奥が深い在ヒューストン中国領事館閉鎖命令

岡本 裕明

アメリカが中国に新しいステージの戦いを挑みました。テキサス州ヒューストンにある中国領事館を72時間以内に閉鎖せよ、というアメリカ政府からの要求であります。中国は猛反発していますが、ブルームバーグは中国はアメリカの求めに応じる、と報じています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

この動きに合わせるようにマルコ ルビオ上院議員(上院情報特別委員会委員長)が同領事館をmassive spy center (スパイ活動の巨大拠点)と称し、close is long overdue (とっくの前に閉鎖されているべき)とツィッターを発信しています。ポンペオ国務長官も本件に閉鎖要求の正当性を出張先のデンマークで述べています。

限られた情報からは同領事館では様々な情報収集が行われ、それが中国本土へのパイプになっていた可能性があり、そこに勤務する外交官が重要な役割を果たしていた公算があります。同領事館で書類が燃やされ、消防が駆け付けたものの立ち入りを許さなかったということから証拠書類を焼却処分したものと思われます。

なお、同領事館はスパイ疑惑が昔からあり、トランプ政権が誕生した時からマークされていたもので特にオイル&ガス関係の情報収集をしていたのではないかとみられています。つまり、トランプ政権にとっては数ある切り札の一つに過ぎないと思われます。

領事館員と称するスパイは戦前戦後を問わず散見され、先日もソフトバンクの社員がロシア通商代表部に所属したスパイに引っかかりましたが、通商代表部も外交特権を持っており、海外のスパイが入りやすい仕組みと言えます。スパイ活動は昔話とか映画の世界ではなく現実に起きるところでは起きているのです。

今後の動きとしては同領事館に勤務していた中国外交官はアメリカ脱出を図らざるを得ないとみています。スパイの内容がどの程度のシリアスさかは計り知れませんが、嫌疑はどのようにでもなるわけで中国側は必死の防戦になるとみています。

また、中国は対抗措置として武漢にあるアメリカ領事館の閉鎖を要求するのではないかと言われていますが、アメリカ側は既にコロナで業務的影響は最小限に抑えられると考えているようです。中国は更なる手段として香港にあるアメリカ領事館も視野にあるかもしれません。が、それは問題を非常に大きくするばかりか、中国に絶対的不利な形勢となるため、踏みとどまるのではないでしょうか?

実は私はこのニュースの前にポンペオ国務長官が出張先のロンドンで「WHOのテドロス事務局長は中国に買収された、機密情報に基づく確かな証拠もある」と述べていることが気になっています。これは意味ある発言で多くの人がその可能性はありそうだと思っていたことでしょう。それが今一度、注目されることになれば中国政府にとって致命的な事態になりえます。

アメリカは中国への本格攻勢に出たとみています。

2017年制作のトランプ大統領の半生のストーリー”Trump, an American Dream”がネットフリックスでも放映されたのですが、そこに見えたトランプ氏の性格とは「絶対に負けない」という信念であります。今回も大統領選を前に中国を締め上げるあらゆる手段を講じ、それをテコにアメリカ国民の支持を得るという作戦に出ると思います。これに対して中国側が報復なり行えばトランプ氏の術中にはまることになるとみています。

トランプ氏としては中国に関する持てる情報と可能性をこれから数カ月の間に全部出してくる可能性があります。なぜなら自分が大統領でなくなればせっかくの攻撃のネタは自分で使えなくなるからです。これは中国にとってはとてつもなく恐ろしい事であります。

習近平氏がとれる手段の一つに矛先を変える方法があり得ます。同国で降り続く雨、そして危機説がいよいよ本格的に報じられる三峡ダムのリスクを含め、災害対策に焦点をあて、外交問題を避け、時間稼ぎをするのです。

北戴河会議の時期がやってきたのですが、今年はコロナで異例の形で展開する公算があるとしても習近平氏を取り巻くネガティブな問題は山積しており、長老や対立派閥からすれば絶好の機会が訪れたとみているはずです。しかし、問題を国内災害にすり替えればそれは長老と言えども反発できない天災という逃げ方ができるでしょう。

攻めるアメリカ、守る中国、アメリカはどこまで攻め続けるのか、習近平氏体制にひび割れが起きるのか、この攻防はこの先、数カ月が最大の山場ではないかとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年7月23日の記事より転載させていただきました。