徴用工問題は政府間問題として解決すべき

岡本 裕明

大法院判決当時のKBSニュースより

韓国の最高裁にあたる大法院が日本製鉄に対して強制徴用被害者一人当たり1億ウォン(900万円)の支払いを命じた裁判で8月4日午前0時「公示送達」の効力が生じました。公示送達とは相手が海外に居住するなどして文書を直接渡したことを証明できない場合の代替手段であり、あたかも書類を渡した形となり裁判が一歩進むことを言います。

これですぐに日本製鉄が持つポスコとの合弁会社、PNRの株式を売却し、現金化できるかといえばそんな簡単な手続きではなく、更に何段階も査定や手続きが待っています。そして日本製鉄は即時抗告を行いますからどんなに順調に進んでも売却ができるまでは年末までかかるとされています。

日本政府が必死にこの問題の対抗策を考えているのは今回の訴訟は他に70社以上も同様の訴訟を抱え込む中の一つでしかなく、仮にこの問題が日本側に不利な結果になれば他も同様ということになりかねずその影響は計り知れないものがあるからです。

日本側のスタンスは1965年の日韓請求権協定で解決済みの姿勢であります。韓国もそもそもはそういう姿勢だったのですが、同国の裁判所が近年になり個人の請求権はそれに含まれていないと判断し、日本側との対立を加速させているのであります。(その背景の一部には日本の外務省の立ち位置や国会の答弁の記録にもあります。安倍首相がコリアスクール(韓国専門外交官)を次々と更迭し、コリアの専門家ではない人たちを韓国担当にしているのは厳しいスタンスを取るための人事戦略とみています。)

日韓請求権協定は日本政府が無償3億ドル有償2億ドル、民間が融資3億ドルという破格の援助を行ったものであり、それにはすべて含まれるという合意でありました。ただ、貰った韓国側はその詳細を国民に知らさずに多くを国の復興費に充ててしまい、本来個人補償されるべき枠もどこかに消えてしまったというのが乱暴な説明ですがわかりやすいものだろうと思います。

韓国は1961年には朝鮮戦争の疲弊もあり、国庫が尽きており、どうにも国家再建が進まない状態でありました。それが上記協定により多額の資金へのアクセスが生まれたのです。「漢江の奇跡」を経て今日の韓国が出来たのは100歩譲っても65年の日韓請求権協定が韓国を救い、現在の経済的地位を作り出すことになったことに疑いの余地がないのです。感謝こそされど吠えらえる理由は毛頭ないのです。

韓国大法院大法廷(公式サイト)

ところが韓国の裁判所は情緒法と揶揄される時の政権や世論によりどんな常識も非常識に、どんな非常識も常識に変えることができる得意技を持っています。それを駆使し、日本に「あの時の協定には個人補償は入っていなかった」と今になって訴えているわけです。国民に対して政府がきちんと日本の評価をせず、復讐の教育ばかりをしたそもそもの立ち位置はあまりにも貧弱な思想だったといわざるを得ません。

徴用工問題に関し、日本政府の再三の反論に対して韓国政府は「検討する」という空手形が続きます。理由は簡単で三権分立を尊重することから司法の判断に政治は介入しないという文大統領の決め台詞があるからです。同様のことは2011年の慰安婦裁判も同じでした。つまり、司法を盾に何もしないと決め込んでいるのです。

私は昨年5月に徴用工裁判を受けている日本企業が日本政府を訴訟し、日本政府が形式上、敗訴し、その請求権をいったん引き受け、韓国政府とバトルするというアイディアを提案しました。ぶっ飛んでいる発想ですが、まず裁判ですから責任所在を明白にするために、本件が民間企業の責任に値する事象ではなく、政府交渉をすべき案件なのでその対象を切り替える方策の一つとして考えたわけです。

今、日韓双方、手の内の読みあいとなり、報復合戦が展開される可能性が高まっています。しかし、これでは米中バトルと同じことになり、日本が今、これでエネルギーを使っている場合ではないとみています。よって究極的解決手段として日韓政府が「超法規的解決」を行うしかないと思います。

超法規的解決とは法律や従来の判断を曲げて国家間紛争を解決するわけですから韓国の大法院の判決は否定しない形で本件を解決できるわけです。ただし、今の段階では日本に譲歩するものがありません。よって日韓報復バトルとなった時、その解決策としては使えるかもしれません。

大事なことはこれは当事者である現政権が現存のうちに解決すべきことであります。仮に石破茂氏が首相になれば全く違う色合いとなりそれまでの戦略はほとんど崩れてしまう公算があります。トランプ氏とバイデン氏の対中問題の温度差のようなものです。

問題の解決策を示すのは韓国側ですのでそのお手並みを拝見することになりますが、日本側もそう時間が残っているわけではないことには留意すべきかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年8月4日の記事より転載させていただきました。