5500億円のODAは誰のため?モザンビークの住民反対で事業断念

牧野 佐千子

JICA(国際協力機構)が2009年からアフリカ・モザンビークで行ってきた大規模な農業支援事業「プロサバンナ事業」が7月、「終了」した。モザンビーク北部の小規模農家の土地を大豆など輸出作物用の大規模農業に転換させることで、400万人の生活が向上する」と謳い、モザンビーク・日本・ブラジルの3か国の政府が進めてきた事業だ。

モザンビークの首都、マプト©️Farah Nabil

プロサバンナ事業は、年間5500億円の予算を費やす政府開発援助(ODA)の一環。外務省によると、「ODAは、開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動のことで、そのための公的資金をODAという」とのこと。ただ、実態は、開発事業により現地の人の生活が壊されてしまったと行政訴訟などに至るケースも多く、ODAのあり方を見直す必要があるといった意見も多い。

モザンビークの農民とともに事業の問題を指摘してきたNGO「日本国際ボランティアセンター(JVC)」などは3日、参議院議員会館で記者会見を開いた。

JVCの渡辺直子さんは「この事業は、現地の小規模農家の土地を奪うことになる計画で、その抵抗をそぐための活動。終了ではなく、現地の方の活動によってJICAと外務省は断念に追い込まれた」と勝利宣言。事業の主体である3政府が、これまで現地農民に説明せず事業を進めてきたことにより、「知る権利の侵害」との違憲判決が2018年に現地で出されたこと(被告はモザンビーク農業省)、JICAによる反対派農民への名誉棄損行為など反対運動をやめさせようとする圧力があったことなど、計画が「断念に至った」とするこれまでの経緯を説明した。

オンラインで会見に参加したモザンビークの農民団体代表コスタ・エステバンさん

オンラインで会見に参加したモザンビークの農民団体代表コスタ・エステバンさん(53)は、家族7人で農業を行い、キャッサバや葉物の野菜などを育てているという。「我々は土地を通して生きている、土地を失うのは死を意味している」と語り、今回のプロサバンナ事業の終了については「小規模農家の声を聴いてくれて、3政府には感謝したい」と話した。

ただ、「今回は勝ったが、今後、政府がどのようなプログラムで土地を奪おうとするかわからない。いろいろな投資家が、我々の土地を狙って入ってきている。気を付けながら生産を続けたい」と、政府や外部からの投資家への不信感は根強い。

今回の事業の終了は、モザンビークの大統領と現地駐在の日本大使による会談の中で確認されたという形だ(外務省サイト「木村大使とニュシ大統領の会談」7月21日)。

JICAの関係者は、「あくまで『終了』なので、何か問題があって断念した、という形ではない。通常のプロジェクトの終了と同じ位置づけなのではないか」との見解を示している。これまでにすでに35億円もの大金が使われてきたこの事業。JICA側はプロジェクトの「終了」とし、裨益者である現地の人たちは「断念」に追い込まれたとする。

しかし、なぜ終了したのか、35億円は何に使われてきたのか、については曖昧なままだ。

当事者同士の問題認識のずれがあっては、今後も問題は曖昧にされ続け、ほかのODA事業でも同じようなことの繰り返しになってしまうのではないだろうか。

この問題に取り組んできた福島瑞穂・参議院議員(社民党)によると、「外務省の担当者は、これ以上プロサバンナ計画にお金をかけるつもりはない。これで終了だ」と話したといい、3年をめどに、JICAが事業についての調査報告書を完成させる予定だという。JICAが、どのような評価をして事業を終わらせたとするのか注目していきたい。