五輪中止を決断しない政治の優柔不断

2020年07月24日 06:00

新聞も未練がましい論調

東京五輪の開催まであと1年となりました。日本の状況だけで決められないし、新型コロナ感染が拡大している国が多く、開催は絶望的でしょう。無理に開催すれば、コロナウイルスの発生源の国でありながら収束状態に入り、選手はトレーニングに励んでいるはずの中国を最も利することになります。

中国の感染収束は、共産党の独裁政権だからできたというより、アジアの人種特有の免疫構造、BCG接種国であることの影響が大きいとの説が注目されています。ベトナムにいたっては死者ゼロで、韓国、台湾も少ない。日本もその一角をしめます。中国もコロナ収束をあまり威張ってはいけない。

つまり感染防止体制が整っていようといまいが、欧米のような悲惨な状況にはならなかったとの説です。第2波、第3波があったとしても、死者数は欧米100分の1程度で、アジアでは第1波と同じような展開になるとの説は興味深い。

通常なら、中国を敵視する米国のトランプ大統領は「コロナのせいで五輪は開催中止を」と、発言しています。その米国は感染者400万人、死者15万人で、世界最大のコロナ危機に見舞われていますから、偉そうな口はきけません。十分な規模の選手団を派遣できるはずもなく、本音は中止でしょう。「中国に五輪で負けるなら中止がよい」と、計算しているに違いありません。

トランプ氏はコロナを楽観視し、経済優先に動き、感染拡大を招いたと批判されています。選手だって満足なトレーニングができず、本番に向けた準備の競技会も開けていないはずです。11月の大統領選も近づき、この段階で「中止」とはいいにくい政治的な背景があります。

官邸サイト

日本は、安倍首相が「日本モデルの成功」と、一時は自負しました。「いち早くコロナに収束に成功し、五輪の東京開催にこぎつけられた」という流れにしたかったのでしょう。その後、感染者数を見て「コロナ第二波」と社会は不安になり、「日本モデルの成功」とは、自慢できなくなった。

世論調査をすると、「再延期36%」「中止33%」(共同通信)で7割が「来夏の開催はとても無理だろう」です。安倍政権は「目算が狂った」と、思っているでしょう。森・組織委員会会長は「当初、2年延期を主張したのに、安倍首相がはねつけ、1年延期にした」と内幕を明らかにしています。「もう1年の延期は認めない」と、IOCは言い、「また延期に迫られたなら中止」しかない。

その点からも、安倍政権は「中止」の早期決定を政治的に決断しにくい。「2年延期にしておけばよかった」の批判がでるのは必至です。さらに政権周辺は「解散・総選挙」の情報を流し、野党を揺さぶっています。安倍首相が「中止決定」を表明すれば、政治責任を追及され、解散しにくくなる。従って「中止はやむをえない」という状況に追い込まれるのを待っていると想像します。

「五輪は平和の祭典」は表紙の話であり、「政治的駆け引きの祭典」「巨額の資金が動く商業マネーの祭典」でもあります。日本から「中止」を持ちだせば、それに伴う費用をまるまるIOCに押し付けられかねない。だからIOCが主導で「中止」が決まるまで、日本からは態度を鮮明にしない。

昨日朝の新聞を読むと、日経などは「来日する選手1万人、大会関係者5万人の入国前PCR検査の実施体制を整えるのは容易ではない」「数百万人の観戦、観光客に対する検査ができるか不透明」「会場の消毒はどうするか、感染者がでた場合の濃厚接触者の追跡をどうするか」で、「難問が山積」と。

世界的に見てコロナ感染が確実に収束したといえる状況は、今秋か年内にまず生じない。1年後の開催は絶望的ですから、「中止の早期決断をして、後々慌てないように」と、新聞は迫るべきです。社説でそう明言すればいいのに、五輪のオフィシャル・パートナー(協賛企業として、五輪を広告・宣伝面で使える)だから、明言しない。

毎日は「コロナ下の大会像の提示を」との見出しで、「オンラインの双方向性、バーチャル映像を活用して五輪の価値を伝えられ」と、意味不明の主張をしています。未練がましい論調です。

読売の社説は「感染を防ぎ安全な大会を目指せ」の見出しです。「関係者に入念に準備をしてもらいたい。一定程度に感染を抑止して、五輪開催が可能なるよう、対策を講じることが重要である」と。それが難しい作業だから、「中止論」がでている。そんな主張には虚しさを感じます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年7月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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