香港の国安法は現代の文化大革命か?

中国の文化大革命を知っている人はどれぐらいるでしょうか?聞いたことがあるという程度の方が多いかもしれません。1966年から76年に毛沢東主席が唱えた社会主義文化を推進するための運動でしたが、大躍進政策の失敗の背景や「四人組」の出現、更には若者が紅衛兵と称する民兵組織を作り上げ、知識人や資本家をつるし上げ、おまけに林彪事件と近年の中国の歴史が凝縮されており、恐怖の10年ともされます。

文化大革命による死者は数十万人から1000万人を超えるとの推計もあり、被害者は1億人ともいわれます。さほど昔の話ではないのになぜ情報がこれほど不明確なのかといえばすべてを隠し通したためで、当時、広い中国全体で何が起きているか知っている者はあまりいなかったというのが実情であります。文革後も文革に関する書籍などの発刊は厳しく制限され、その実情は長くベールに包まれていました。中高年齢の本土出身で資本家や知識層の方に文革の話を振れば嫌な顔をされるのは思い出したくもない悲惨な時であったからです。

文革の怖さは一言でいうなら政府の方針に対する市民層の過激なまでの同調であります。特に紅衛兵になった若者は「造反有理(=謀反にこそ、道理がある)」と叫び、インターナショナルを歌い、家々を憲兵のごとくチェックし、反革命者を徹底的につるし上げ、三角帽子をかぶせ、自己批判を人前でさせました。ある意味、中国人のメンタリティなのかもしれませんが、異様なほどの団結力で犯人を仕立て上げ、捕まえ、さらすことに強い正義感を持つところはその後の尖閣問題に伴う反日運動を含め、膨張的であるともいえます。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

さてここにきて香港に対して国家安全法を施行した中国は香港の民主化の芽を完全に潰す行動に打って出ました。活動家と称される若者、メディアを抑え、逮捕し、謀反には力で応酬するという恐怖政治を堂々と実行し始めたのです。この手法は文化大革命の時に重なるものがあります。

今回は民主活動家の周庭(アグネス チョウ)さんや民主派の新聞、アップルデイリーの創業者、黎智英(ジミー ライ)氏らを逮捕(現在は保釈)しました。いずれも国家安全維持法の違反であります。また、香港議会は選挙を1年延期し、現職議員4名について強い民主派思想があるとして次回選挙の立候補資格を取消されているほか、当局が立候補者の身体検査を通じて徹底的な弾圧を行うものと思われます。

文化大革命と今回の香港民主化運動の最も大きな違いは前回が誰も全体像を知ることのできない断片話の集積であったのに対し、今回は香港という開かれた街での運動だけに中国側の一挙一動が即座に世界中に伝わります。アメリカをはじめ、民主化運動でタグを組むファイブアイズ(米、英、加、豪、乳)が監視の目をより強化し、メディアを通じて世界に広く中国の蛮行を知らしめています。

勿論、世界には悪政が続く国家は今日に至ってもいくらでもあります。直近ではベラルーシでルカシェンコ氏が大統領選で6選となり、国民は猛反発しています。爆破事故を起こしたレバノンは既に破綻国家です。国家としてまともに統治されていないところは主に小国で経済的問題、貧困問題などを抱え、賄賂、汚職が蔓延しているところが多いのが事実です。

しかし、中国は世界で第二の経済大国であり、大国としての手本を示すべきでありながら国民の思想の自由、統治への参加の自由、民主的決議についてそれを一切否定し、挙句の果てには情報のコントロールを行い、徹底的な監視社会を作り出しています。

この問題は西側諸国は決してあきらめないし、長く厳しい戦いが続くことになりそうです。今後、南シナ海問題より台湾がその橋頭保になる可能性すらあります。

グローバル化の反動は欧州で起き、英国のEU離脱となりました。今回は香港を舞台に米中の激しい戦いを通じて地球儀のデカップリング化が起きようとしているのでしょうか?日本は踏み絵を迫られるのでしょうか?日本人は島国であることも手伝い、世界情勢問題には比較的無頓着でありましたが香港が直面している問題は我々も相当の緊張感をもって考える必要がありそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年8月12日の記事より転載させていただきました。