財政危機せまる東京都、医療支出の見直しを

2020年07月23日 06:01

2018年6月、都立病院を視察する小池知事(都庁サイトより)

東京都知事選挙は小池都知事の圧勝という結果で終わりました。選挙直前の東京都の新型コロナ対策は、広範な外出自粛を行い、同時に潤沢な財政に裏打ちされた休業補償で下支えをするという形で、これが支持されたものと思われます。しかしその結果として、東京都の財政調整基金の95%は取り崩されたことになります。

(参考)東京都「財政調整基金」95%近く取り崩し ― NHK政治マガジン(2020年5月19日)

(参考)だから普段しっかりやらないと…財政調整基金 ― 中田宏・アゴラ(2020年7月21日)

新型コロナの第2波・第3波が次の秋冬にも来るだろうことは早期から予測されていました。財政調整基金は災害対策を目的とした積み立てであり、東京都は今後の感染拡大だけではなく、震災や大型台風に対して財政面で無防備となっています。

財政見直しが求められる中、医療に注目が集まる今だからこそ、健診事業等の支出についても再考が必要ではないでしょうか。

1. 地方自治体で常態化する根拠不明な検診事業

癌検診、メタボ検診、歯科ドックなど国内には多くの検診・健診事業が乱立しています。その費用・肉体負担・効果のバランスは十分検討されているとは言い難く、既にOECDから指摘を受けています。

(参考)日本の健康診断は見直しを OECD、病気予防への注力提言(日本経済新聞 2019年2月7日)

医療関係者はこれまで、検査は疾患への注意喚起や、かかりつけ医をもつきっかけ作りになれば十分意義があるという説明を繰り返してきました。そうであれば効果的な検査に予算を絞り、残りで広報と情報提供に注力したほうが合理的ではないでしょうか。

このように乱立する検診事業に対して、厚労省は癌検診を死亡率減少効果が立証された5項目まで絞りました。意義のある検診・健診とは、「安全、簡便、低価格で実施」でき、「死亡率低下などといった具体的効果」を備えているものです。

(参考)第24回がん検診のあり方に関する検討会  ― 厚労省(2018年5月24日)

2. 名前だけ独り歩きのメタボ健診

癌検診以外で行政主導の事業として有名なのが、通称メタボ健診と言われる特定健診・特定保健指導です。この健診は生活習慣病の改善により悪性腫瘍・心疾患・脳血管疾患といった死亡率の5割を占める疾患を予防するとあり、年間200億円の予算が組まれています。

(参考)特定健康診査(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導 ― 厚生労働省政策レポート(2009年9月2日)

しかし最も死亡率の高い悪性腫瘍はメタボ健診の項目とあまり関係ありません。また年間総死亡数134万人のうち約9割は65才以上の高齢者なので、生活習慣病が多くの命を奪うというよりは、「高齢者の半数以上は何らかの疾患で死亡する」という、あたりまえの事実を示しているに過ぎません。

(参考)令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況 ― 厚生労働省

さらに腹囲と死亡率の相関は、イメージと反して十分な根拠があるとは言えません。もちろん自分自身の血圧や血糖値について把握しておくことは重要ですが、それは一般健診でもできます。そうなると特定健診に重点的な予算をかける必要性はあるのでしょうか。

(参考)メタボリックシンドローム関連要因(メタボ関連要因)と死亡との関連について ― 国立がん研究センター(2009年4月16日)

3. 健診事業のモニタリングは妥当か

ではメタボ健診を行う効果は検証されているのでしょうか。例えば癌検診のように「死亡率低下」という具体的指標は最も説得力がありますが、モニタリングされていません。

(参考)厚生労働省(2020年3月)

医療費削減についてはどうでしょうか。これは2015年の検証で入院外医療費と外来受診率の削減効果についてモニタリングがされています。これは検診後に特定保健指導対象になったもののうち参加者のみの集計結果と、全ての健康保険対象者を比較しています。

こういう比較の仕方だと、特定保健指導対象者が元々健康意識の高い集団かもしれないなどと偏り(=バイアス)を含んだ分析であると意識しなければなりませんが、計算上は有意な減少が見られたようです。しかし時間経過とともに効果量が減っており、行動変容療法の難しさが示されています。また総削減額が不明なので、200億円の予算に見合う効果があったかは分かりません。

解釈に苦しむのは2020年発表の最新版では、医療費・受診率の結果は示されていないことです。妥当性の根拠となるこの指標について、何故公表をやめてしまったのでしょうか。

(参考)厚生労働省(2016年4月)

まとめ

新型コロナによる税収減も見込まれる中、次の感染症や災害に備えるために、補助金や行政サービスは棚おろしが必要です。なかなか着手しづらい医療関係予算に関しても、今こそ科学に基づいた合理的な再検証が必要ではないでしょうか。

既に日本は平均寿命・健康寿命共にトップ争いをしています。裏を返せば多少医療の優先順位を下げても、先進国平均以上の体制が維持できる余地があるという見方もあるでしょう。

都債・国債や補助金ばかりを求めるのではなく、行政支出を見直し、合理的に使われているか常にチェックする、本質的な議論が進むよう願っています。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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