韓国の不動産バブル

岡本 裕明

コロナ禍で不況であるのは韓国も同じなのですが、なぜか韓国、特にソウルの不動産がバブル化し、社会問題になり、政権を揺るがし、先週にはその対策を放置した文大統領に反旗なのか、首席秘書官6名が一斉に辞任表明するという事態になっています。いったい何がそうさせているのでしょうか?

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

韓国の話をする前に日本の首都圏のコロナ前までの不動産を見るとおおむね2009年の㎡単価から2018-19年ごろにかけて約30%上昇し、高値圏にありました。ところがコロナですっかり状況が変わり、業界が発表する月々の価格変動は6月まで4カ月連続の減となっています。また、豪雨被害のあったタワーマンション問題が昨年起きたこと、オリンピックに便乗した湾岸地区のマンションブームが腰折れしていること、相続税対策で高層階の高額マンションを購入するブームは当局の対抗策もあり、沈静化しています。

日本ではこの10年、不動産で儲けようという露骨な感じは一部富裕層を除きかつてほど派手な動きはなかったのですが、公示価格や路線価の発表のたびに価値がじわじわと上昇しており、長期的に見ればなるほど高くなったな、という程度でした。

では韓国ではなぜそれほど話題になっているのでしょうか?ソウルあたりみるとこの8年で不動産価格の指標的には約5割上昇、個別の不動産では2倍ぐらいになるものも出てきています。韓国経済はそもそも日本と中国に挟まれ、伸び悩む展開が続き、各地でストライキが起きていたというイメージが強かったと思います。ただ、持っている人は持っているものでそのような投資家、資産家、高額所得者が運用の一環として市場参入したことは一つあるでしょう。この点は日本とも一致する部分かと思います。

次に韓国の長期的な低金利傾向が見て取れます。2012年は政策金利が3.0%でありましたが、じわじわと下がり、現在では0.5%となっています。低金利は不動産投資については非常に有利でありますが、政策金利の低下=経済の低迷とは裏腹に不動産価格が上昇するという基盤は韓国独特の賃貸不動産システムを背景に生まれた可能性をみています。つまり、チョンセとウォルセであり、それが影響しているのではないかと考えています。

韓国で賃貸住宅を借りる時、日本と同様の月々の賃料を払うのがウォルセですが、伝統的にポピュラーなのがチョンセという高額の保証金を払う代わりに賃料を払わない仕組みです。高額の保証金とはいくらなのか、といえば概ね不動産物件の半分程度、つまり、一般集合住宅なら1000万円から数千万円ぐらいでありました。大家はこの保証金を運用し、運用利益を家賃と同等とみなしていたわけです。

ところが前述のように政策金利が0.5%にもなれば預金金利による運用益は出ません。そこでチョンセの相場が不動産物件の半分程度から8割程度に上がったわけです。

そうするとどうなるか、チョンセのために銀行借り入れするなら自分で買った方がいい、ということなのであります。借主からすればチョンセは非常に都合の良い仕組みで保証金を積めば家賃は払わないという社会通念的にも非常に不思議な仕組みです。いかんせん、家賃を払うという習慣がないため、ウォルセの物件を借りるという行動に移せないのであります。

世間の不満が政権支持率に直に響きやすい韓国では不動産価格の上昇が文大統領のごく最近の支持率低下のひとつの理由ではないかとみる向きはあります。そのため、政権の主題の一つにも挙がっており、価格高騰を抑えるための政策を次々に発表、供給を増やし、投機目的の不動産購入を絞りこむようにしています。更に青瓦台(大統領府)の秘書官級以上の高官に2軒以上持っている人は1軒売却せよとまずは身内から清めることを強いる等、不動産価格上昇を抑えるのに躍起なのであります。

ただ厳密にいえば韓国で上がっているのは不動産だけではなく、株式市場も非常に堅調で3月の安値から現在まで約47%上昇しています。ゴルフ場会員権なども上昇しているとされ、日本がかつて経験したバブルほどではないにせよ、個人の小金持ちが資金をぐるぐる回してそこそこの資産を蓄えているという感じに見えます。可能性は株式市場の「チョンセバブル」ということでしょうか?

経済全体は冴えないのに株、不動産が上がるという奇妙な状況は世界的に見れば同じ枠組みであり、低金利の恵みということになりますが、韓国は日本より少子化が進んでいるし、地政学的リスクもはるかに高いはずです。韓国の不動産は一種のバブルなのでしょうか?私はかつての日本のゴルフ場会員権相場の崩壊がどうもオーバーラップするのでありますがさていかに。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年8月10日の記事より転載させていただきました。