韓国外相が示した「謝罪」使い分け

長谷川 良

韓国中央日報日本語版26日電子版に韓国の康京和外交部長官(外相)「ニュージーランドに謝罪しない」という見出しの記事が報じられていた。日本に対して謝罪要求を繰返してきた同長官は今度は謝罪を相手国から要求されたが、謝罪を断ったというのだ。もちろん、日本への謝罪要求とニュージーランドからの謝罪要求の内容は全く異なっているが、「謝罪」に対する韓国外相の対応が興味深いのでここで紹介する。

▲多国間外相会議で新型コロナ対策について語る康京和外相(韓国外交部公式サイトから、2020年8月11日)

▲多国間外相会議で新型コロナ対策について語る康京和外相(韓国外交部公式サイトから、2020年8月11日)

先ず、どうしてニュージーランドが韓国に謝罪を要求しているのかを簡単に復習する。在ニュージーランドの韓国外交官(A氏)が2017年末、現地のニュージーランド男性職員に対して3回、セクハラしたという内容が同国メディアで報じられた。同外交官は「そのようなことは全くなかった」と否定してきた。韓国側はその直後、当該の外交官を帰国させ、1カ月減給の懲戒処分。その後、同外交官は現在、他のアジアの国の総領事として勤務中という。

これで事件は曖昧に終わるのかと考えられだした時、ニュージーランド・ウェリントン地区裁判所が今年2月28日、A氏に対して逮捕状を発行したから再び大きな話題となった。

ニュージーランドの地元メディアは「韓国政府は逮捕状の執行に協力していない」と批判、それに対し、韓国側は「外交官の特権および免除など諸般事情を総合的に検討した」と説明した。その後もニュージーランド側のメディアは「韓国外交官のセクハラ問題に対して韓国側の対応は誠実さがない」と厳しく批判したことから、韓国外交官セクハラ疑惑問題は両国の大きな外交問題となってきたわけだ。

そして先月28日、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相と文在寅大統領の電話首脳会談が行われた。会談はニュージーランド側からの強い要請で実現されたという。

会談では新型コロナウイルス感染問題の対応について、それぞれ意見、経験を交換した後、韓国側は世界貿易機関(WTO)次期事務局長選に立候補している韓国の産業通商資源部の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長の支持をニュージーランドに要請したという。

ここまでは全く問題がなかったが、アーダーン首相が会談終わり間際に、韓国外交官のセクハラ問題を取り上げたのだ。韓国とニュージーランド両国外務省は事前に首脳会談での議題調整をしたが、韓国外交官のセクハラ疑惑は首脳会談の議題にはなかった。それにもかかわらず、アーダーン首相は文大統領に対応について話しかけたわけだ。ソウルの大統領府の説明によると、文大統領は、「関係部署が事実関係を確認した後で処理する」と答え、それ以上は話はなかったという。

両国首脳の電話会談で韓国外交官のセクハラ疑惑が飛び出したと聞いた韓国外務省側は驚いた。康京和長官は、「首脳会談で議題となっていないテーマが飛び出したことは遺憾だ」と、外交慣例に反したニュージーランド側を批判する一方、「大統領に心地悪い思いをさせてしまった」と恐縮している。

康京和長官は25日、ニュージーランドに謝罪する意向はあるかの質問を受けた時、「他国に外交部長官が謝罪するのは国家の品格の問題だ。今この場で謝罪することはできない」(中央日報)と述べたという。日本の外相が同じように答えたら、それこそ韓国では「非礼だ、けしからん」と大騒ぎとなるだろう。

康京和長官は他国からの謝罪要求では「国家の品格」を持ち出して拒否する一方、身内の大統領に対しては、「心地悪い思いをさせてしまった」と詫びている。韓国の外相ではそれでいいのかもしれないが、他国の外相、外交官と話す機会が多い立場にいながら、その目線は国内に向いているのを感じる。アーダーン首相が外交慣例を破ってでも韓国外交官のセクハラ疑惑の真相解明を求めたわけだが、韓国側はこれまで同問題に真摯に対応してきただろうか。事件が起きて2年以上が経過している。ニュージーランド側が韓国の対応に不満を持つのは当然かもしれない。

問題は確かに韓国側のメンツを失わせるような内容だ。国家元首の立場にある大統領にそのような問題で煩わせたくないと考えた康京和長官の配慮は分かるが、韓国側が迅速に事件を調査し、ニュージーランド側に説明していたらならば何も問題なかったはずだ。

謝罪を相手に要求する時は威勢がいいが、相手から謝罪を要求されると途端に腰砕けになり、国内の反応にだけ神経がいく。康京和長官の言動を見ているとそのように感じてしまう。

文大統領は慰安婦問題では、「犠牲者の慰安婦がどのように感じているかが最も重要だ。慰安婦が心から許すというまで問題は解決されない」と語ってきた。犠牲者ファーストだ。それではニュージーランドの犠牲者、在ニュージーランド韓国大使館勤務の男性職員へのセクハラ疑惑はどうなのか。文大統領や外相の対応を見る限りでは、犠牲者への配慮は全く感じられない。

韓国では、「謝罪」は相手側に要求するものであって、自ら謝罪はしないと考えられているのか。韓国社会で定着した犠牲者メンタリティ―とでもいうのだろうか。日本人は相手に要求されれば安易に謝罪するので、国際的な交渉事で失敗も多い。この際、韓国から“謝罪の使い分け”について伝授してもらうべきかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。