コロナ後のハイパー・インフレよりも、足元の供給制約に注意すべきだ

2020年08月24日 06:00

胡麻油/写真AC

今、新型コロナウィルスの感染拡大による失業や倒産の増加に対処するため、世界中で大規模な財政出動が行われている。

これまでにアメリカは3兆ドル(約320兆円)をコロナ対策費に投じ、さらに第2弾として1~3兆ドルを追加で支出することが議論されている。EUは7月に7500ユーロ(約93兆円)のコロナ復興基金の創設に合意し、そして日本でも第一次25.7兆円、第二次31.9兆円の補正予算が組まれて、雇用調整助成金、中小企業支援のための持続化給付金や家賃支援、10万円の特別定額給付金などに使われており、しかもこれで打ち止めとなる保証はない。

これだけのお金が世の中にばらまかれると、通貨の信用が低下し、ワクチンの開発に成功してコロナ禍が終息した後は、消費や投資が活発化してインフレになる可能性があり、実際そのことを懸念する意見が多く見られる。

ここのところの金の価格上昇は、将来の通貨価値の低下(逆に言えばインフレの高進)に対する懸念の表れだという説明がされたり、また、金嫌いで有名だったアメリカの有名な投資家のウォーレン・バフェットが最近カナダの金鉱会社の株を買った際にも、「ついにバフェットもアメリカ経済とドルの先行きに不信感を抱いた」と言われた。

私も、コロナ後はいずれインフレになると考えているが、コロナ後にデフレになるかインフレになるかという、将来の可能性についていろいろ議論をするよりも、今は供給サイドの制約が生産や物価に及ぼす影響の方が差し迫った問題となりつつあり、こちらの方に注目すべきだと思っている。

安価な製品供給をしてきた中国の工場(Robert Scoble/flickr)

世界は90年代以降現在に至るまで、新興国、特に中国の安価な製品供給の恩恵を目いっぱい受けてきた。もちろん国内の生産者は競争に負けて廃業するか、海外に生産拠点を移さざるを得なかったが、消費者は大量の安価な商品の供給を享受し、世界はインフレを心配することなく経済成長してきた。

今、こうした新興国からの安価な製品の供給が、新型コロナや米中対立などから不安定になって来ている。
2008年のリーマンショックを正確に予測して有名になったニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授も、シュピーゲル誌のインタビューの中で、供給制約がいずれインフレを招くと言っている。(SPIEGEL International 6月12日付 “The Stock Market Is Deluding Itself”)。

このことが肌で感じられたのは新型コロナ対策のためのマスク不足とマスクの価格の高騰だ。経産省は3月6日に月6億枚以上の供給確保を目指すとしていたが、買い占めの嵐の中で店頭からマスクは消え、ネットでは高額の転売が発生した。これはマスクの国内向け供給の約7割を占める中国からの輸入が、コロナのためにしばらく止まったことが原因だ。

マスクの品薄状態は、中国の生産・輸出が復活して解消されたが、マスク以外の様々な商品について、これからも新興国、特に中国からの供給は不安定な状況が続く可能性が高い。なぜなら、コロナに加えてそれ以外にも様々な供給不安要因が現れてきているからだ。

その要因の一つが中国の食糧事情の悪化だ。

日本は食糧の多くを輸入に頼っているが、農水省の資料によれば2019年に中国はアメリカに次いで2番目に重要な輸入先となっている。品目的に多い方から冷凍野菜934億円、鶏肉調整品910億円、生鮮野菜375億円を中国から輸入しており、外食産業やスーパーマーケットにとって中国産食品はなくてはならないものとなっている。

その中国で今年は大水害が発生して農産物が甚大な被害を被っており、さらに南部のイナゴの被害も併せて、大変な食糧不足が生じているようだ。最近、習近平主席は、伝統的な中国の食べ残しの習慣に対して、食べ残しをしないように人民に求めたが、これは国内の食糧不足が背景にあるものと思われ、日本の食料品の価格が上がることが心配だ。

また、米中対立が激しくなる中で、IT製品を始めとする中国からの供給の途絶が、日本を含めて世界に大きな影響を及ぼす恐れがある。

前述のルービニ教授によれば、ノキアやエリクソンの5G製品はファーウェイに比べて、価格は30%高く、性能は20%劣っているとのことなので、ファーウェイ等を排除すると物価上昇要因となる。今後米中のせめぎあいがエスカレートして中国製品排除の対象範囲が拡大すると、日本の物価に対する上昇圧力がさらに大きくなることが懸念される。

2019年6月、ホルムズ海峡で攻撃された日本などの会社が保有するタンカー(イスラム共和国放送より)

このほか、供給面からの物価上昇要因として忘れてはならないのは、原油だ。最近のイスラエルとUAEの国交正常化はイランに対抗するためのものと言われているが、7月にはイランの核関連施設が原因不明の火災を起こすなど、イランを取り巻く情勢は緊迫の度を強めている。中東で何か起きれば、原油価格の上昇は避けられず、特に中東産原油に大きく依存している日本の経済・物価への影響も計り知れない。

こうした供給面からのいわゆるコストプッシュ・インフレが生じると、新型コロナ禍の下で不況になるにもかかわらず物価が上昇するという、いわゆるスタグフレーション(不況下の物価上昇)が生じ、国民は踏んだり蹴ったりになる恐れがある。

地平線の彼方にある新型コロナ後のインフレの可能性の議論も大切だが、足元のコストプッシュ・インフレの芽にも注意をする必要があるのではなかろうか。

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有地 浩
人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®

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