米副大統領候補の人選から学ぶ日本の政治人材の貧困

2020年08月14日 06:00

米大統領選でトランプ氏に挑む民主党のバイデン氏(77)がいかにも頼りなさげと思っていましたら、副大統領候補選びで大胆な選択をしました。選ばれた黒人女性のカマラ・ハリス上院議員(55)は、一期で退任しそうな高齢のバイデン氏の後任大統領の可能性が十分にあるといいます。

本人公式Facebookより

米国の多様性、バイタリティには感動します。初の黒人大統領になったオバマ氏は、実の父親の出身国がアフリカ・ケニアでした。ケニアで暮らす祖母が、当選祝いを述べる映像がテレビに流れ、「えっ、アメリカとケニアの組み合わせ。これがアメリカの実像なのだ」と、思った人は多いでしょう。

白人が有権者の67%を占める米国であっても、非白人が増加していることもあり、国の将来を考える上では、人種にこだわらない選択を決断する。ハリス氏はジャマイカ系の父、インド系の母を持つ。人種の血が混ざると有能な人材が誕生することが少なくない。風貌もエネルギッシュで野心家的です。

野心的な人材が政界に流入し、頂点を目指す。米国政治のドラマを見せつけられ、それに対比して感じるのは、日本政界の沈滞、淀みです。2世、3世の世襲議員が自民党政治の骨格をなす。県や市よりも小さな選挙区(小選挙区)で戦っていればよく、政治家の小型化が進んでいます。

日本の長期的な経済停滞は、政治の淀みに起因するような気がしてなりません。そうした視点からの問題提起を怠る政治ジャーナリズムも、同様に沈滞しています。

世論調査(読売、8/10)によると、「次の首相はだれがふさわしいか」の答えは、石破茂24%、小泉進次郎16%、河野太郎13%、安倍晋三12%などで、全員が世襲議員です。世襲主義の問題点を政治ジャーナリズムは書かない。反安倍か、親安倍か、あら探しにばかり励んでいます。

将来の女性首相候補となると、政治記事には、稲田朋美、小渕優子らの名前が登場します。国会対応のまずさ、政治資金でのつまずき、指導力のなさなどで、とても首相になれる器でないのに、記事に登場してくる。「女性重視の時代だし、とりあえず書いておこう」という程度の意識なのでしょう。

民主党の副大統領候補に名を連ねたハリス氏ほか、ライス元大統領補佐官、ウオーレンら複数の上院議員、州知事のリストには、多彩で迫力を感じました。将来の大統領候補にもなるわけで、小粒ばかりの日本の女性議員とは比較になりません。

米国は2世、3世といっても、移民の第2、第3世代が大統領、副大統領を目指す。白人が移住して建国したのが米国ですから、それがまた可能な社会です。「史上最悪の大統領を選んでしまった」と酷評されるトランプ大統領は、父親がドイツからの移民です。それを白人の大統領候補と黒人の副大統領候補が組んで、排除しようとする。

バイデン氏公式ツイッターより

直接選挙の米大統領選と、間接選挙の日本の首相選びは、同列に論じることはできないにしても、日米の政界構造、政治体質を考察する絶好の機会のはずです。日本のメディアは、そういう視点で論じることはまずしない。13日の朝刊各紙を見ても、米国だけのことしか書いていない。

米国のことは米国駐在の記者が書きますから、米国を論じるのが精いっぱいなのか。ワシントン支局に配属されている政治部記者は、それができるはずなのにしない。政治家、政党と一体化し、いわば政界のインサイダーに陥っていることが多く、問題提起をしたがらない。

さらに日本のメディアは、独特の体質を持っています。経済、社会がグローバル化しているのに、役員も記者もほとんどが日本人という特異な企業体です。タレントを使ったり、外電や外国人識者の寄稿は使ったりしても、外国人を記者として採用し、彼らの目で記事を書かせることはしない。

日本の世襲主義の政治は、外部からの政治人材の流入を阻んでいます。海外の情報はありあまるほど取り入れるのに、外国人をジャーナリストとして採用しない。戦後70数年、全国紙はずっと数紙のまま、地方紙は一県一紙のままという閉鎖的な空間です。新陳代謝がなく、外部からの新規の参入もありませんでした。

米国の話に戻ります。ハリス氏は、法科大学院を卒業して、カリフォルニア州の地区検察官を経て、州の司法長官、さらに17年に上院議員になり、そして今回の大役です。地方で経験を積み、上院議員や知事になり、国家の中心のワシントンを目指すという流れは日本の参考になります。

日本でも、新型コロナウイルスの危機で、連日のように、地方知事、市長らの活躍が報道されます。知事らには多彩な人材が存在している。そのこと教えてくれるのは新しい発見です。危機対応の力量の比較もできる。知事らにケチをつけることに励む識者が目立ちます。

当選を重ねやすい小選挙区制と、政治家業化した世襲政治の弊害を打破する上で、彼らが中央政界に参入し、新風を吹き込んでくれることを期待します。そうした議論が起きてほしい。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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