外食産業はどこまでAI化できる?松田公太氏が挑む“日本型革新”

新田 哲史

アゴラでもおなじみ松田公太さんのお誘いで、きのう(7月27日)、松田さん経営のEGGS ‘N THINGS JAPAN(エッグスシングスジャパン)の記者会見に参加してきた。パンケーキでおなじみの同社が、AIスタートアップのウェルヴィルと共同開発しているアフターコロナ時代の次世代型店舗の構想について発表するという触れ込みだった。(新田哲史)

最大の目玉は、10月に実証実験を予定している非接触型のAIアパターレジだ。コロナ対策とあってタッチパネルではなく、アパター店員との口頭でのやりとりで注文する。百聞は一見にしかずなので動画でその性能をみてもらいたいが、来店客の性別、年齢を把握して的確なサジェストが可能。学習機能もあるので、店舗ごとの特性や、お客が話した内容で理解できなかったものはアップデートもするという。

コロナ前からの三重苦が転機に

松田さんといえば、コロナ禍に見舞われた新興の外食チェーンの経営者仲間たちと一緒にテナント賃料の問題を、政治側に訴えかけたことは記憶に新しい。緊急事態宣言からの4か月弱でコロナ時代の店舗機械化を進めるスピード感すごい…と一瞬思いかけたが、2年前に開発のための新しい会社を立ち上げるなどして準備していたのだという。

政界から民間に戻った4年前の時点で、外食産業の現場は深刻な人手不足に陥っていたことは周知のとおり。牛丼チェーンがバイト店員を確保できずに店舗を閉鎖するというニュースもあった。さらに2年前ほどから、松田さんが「人件費が高騰し、原材料費も上がる。そして消費税増税という三重苦」と振り返るように苦境はピークに達し、「こうなると生産性をなんとかあげないといけない」という段階だった

一方で、外食産業の利益率は、リーマンショック直後の2010年も、アベノミクス景気の最中だった2015年も4%程度で変わっていないことからも明らかだが(参照:みずほ銀行レポート)、外食産業の生産性の低さは、人手を要する業界特有の構造問題だった。

みずほ銀行「外食企業の現状と今後の戦略の方向性」より

先日、ツイッターで、回転寿司のチェーン店が優秀な新卒に年収1000万円を幹部候補生として採用することを紹介した記事が話題になっていたが、田端進太郎氏が「この程度の収入で耳目を集めてしまうほど、飲食は生産性の低い業界だと自ら示してしまった」と評したように、生産性の高いIT系の人たちから見ると、それだけ深刻ともいえる。

そうした構造問題は松田さんも当然、タリーズ創業時には店舗に立っていたから痛感していたが、大きな要因はテクノロジーの実装の遅れだ。1970年代にアメリカでPOSシステム(販売時点情報管理)が開発されて以降、「POSを上回る技術革新があったとは言い難い」(松田さん)状況で、近年の苦境、そしてコロナに直面してこの状況を打開することが迫られていたようだ。

松田氏が中国視察で覚えた違和感…めざす日本型DXとは

この日の記者会見では、AIアパターレジ以外にも、事前注文システムや、お客さんのテーブル席を店員がわざわざ探さなくても、注文したメニューを運べるシステムなど、すでに導入が始まった技術が披露されていた。特にこのカスタマートラッキングシステムはなかなか目を引いた。

反面、店員がすべてロボット化してしまうとなると、「早く、安く」食事を済ませたい日常的・庶民的な店舗ならいざしらず、価格帯の上がった店舗で、ホスピタリティが軽視されるのは、ちょっと味気ない。

昨年のベストセラー「アフターデジタル」でも取り上げられた中国では、まさにそうしたロボット化、AI化が進んでいるが、タリーズ時代にバリスタに対して、「お客の目をみて心を込めてコーヒーを入れてください」と指導していた松田さんも中国を視察した際に、違和感を拭えなかったようだ。

「ロボットがベルトコンベアーのようにすべて(オーダーを)運んでくる仕組みにすると、(お客からすれば)なんのために飲食店にきたのか。デリバリーでいいじゃないか、となってしまう」

人の手を介する部分にはこだわったという。実際、この日発表されたものをみると、店員を、レジ計算やテーブル探しといった“雑務”から開放し、接客に集中させる狙いが感じ取れた。人間とテクノロジーの役割分担を合理的に行い、温かみを残すあたりは日本流のテクノロジー実装といえるかもしれない。今後、他社にもシステムを販売し、外食産業のDXの一翼を担う構えだ。

記者会見した松田公太さん(中央)、ウェルヴィルの樽井俊行CTO(右)、ITシステム販売レターの久木田敬志代表取締役