安倍外交の世界的意味とポスト安倍候補の品定め

2020年07月18日 06:01

夕刊フジに「予測不能の時代」という連載を今週、書いたが、ここでは、そのうち第3回と第4回に書いた内容を再構成し敷衍して紹介したい。

官邸サイト

オバマ政権の反動だったトランプ外交

世界は3年間、トランプ米国大統領にふりまわされてきた。幸い日本は、安倍首相がトランプと良好な関係だったので「被害を最小限に留める」のに成功している。さらには、拉致問題などがその典型だが、トランプ大統領を上手に利用もしているのだが、世界全体ではトランプの外交は大災難と受け取られている。

パリ協定離脱、INF協定廃棄、イランとの核合意破棄、シリアからの撤兵、TPP不参加、成果のない北朝鮮との首脳会談、各国への軍事費増額要求、勝手気ままな貿易戦争などやりたい放題なのである。

ただし、このトランプの行動は、オバマ政権のやはり極端な行動様式に対する反動であることは見逃せない。

国内ではオバマ・ケアや移民政策が典型だが、大統領令などを駆使して強引にリベラルな方向で進められた。パリ協定は条約なら上院の批准が必要なので、協定という形式をとって、いわば裏口入学で参加したものだ。イラン核合意も核兵器全廃をめざす政策も議会などの了解をとったわけでないから、政権が代わったら覆されるのが分かりきっていたのである。

戦後史を振り返れば世界は政治主導国家であるアメリカの気まぐれに振り回され続けてきたともいえる。

戦後の西側各国は、人権・民主主義・市場経済の三本柱から成る西欧的な価値観を世界普遍的に拡げることを目指した。そして、それは、冷戦の終結で完成に近づいたかと思われた。

米国抜きの世界秩序維持が安倍外交の方向性

ところが、イスラム原理主義は台頭するし、中国という人権・民主主義・市場経済の三本柱からなるグローバルな秩序の内、市場経済のメリットだけを気ままな形でつまみ食いする全体主義国家がいつのまにか、世界秩序の中心になりつつある。

日米欧にとっても中国の経済発展の恩恵が絶大だった。日本も苦しいときに中国の市場が拡大したことに救われた。

天安門広場(写真AC)

一方、いずれ中国が民主化して自分たちのよき仲間になってくれると思い込んで甘い顔をしていたら、習近平の中国は、将来目標も西欧的な理想とは違うといい出して大暴れを始めた。

これに対して、トランプのアメリカはその危険性を明確に認識して戦ってくれている。その方法は、目には目をという方式であり、普遍的な原則を守らせるのでなく、ビジネス上の取引に近いが、こちらの身勝手も困ったものだ。

そんななかで、西欧と日本、インド、オーストラリアなどは団結して、アメリカ抜きでも西欧的な価値観に基づく世界秩序をなんとか維持しつつ、アメリカにもそこからあまり外れないように協力を求め、中国にも結局はそれに参加する方が有利だと説得しようとしてきたのである。

安倍政権が進めてきた価値観外交は、そういう方向性をもったものである。旧民主党政権とか首相のライバルの石破茂氏が首相では、こういう世界史的な俯瞰図をもてなかっただろうし、長期政権でなかったら世界の首脳間でのリーダーシップも取れなかった。

その意味で安倍長期政権は、日本にとってのみならず、世界にとって運が良かったのである。

ポスト安倍の最適任者は岸田氏だが…

トランプと習近平という厄介な独裁者が暴れる世界にあって、安倍晋三首相の存在は世界外交でかけがえのないものであり続けた。世界の優れた指導者は10年くらい政権にあることは珍しくないから4選がダメな理由はない。とくにメルケルの引退が予告されているなかで、安倍首相もまた退場するのはきわめて危険である。

もし辞めるとしても、少なくとも、米国大統領選挙が終わり、トランプとバイデンのいずれが勝っても、新体制が動き出すまでは、安倍首相に世界の秩序を保たせるために働かせるようにしなければ、日本国民は世界に対して無責任だといってもいい。

総選挙を今年の秋にしても来年の初夏あたりまでは、首相交代は避けたいし、交代するとしても安倍外交を引き継げる人であるべきだ。

首相官邸ホームページ

となると、仮に交代するとしれば最適任者が5年間も外相を務めた岸田文雄氏となる。岸田氏が好ましいもうひとつの理由は、憲法改正を発議するとしたら、あまり保守色が強くなくリベラルな色合いがある岸田氏が首相である方が、保守色の強い首相よりは、公明党なども乗りやすいということもある。

しかし、岸田氏の人気はいっこうに上がらず、自民党総裁選の党員投票で勝つ見込みがあるわけでない。岸田氏は奮起してスタイルも政策も見直して、せめて石破氏と五分にたたけるようにするべく本気度をみせてほしい。

ポスト安倍の品定め

岸田氏以外では、外交なら茂木敏充外相なら安心して大丈夫だ。経済政策にも強い。ただ、党内基盤がまだ弱いし国民的人気はこれからの課題だ。

河野太郎防衛相は、相手をすこしやり込めすぎでないか。外交では普通、やってはいけないことだ。国内世論向けに相手を論破し、それを表に出してはダメだ。小泉進次郎環境相は次の次の次の候補で十分だ。西村康稔経済再生相や小野寺五典氏も外交能力では合格かもしれない。

昨年9月の内閣改造(官邸サイト)

菅義偉氏については、官房長官から横滑りしたらモリカケなど安倍内閣の負の遺産をそのまま持ち越す。それに、外交について未知数だ。重要経済官僚を経験して実績を示してからが好ましいので、内閣改造で官房長官をいちどはずれることが後継レースに参加する条件だと私は思う。

あと可能性としては、そろそろ女性宰相の可能性も追求すべきだ。アメリカではバイデンが女性を副大統領候補に指名する予定だ。最有力はジャマイカとインドからの移民の父母を持つ弁護士のカマラ・ハリス上院議員だといわれるし、もし、そうなったら、2024年の大統領は彼女になる可能性が強いことはすでに書いたことがある。

稲田朋美氏が順調に成長し準備すれば、同時期に日米首脳が女性という期待もあるし、稲田氏が、保守派のアイドルから脱して女性問題などに視野を広げ改革派の政策通として地歩を築きつつあることに期待したい。

人気の石破茂氏は、外交について経験もなければ閑職にいる時間的余裕を活用して海外に出かけることもしなかったし、安倍外交を一貫して意地悪くdisり非協力だった。

安倍外交をその後継者が否定することは世界にとって不幸だし、日本にとってどういう国益上のメリットがあるのか?

石破茂氏が首相候補として相応しくない理由はいくらでも挙げられるし、それはあらためて書くが、最低限、外交で日本の国益と相反するような選択はありえないのではないか。

※クリックするとAmazonページへ飛びます

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑