「平壌冷麺」凌ぐ「ウィーン冷麺」の話

朝鮮日報日本語版(8月2日)に「私は平壌冷麺を知らない」というタイトルのコラムが掲載されていた。「平壌冷麺」は韓国動乱時に北から逃げてきた避難民が南に広げていった、という定説があるが、朝鮮日報のコラムニストは自身の親族関係者の証言などを集め、「韓国動乱前から『平壌冷麺』は朝鮮半島全土に広まっていた」と検証している。

▲自家製「ウィーン冷麺」(2020年8月1日、撮影)

▲自家製「ウィーン冷麺」(2020年8月1日、撮影)

当方は「平壌冷麺を知らない」だけではなく、食べたことがない。故金正日総書記が日本や韓国からのゲストに「平壌冷麺」で接待したという話は聞いたことがある。北朝鮮が誇る夏の料理だ。

ところで、「平壌冷麺」についてあれこれと書けないが、最近「ウィーン冷麺」を食べた。その味に感動したばかりだったので、朝鮮半島の「平壌冷麺」の記事がいやが上にも当方の目に飛び込んできたわけだ。

ウィーンは前日のコラムでも書いたが、音楽の都であり、ベートーヴェンからモーツァルトまで世界のクラシック音楽をリードした大作曲家を輩出し、多くの名曲を世に出した街として有名だが、そのウイーンで「ウィーン冷麺」が堪能できるとは考えてもいなかった。それだけに食卓のテーブルに運ばれた「ウィーン冷麺」を見て驚いた。箸で冷麺を取り、口に運んだ時、口の中に広がる冷麺とその汁のコンビネーションに思わず「美味い!」と呟いた。

そこでわが家の自家製「ウィーン冷麺」について簡単に紹介する。「ウィーン冷麺」はもちろん冷麺の質が大切だ。小麦粉から手作りで作れるが、 今回はアマゾンから日本製のラーメン麺を注文した。その蒸し麺を熱い湯で数分煮るだけでOK。煮込み過ぎないように注意しなければならない。次は冷麺につける具造りだ。スーパーで買ったハムを千切りにし、キューリと卵焼きなども千切りにする。蒸し海老があれば、もっといい。

しょうゆ、砂糖 酢、塩、ごま油を混ぜたかけ汁をさっと沸騰させ、冷やしておく。最後は深皿に麺、具をのせ、そこに汁をかければ、「ウィーン冷麺」が出来上がる。家人は“本当の冷麺は冷えたスープをたっぷりかけたもの、これは冷やし中華”とこだわるが 当方にとっては同じだ。

日本は長い梅雨がようやく開けたという。暑い本格的な夏が始まる。日本では気温だけではなく湿気もあるから、夏に食欲を維持して、体力を保つことが大切となる。その意味で酢入りの“冷麺”は夏用の最適のメニューだ。シュ二ツェルもいいが、冷麺のような食事があれば最高だろう、と思っていた。

その願いを適えてくれたのはアマゾンだ。家人がアマゾンサイトに日本の食材も載っているのを見つけたのだ。新型コロナウイルスの感染拡大もあってスーパーで買い物するのも危険が伴うから、オンラインで注文する人が増えている。

そこで当方宅も今年3月、日本食の食材をアマゾンで注文しようとしたところ、日本製ラーメンなど日本食品はいずれも完配で在庫がないという。5月に入って、日本食品の食材がアマゾンのオンライリストに載ったので、なくならない前に早速注文した。

それにしても、アマゾンは食糧や機材などあらゆる分野の商品を配達している。スゴイ会社だ。「ウィーン冷麺」を食べながらアマゾンに感謝する思いすら湧いてきた。

アマゾンの宣伝ではないが、ポスト配達人より、アマゾンの配達人のほうが責任感がある。商品を消費者に無事届けるという基本的な仕事に対し非常に忠実だ。迅速な配達に全力に取り込んでいるのだ。ポストの配達人にはそれが少々かけてきたのを感じる。

「ウィーン冷麺」の話に戻る。朝鮮日報のコラムの筆者、金時徳ソウル大学奎章閣韓国学研究院教授によると、冷麺は本来、冬の料理だったが、それが夏の料理になったのは、「調味料メーカーの味の素が開発したうま味調味料、そして冷蔵庫の普及だった」という。

日本の読者の方は「当方氏はなぜ冷麺一つで感動しているのか」と首を傾げるかもしれない。海外に長期在留していると日本食が恋しくなる。歳を取ればその傾向が強まってくるが、現地で購入できる日本食は限られているし、値段も日本の平均2倍以上高いから、日本食ばかり食べられない。YouTubeで日本食を紹介している動画をみると「日本は既に食事分野では天国だ」と感じる。世界のあらゆる名産、名物、食材が手に入り、味もひょっとしたら現地のより旨いほどだ。その料理の多様性、健康志向には脱帽せざるを得ない。毎日、納豆を食べれば健康にいいのは分かっているが、毎日、朝食に納豆を食べるということは、海外長期在留邦人にとって夢の夢だ。

家人の「ウィーン冷麺」はおいしかった。新型コロナ感染の不安を吹っ飛ばし、夏負けしないためにも、「ウィーン冷麺」を何度も食したいものだ。そして可能ならば、噂の「平壌冷麺」に一度お目にかかりたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。