イスラエルとイランが国交を結ぶ日

2020年08月17日 11:30

イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)両国が国交正常化で合意したことに対し、トランプ米大統領は13日、ホワイトハウスで「歴史的な瞬間だ」と評した。11月3日に大統領選を控えているトランプ氏にとって久しぶりのビックポイントである点は間違いないだろう。新型コロナウイルスの感染拡大と国内経済の危機で国内問題で得点を挙げることが厳しい時、有権者の関心が薄い外交分野だが、ホワイトハウスにとって自慢できる成果だ。

イスラエルとUAEの国交回復を発表するトランプ米大統領(ホワイトハウスサイトより:編集部)

そこで、イスラエルとUAE両国の国交正常化がどうしてビックポイントかを少し考えてみた。

中東でアラブ・イスラム教国に取り囲まれているイスラエルはエジプト(1979年)とヨルダン(1994年)に次いでUAEと外交関係を樹立することで自国の安全を一層強化する一方、中東の金融拠点であるUAEと関係を深めることで国民経済の発展が期待できる。それだけではない。宿敵イランへの包囲網が構築できるのだ。

いずれにしても今後、バーレーンなどはUAEに続けとばかりにイスラエルと外交関係を締結する動きが出てくるだろう。そうなれば、それを阻止しようとする抵抗も今後、強まってくることが予想される。

先ず、頭を整理するために、イスラエルとUAE両国の国交正常化ニュースへの反応を簡単にまとめる。

<アラブ諸国の反応>

歓迎:エジプトとバーレーン、国内に200万人以上のパレスチナ難民を抱えるヨルダンは条件付きで歓迎。

態度保留:サウジアラビア(「サウジとイスラエルが急接近」2017年11月26日参考)

反対:パレスチナ、イラン、トルコ。

<周辺国の反応>

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は14日、「中東全地域の安定に貢献する決定だ」と歓迎。

EU議長国ドイツのマース外相は「歴史的な一歩だ」と合意を評価し、パレスチナとイスラエル間の和平交渉の再開を求めた。

英国、フランスも合意を歓迎

国連のグテーレス事務総長はマース独外相と同様に、イスラエルとパレスチナ間の交渉再開を期待。

イスラエルとUAE両国の国交正常化ニュースで問題点は、イスラエルがヨルダン川西岸の一部併合を停止するかどうかだ。UAEもヨルダンもそれを今回の合意の前提条件としてきた。イスラエル側にとって大きな譲歩を意味する。ネタニヤフ首相は今年5月、新たな連立政権発足の際、西岸のユダヤ人入植地を併合すると発表してきたからだ。外電によると、ネタニヤフ首相は「一時停止であって、併合中止ではない」と語り、依然含みを残している。

UAEは、「イスラエルとの合意でヨルダン川西岸併合を止めることが出来る」と説明し、合意に反対するパレスチナに理解を求めている。だから、ネタニヤフ首相がその約束を遵守しなければ、UAEとの国交正常化の合意は水泡に帰す可能性が大きいわけだ。ただし、腐敗収賄問題で追及されてきた同首相にとって、UAEとの国交正常化はやはり大きな得点だ。簡単には失うようなことはしないだろう。イスラエルとUAE間を調停してきたトランプ大統領によると、「両国は数週間以内に大使館の設置や技術協力などについて署名する」という。

次は反対派の意見に耳を傾ける。

イランのロウハ二大統領は15日、「イスラエルを我々の地域に侵入させてはならない。イスラエルの言動は国際的規律から大きく離れている。イスラム諸国が米国、イスラエルと関係を結べば、安全と経済的繁栄をもたらすと考えるのは大きな誤りだ」と強調。UAEに対しては「パレスチナ人への裏切りだ」と厳しく批判した(イラン国営IRAN通信)。

イランのロウハニ大統領(本人公式サイトより:編集部)

イランの軍隊組織「イスラム革命防衛隊」 (IRGC)は15日、声明文を公表し、「今回の合意はイスラエルの全滅を加速させるだけだ。正義を求めるパレスチナ人の叫びは絶対に沈黙しない。米国とそのシンパにとって危険な未来が待っている。UAEも遅かれ早かれ強い抵抗を受けるだろう」(IRAN通信)と警告を発している。

一方、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、「2国家共存案はこれで死んだ」と述べ、イスラエルとUAE間の交渉を「恥ずかしい」と強調している。イスラム主義武装集団ハマスは、「背中からナイフを刺すような卑劣な行為だ」と酷評している。イスラム諸国の盟主を自負するトルコは14日、「歴史と人々の良心は決して許さないだろう」とUAEを名指しで批判したが、イスラエルに対しては言及を避けた(イスラエルとトルコ間の接近情報がある)。

最後に、どうしても言及しなければならない歴史的事実を付け加えておきたい。ペルシャ王朝(現在のイラン)のクロス王はBC538年、ユダヤ民族を解放し、エルサレムに帰還させた。クロス王が神の声に従ってユダヤ人を解放しなければ、現在のイスラエルは存在できなかった、という歴史的事実だ(「旧約聖書「エズラ記」)。

ロウハ二大統領は2018年7月、ウィーン公式訪問の時に、「イランはイスラエルといつも対立していたわけではない」とちらっと漏らしたことがあった。イランのマフムード・アフマディネジャド前大統領が、「イスラエルを地上の地図から抹殺してしまえ」と暴言を発したこともあって、イスラエルとイランは常に対立してきたと考えてきたが、実際はそうではないのだ(「ユダヤ教を発展させたペルシャ王」2017年11月18日参考)。

トランプ大統領はアラブ諸国がUAEに次いでイスラエルと国交正常化に乗り出すことに期待を表明したが、イランがイスラエルと国交正常化に乗り出す日が到来したら、中東アラブ諸国はEUに負けない安定した政治・経済地域に飛躍できるかもしれない。そうなれば、歴史家は後日、「イスラエルとUAEの国交正常化はその前座に過ぎなかった」と記述するだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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