欧州で続く「渡航警告サイクル」

2020年08月23日 11:30

オーストリアのクルツ首相は16日、「新型コロナウイルスは車でわが国に運び込まれている」と述べ、アルプスの小国オーストリアにウイルスを運ぶ西バルカンのクロアチアへの渡航警告を発すると共に、クロアチア旅行からの帰国者に無料で新型コロナ検査を実施してきたことはこのコラム欄でも報じてきた。今度はスぺインのマヨルカ島などのバレアレス諸島旅行帰りにも感染者が多数出てきたことから、バレアレス諸島への渡航警告を出す一方、帰国者に対しては空港で無料で新型コロナン検査を実施している。

バレアレス諸島への渡航警告を発表するクルツ首相(19日、オーストリア首相府サイト)

今年10月11日にウィーン市議会選挙が実施されるが、与党「社会民主党」のペーター・ハッカー厚生問題担当者が、「新型コロナウイルスは車だけではなく、飛行機でも運び込まれている」と少々、クルツ首相をからかうようにテレビでコメントしていたのが印象的だった。

旅行帰りの国民への感染対策に乗り出してきた時、新規感染者が急増してきた危険地域としてオーストリアが指定され、自国民にオーストリア行きを控えるよう警告を発する国(例えば、英国)が出てきている。欧州では周辺国への渡航を控えるように警告する一方、他の周辺国から渡航警告を受けるといった渡航警告サイクルが展開されているのだ。

最近の新規感染者では高齢者よりも15歳から24歳の若い世代で急増していることが特長だ。新規コロナが欧州に感染を広めた今年3月ごろ、高齢者や病気持ちの人が感染の危険度が高いといわれてきたが、あれから半年が過ぎて、今度は最も感染の危険がないといわれてきた若い世代に新型コロナ陽性者が急増してきた。彼らの多くは無症状だから、家庭内や外で接触する人を感染させ、最終的に高齢者を感染させる危険性があるわけだ。

8月はもうすぐ過ぎ去り、夏季休暇シーズンは幕を閉じようとしている。学校も新学期を控え、新型コロナ対策を万全に準備しているが、ウイルス専門家は「第2波は既に到来してきた」と警告を発する。

3カ月余りの規制期間を経て、感染ピークが過ぎたこと、国民経済の再開が急務となってきたことから、外出規制は緩和され、観光業の再開にもOKを出す国が増えたわけだが、その結果、感染第2波をもたらしたともいえる。

第1波は中国武漢発の新型コロナの感染だったが、第2波は規制緩和による観光業の再開が要因となっている。オーストリア保健省の発表によれば、新規感染者の約3割が「外国旅行からの帰国者」だという。予想されたことだが、新型コロナウイルスは人間のように夏季休暇は取らず、感染拡大の時期を待っていたともいえるわけだ。直径最大200ナノメートルの新型コロナはひょっとしたら人間より数段ずる賢いのだろう。

オーストリア保健省によると、ウィーンで過去4週間、新型コロナウイルス陽性者だったのはクロアチア帰りで31.2%、次いでトルコからの帰国者11.7%、コソボ帰り11.3%、セルビア帰り6.1%だ。ちなみに、オーストリア国内旅行帰りは8.1%だった。

ドナウの畔でリラックス(ウィーン市観光局公式サイトから)

オーストリアは第1波の感染拡大を早急な国境閉鎖、外出制限、マスクの着用義務などを次々と打ち出して抑えることに成功し、クルツ政権は少なからず自負してきたが、第2波の到来では、スーパーでのマスク着用の再義務化を実施する以外は、ソーシャルディスタンス、不要不急の外出を控えるなど、これまでの規制を繰返すだけだ。

観光は本来、“神の光を観る”ことだといわれるように、異国の名所、旧跡の観光地をじっくりと尋ねていく。それだけならば、新型コロナウイルスが侵入する隙間は余りないが、夏季休暇の場合、日常生活からの解放感もあって、やれパーティだ、ディスコだとなり、観光地の夜の街にも足が向くケースが多い。

そこではマスクは着用されず、2mのディスタンスなどは忘れられる。外国へ旅行する余裕のない若者たちは友達を誘ってドナウ川沿いや公園に集まってビールを飲みながら深夜まで騒ぐ。その結果、彼らの中から新規感染者が出てくるわけだ。

第1波とは違い、第2波の場合、新型コロナ感染防止の規制処置に対し、国民の自由を制限するといった批判の声が上がる一方、マスクの着用義務化に対してもプロ・コントラ(賛否)が聞かれる国が多い。第2波の感染防止は国民の自主的な責任と連帯感がより求められることになる。それだけに、第2波の感染防止は第1波の時より難しくなり、最悪の場合、第1波を超えた大感染をもたらす危険性が出てくるわけだ。

治療薬、ワクチンがまだ見つかっていないだけに、国民は一人一人、自身と他者の命を守るという責任と連帯感をもう一度、呼び起こすべきだろう。夏バテしている時ではない。新型コロナウイルスは今も、チャンスがあれば侵入しようとしているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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