トランプ氏の政策アジェンダは557語で構成、対中姿勢は強硬

安田 佐和子

カバー写真:The White House/Flickr

トランプ大統領は23日夜、共和党大会開催(8月24~27日)直前に政策アジェンダを公表しました。
シンプル・イズ・ベストの信念からというわけではないのでしょうが、ワード数にしてわずか557語民主党の政策綱領が92ページ、バイデン候補とサンダース上院議員率いる合同作業部会の政策提言が110ページであることを踏まえれば、非常にあっさりしております。

気になる内容は、以下の通り。短いので全訳です。民主党の政策綱領やバイデン候補の政策提言と違い、中国を狙い撃ちした政策がアジェンダとして加わっており、トランプ政権の意気込みが感じられますね。政策順位も、コロナ禍の経済回復を念頭に1番ではなく、コロナ禍の対応の後、3番目に据えているのは、空気を読んだ結果でしょう。ちなみに共和党は政策綱領を発表する予定になく、こちらが事実上の政策綱領となります。

〇雇用

10カ月間で1,000万人の雇用を創出
・中小企業を新たに100社設立
減税を通じ手取りを増やし、雇用を維持(給与減税引き下げ)
公平な貿易協定を発効し、米国の雇用を保護
米国製の産品に税控除を適用
・エネルギー自立を目指し規制緩和を継続

⇒コロナ禍の雇用喪失を打ち消すまでに、7月時点であと約1,290万人であることから、今後10カ月間でコロナ前の水準のおおよその回復を狙う。民主党政策綱領が貿易戦争に反対する立場を取る一方、これまで通り二国間での貿易協議を交渉カードに、”アメリカ・ファースト”を目指す姿勢を強調。

チャート:米国の就労者数の推移

作成:My Big Apple NY

〇新型コロナウイルスの撲滅
2020年末までにワクチン開発
2021年までに正常化を目指す
重要な医薬品や医療品全てを米国で生産
・将来のパンデミックへの備えを徹底

⇒バイデン候補が感染者急増で経済閉鎖を辞さない立場を表明する一方、あくまで経済活動の再開を維持する構え。

〇中国依存からの脱却
中国から製造業の雇用100万件を取り戻す
中国から雇用を米国に戻す企業に税額控除を適用
中国から米国に雇用を戻した製薬やロボティックスなど必要不可欠な産業に、設備投資の全額を課税所得から控除する即時償却を適用
中国企業へ外部委託する企業を政府調達から排除
世界中に新型コロナウイルスを蔓延させた中国に責任を追及

⇒バイデン候補や民主党政策綱領が多国間での対中包囲網と貿易戦争反対を盛り込む半面、単独で対中圧力を強める姿勢を強調。なお、トランプ氏の557語の政策アジェンダ中、「中国」の言葉が登場したのは5回ですから、ほぼ全体の1%を占めました。一方で92ページすなわち約4万3,000語に及ぶ民主党の政策綱領で22回、バイデン氏の政策提言で3回ですから、その違いは歴然としています。

チャート:米国民の対中好感度

作成:My Big Apple NY

〇ヘルスケア
・処方箋薬の価格引き下げ
・医療保険会社ではなく、患者と医者が医療費の設定における主役に
・医療保険の負担引き下げ
・医療費高騰の撤廃
・既往症患者全員の保険加入を目指す
・社会保障制度と高齢者向け公的医療保険(メディケア)の堅持
・退役軍人を守り、世界標準の医療保険とサービスを提供

⇒これまで通り、米国民の医療負担引き下げを目指す。

〇教育
・全米の子供に学校を選ぶ選択肢を与える
・米国民に例外主義を教育する

⇒これまで通り、チャータースクール(特別認可の公設民間学校)を含む学校選択制度を推進。

〇腐敗撲滅
・米議員に任期制限を導入
・米国民や中小企業を虐める官僚体制の撤廃
・ワシントンのカネの流れを公表し、代議員の権力を人民と州に返す(選挙制度改革)
・国際機関と対峙し、米国民に打撃を与えたグローバリストの腐敗を追及

⇒世界保健機関(WHO)の拠出金支払い停止に代表されるように、国際機関の問題是正に取り組む方針。

〇警察組織の保護
治安強化のため予算を全額維持し、警察官の雇用を拡大
・警官に暴行を働いた者への厳罰化
・走行中の車内からの発砲行為をテロとして処罰
・極左主義者ANTIFAのような過激派に正義を
・キャッシュレスでの保釈を撤廃させ、危険な被疑者を裁判まで留置場にとどめる

⇒オレゴン州ポートランドの暴動やワシントン州シアトルのキャピトル自治区占拠など、過激派の破壊活動を問題視し、警察組織の体制維持を主張。

ワシントン州シアトルでの暴動の様子(Kelly Kline/flickr)

〇不法移民の流入を食い止め、米国労働者を保護
・不法移民に公的福利厚生、医療保険、大学の学費無料などの資格を付与しない
・米国市民でないギャング団のメンバーは強制送還
・人身売買ネットワークの解体
・聖域都市(不法移民に寛大な措置を講じる自治体)を撤廃し、米国民のコミュニティを取り戻し家族を守る
・米企業が米国人労働者の代わりに低コストの外国人労働者を雇用することを禁止する
・新たに入国してきた移民に経済的な自立を求める

⇒米国で人身売買は深刻な問題と化し、トランプ政権で2018年4月に売春・人身売買防止法案(SESTA-FOSTA法)が成立。

〇将来への技術革新
・宇宙軍を発足させ、有人月面探査を恒久的に実施し、世界初の火星への有人飛行を目指す
・5Gレースに打ち勝つ世界で最も偉大なインフラを整備し、高速ワイヤレスネットワークを設立する
・最もクリーンな飲み水と大気を提供する上で、世界をリードし続ける
・海洋汚染を解決へ導くため、各国と提携する

⇒トランプ氏のアルテミス計画に対する野心は変わらずだが、実現するには再選する必要あり。環境に無配慮で単独主義的な行動で知られるトランプ氏ですが、問題解決に向け各国と協力関係を結ぶことでは異議なしのもよう。

〇米国第一の外交
・終わりのない戦争をやめ、米兵を帰還させる
同盟国に(防衛費をめぐり)相応の負担を求める
・米国民に脅威を与える世界のテロリストを撲滅
偉大なサイバー・セキュリティ・システムとミサイル防衛システムを設立

⇒奇しくも、民主党政策綱領でも「外交」は一番最後の項目となり、双方にとって優先順位が高くない可能性を示唆。ただし、トランプ政権は防衛費の負担を執拗に迫り韓国とは交渉中で、再選後に同問題が日本やNATOとの間で再燃するリスクをはらむ。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年8月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。