ファイブアイズに対抗も、「パブロフの犬」と化す中国

2020年07月25日 06:00

flickr、官邸HP

ジョンソン英国首相が6月2日に発表した香港人救済策が具体化する。23日のBBCに依れば、プリティ・パテル英内相が22日、英国海外市民(BNO)旅券の保持者とその扶養家族は、来年1月から英国の特別査証(ビザ)を申請できるようになると発表したのだ。

筆者は6月9日の拙稿「ジョンソン提案は欺瞞?香港の若者にこそ救いの手を差し伸べよ」で、若者にこそ救済が必要と書いた。なぜなら、BNOは英国が中国に香港を返還した97年以前に生まれていた者にのみ申請の機会があり、親からも継承できない。だから「欺瞞?」と題した。

だが、BBC記事にはこうある。

BNO旅券の保持者が特別ビザで渡英する際には、BNO旅券を持たない伴侶18歳未満の子供を含む扶養家族の同行が認められる。1997年以降に生まれた人はBNOパスポートを持つことができないし、子供に継承することもできない。ただし、BNO保有者の子供で1997年かそれ以降に生まれ、18歳以上の人は、家族の一員ならばBNOを申請できる。

英語記事の翻訳ゆえか、判り易い表現でない。例えば「扶養家族」と「家族の一員」の区別がつかない。が、配偶者や18歳未満の子供=扶養家族はBNOなしで渡英でき、18歳以上の家族は自身がBNOを申請し渡英できる、ということだろう。ならば筆者の懸念は杞憂だったか。

そこで、737万人といわれる香港人のどれ程がカバーされるのか調べてみた。もちろん、BNOを申請するかどうかや、それを使って渡英するかどうかなどは本人の自由だ。が、機会は均等に与えられるべきだろう。人口データは「人口ピラミッドネット」に拠った。

同資料には5年毎の生年の括りの人口しか載っていない(18年時点)。なので、94年~98年生の59万人を3対2の比率で案分した結果、96年以前生まれが603万人、97年以降生まれが134万人となった。資料には97年以降の移民が180万人(うち中国からの移民60万人)ともある。

他方、13日のBBC記事に「英国海外市民(BNO)旅券の保有資格を持つ300万人に永住権や市民権への道を開くと発表」、「外国人も含めると約80万人が英豪加米の旅券を保持」との記述がある。後者は、返還頃に一旦英国圏に退避し、旅券を得た後に香港に戻って仕事をしている者らと推測される。

以上から、英国の救済を受けられない者は、BNO申請資格のない303万人(603-300)と、若者134万人のうち親がこの303万人に含まれる若者=比率推定で67万人、となり合計は約370万人。この中に移民180万人と外国旅券保持者80万人がいるので、救済されない香港人は150万人ほどか(ちなみに60歳以上は180万人)。

彼らにも何らか救済策がないものかと思うが、こんな話もある。それは台湾で働く筆者の知人の日本人のこと。彼は日本企業の香港支社に就職し、香港人の妻がいる。今は台湾支社への転勤で単身赴任し、毎月本人か奥様が台湾と香港を行き来していたが、コロナ騒ぎで往来が儘ならなくなった。

彼の話では、奥様もそのご両親も泰然自若の体だそうだ。つまり、市井でひっそり暮らす分には何ということはないと。如何にも、ここ2千年の中国史で漢族王朝の統治はほんの7百年、残りは北方の鮮卑(隋・唐)、蒙古(元)、女真(清)に支配された民族の末裔らしい諦観ぶり。

よって、若者も含めた香港脱出の受け皿の形だけは一応整ったようだ。

最後は中国の反応。このところ中国は、米国による香港やウイグルやファーウェイに係る数々の制裁措置のみならず、英豪加に最近では仏も加わった対中政策、すなわちファイブアイズ+仏の対中政策に対して過敏かつ反射的に反応し、あたかも「パブロフの犬」の様相だ。

天安門広場(写真AC)

余りに頻繁なので書き切れないが、新しいところではヒューストンの中国総領事館閉鎖命令に対抗した成都の米総領事館に閉鎖通知や、中国の在米官製メディアのエージェント指定に対抗した米メディアの記者追放などがある。どれも内政干渉や国際法違反、そして相互主義の常套句付きだ。

だが、反米の米国メディア、つまり味方まで追放してしまうあたりは、如何にも過敏かつ反射的に過ぎる。生中でもともかく相互主義で反応してしまうパブロフ犬国家らしい。今回の英国の措置に対しても、とりあえず反射的に中国外務省から中身の薄いコメントが出た。

22日の産経によれば、汪外務省報道官が23日の会見で「英国が香港と中国内政にみだりに干渉している」と非難、香港人が保有する「英国海外市民(BNO)」の旅券の無効化を検討すると述べたという。が、BNO旅券を無効化すると、どういう理屈で英国への対抗措置になるのか筆者にはピンと来ない。

そのあたり、産経には「無効化措置が実施されれば同旅券を使って香港から海外に出ることなどが不可能になるとみられるが、汪氏は具体策については明らかにしなかった。香港政府が発行する旅券もあり、同措置による具体的な影響は現時点で明らかでない」と書いてある。

仕方がないので環球時報を当ってみた。23日夕方の同紙の見出しは「China may not recognize BNO passport as viable travel document」。「may」とあるから、まだどうするか決めかねているらしい。

ただし「The act would mean that people holding BNO passports could not visit the Chinese mainland」とあるので、BNO旅券で大陸に行くとは出来なくするようだ。同紙は代わりに、駐英中国大使館報道官と中国社会科学院政治学院の研究員を登場させ、その口から次のように語らせている。

大使館報道官は、英国は中英間の覚書*で、香港に居住する中国市民であるBNO旅券保持者が英国に居住する権利を持たないことを明示的に誓約したとし、英国の措置は中国の内政に干渉し、国際法と国際関係を規定する基本規範に違反だとした(*84年の英中共同宣言)。

研究員は、香港人がBNO旅券保持を選択すれば、香港行政区旅券を放棄させねばならないとし、中英には緊密な経済関係があり、BNOや華為など政治主導の挑発は英国の利益を害するが、英国はそれを犠牲にしても米国の足跡をたどる決意で、ファイブアイズで中国の内政に露骨に干渉する一連の協調行為を行ったと指摘した。

香港人が拒否した国家安全維持法を頭ごなしに施行することで、自ら反故にした英中共同宣言を、英国非難に持ち出すとは見事な鉄面皮。だが、民間人に英国の心配まで殊更に口に出させるあたりが、実は本音のところで、北京が大いに困惑していることの証左のように思う。

とはいえ「パブロフの犬」よろしく反応しているうちは良いが、肉を切らせて骨を断つ覚悟をしているらしいファイブアイズに、そのうち共産中国は息の根を止められるのではあるまいか。

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