目先の損得より長期的な目線で

我々の厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っている厚生労働省所管の独立行政法人年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、このコロナ渦で史上最高の黒字を出しています。
その黒字額がいくらかというと、今年4月から6月の四半期で12兆4868億円の黒字なんですね。4月から6月といえばまさにコロナで自粛期間中でした。

同じ4月から6月の四半期の企業決算が先週の新聞にはたくさん出ていましたけれども、軒並み赤字でした。全日空で1088億円、日本航空で937億円、JR東日本で836億円、日産で2856億円、住友商事で410億円、三越伊勢丹で305億円、パナソニックで98億円、電通が12億円と、交通事業者は当たり前の赤字ですけれども、それ以外の広い業種に渡ってすごい赤字になってます。

GPIFの方はというと、3月末の運用資産は約150兆6332億円でした。それが先ほど言ったように、3ヶ月で12兆4868億円増えているので、6月末には約162兆926億円になっています。なんと収益率は8.3%です。もちろん、資産が増えたからといって我々が将来もらう年金額が増えるわけではありませんが、下がっていたら心配になりますよね。

では、なぜ増えたのかというと、新型コロナウイルスの感染拡大で株価が暴落しました。世界的に急落する直前の2月21日の日経平均は2万3386円74銭でした。その後、日本銀行をはじめ、各国の中央銀行が金融緩和策を発表し、さらには各国政府が生活支援や経済対策を打ち出しました。これによって株式市場は落ち着きを取り戻して次第に株価が上がっていき、6月末にはだいたいコロナ前の7〜8割に戻していました。

GPIFの運用は、国内外の債券で約半分、株式で約半分なので、そのうち株式がどんどん上がっていったことでGPIFの運用は黒字になったわけです。
ここまで話すと、察しの良い方はお気づきの通りで、だったらその前の1月から3月の前の四半期は株価がドーンと下がってるから赤字じゃないかということです。もちろん、答えはその通りです。なんと17兆7072億円の赤字でした。

ということはですよ、今年になってからで言えば、17兆円の赤字から12兆円の黒字になったって、明らかに5兆円の赤字じゃないかと思うでしょう。トータルで考えろということであれば、GPIFが運用管理を始めた平成13年からのトータルで見てみると、なんと70兆円の黒字で、利回りは2.97%とかなり優秀です。これ短期的に儲けようとする株式投資と比較をするとわかりやすいと思います。GPIFの場合、運用しているのは年金の積立金ですから当然長期的に考えます。そうすると、いい時の業績ではなく、しっかりと安定的に成長する銘柄に投資しています。

以前、「ペットボトルの回収で0.2円ゲット!(2020.03.18)」でESG投資について説明しました。環境(Environment)と社会(Social)と社員満足度、ガバナンス(Governance)の高い会社に投資をする、それがESG投資ですが、今そういう会社が評価されています。逆に利益至上主義で、株主還元を優先している会社の株価は下がっています。なぜならば、目先の利益を取りに行っている会社はこの危機を乗り切れない、逆にESG投資を大切にしている会社には体力があり、これから先も強いと考えられるからです。

実は、GPIFはESG投資をしている世界最大の投資機関なんです。やはり目先の損得よりも長期的に物事を考えることが大事ですね。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。