スペインで就労人口の4割が失業の現実

白石 和幸

ヨーロッパの主要各国が第2四半期のGDPを発表した。ドイツのGDP10.1%減、フランス13.8%減、イタリア10%減という最悪の景気後退を示した。

jonRo/Flickr

英国が抜けたEUで経済規模4位のスペインは18.5%減という非常に厳しい結果となった。(参照:elpais.com

観光立国であるスペインがこの四半期だけでホテルや飲食業界を始め商業並びに運輸部門がそれぞれ40%落ち込んだというのが、正にスペイン経済の急落を招いたものだ。更に、消費も22%の落ち込みとなった。

この景気の後退に伴ってスペインの雇用は深刻な事態を招いている。スペインはEUの中でもともと雇用事情は悪い国で失業率はギリシアに次いで2番目に高い国である。それがこの景気の急落によって、雇用事情は最悪の事態を招いている。

現在職に就いていない人たちが就労人口の40%に達しているのである。この内容を以下に詳細に説明する必要があるが、単純に考えても働ける人の内の10人につき4人が職に就いていないというのは異常でしかない。1929年の世界恐慌の時でもこれほど悪い雇用事情にはなかったように思える。地下経済で働こうとしても、このパンデミックで地下経済でも職場が減っている。

現在のスペインの就労人口はおよそ2300万人。コロナパンデミックの前の時点での失業者は336万8000人ということで、失業率は14.6%となっていた。ところが、この第2四半期で失業者が106万2800人増え、日本のメディアは107万人の失業者が出たと報じた。第2四半期106万人の失業者の中でサービス産業で職を失った人たちが81万6900人いたと統計された。即ち、第2四半期に失業した人たちの77%が観光、飲食、商業部門などのサービス産業で働いていたということである。

ということで、336万8000人に106万2800人を加えると443万800人が失業者ということになる。よって失業率は19.3%。

ところが、ここに一つ隠し穴がある。休業補償を受けて職場にまだ復帰していない被雇用者が470万6200人いるのである。前述した106万人の失業者の多くは休業補償をもらっていたが、最終的に職場への復帰が不可能となり失業者となった人たちだ。(参照:libremercado.com

政府は休業補償を受けている人は失業者ではないと主張している。しかし、実際には職場にはまだ復帰しておらず、また雇用主の事情によってはもう職場に復帰することはなく失業者になるかもしれない人たちである。

つい最近、英国政府がスペインへ旅行すれば帰国の際に2週間の自主隔離を義務づけたことで、スペインのホテルでは英国からのキャンセルが相次いだ。英国からスペインへの観光客は年間で1800万人。スペインへの観光客としてはトップの位置にある。

英国人の訪問がないことで、ホテルの中には年末まで営業を再開しないというところもある。あるいは、廃業するホテルもあるかもしれない。スペインの2割のホテルはコロナ危機で廃業すると予測されている。そこで雇用されて現在休業補償を受けている被雇用者が失業者に転じてしまう可能性があるということだ。飲食業なども同様だ。

ということで、現時点では休業補償を受けて職場に復帰していない人たち470万6200人を失業者数に加算すると914万4200人となる。それを就労人口から割り出すと39.8%ということになる。即ち、スペインの就労人口の40%が現在働いていないということになるのである。

休業補償費は政府が負担しているが、その支払いを政府は9月までとしている。企業は今年末までの延長を要望している。これが延長されないとなると失業者がさらに増えるのは必至だ。

一つエピソードを加えよう。ある4つ星ホテルチェーンが休業補償を受けている自社の従業員に職場への復帰を要請したところ、一部従業員の方から「今、職場に復帰するのは都合がよくない」という回答があったというのだ。人事部の方からその報告を受けたオーナーはそれに憤慨し、早速youtubeで「君たちの休業補償の不足分を弊社はこれまで会社の方で補填した。閉店で売上はゼロだというのにだ。今の君たちはバケーションに入っているのではないのだ」と語って、一部従業員の反省を促した。(参照:lavanguardia.com