異なる。

(競争入札を用いないが競争的要素を加味する)企画競争は競争の要素を持ち込むものであるから公募の手続は厳格にしなければならないが、(本件における具体的な手続の詳細を筆者は承知していないが)実務上、競争入札のような杓子定規的な手続に制約されずに柔軟に対応できるメリットがある。

持続化給付金のような時間的制約が特に厳しい業務委託の場合、この方式がどの程度機能するかは不明であるが、早い段階で「競争的交渉」を随意契約で行うことを宣言すれば、技術面と価格面とで総合的により優れた業者を発見し、より合理的な契約が可能になったのかもしれない。

このGo Toトラベルキャンペーン業務委託における企画競争は今後大いに参考にされてよい。

あとは透明性の問題である。透明性の確保は、発注者の自信の表れである。そして批判をシャットアウトする最大の武器でもある。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑