今週のつぶやき:好調な米市場、安倍首相辞意表明、先行き不安な日本企業

金曜日の夕方に何か発表するというのは基本的によくない話が多いもの。企業の記者会見も株式市場が閉じてから行うのは株価へのインパクトを気にしているからで特にそれが金曜日の場合は週末にその内容をよく揉んで週明けに備えるのが一種の定石であります。安倍首相が金曜日夕刻に記者会見をすると発表した時点で誰も声を上げませんでしたが聞く人が聞けば重大発表があることは概ねわかっていたと思います。ただ、午後2時頃にそれが漏れたというのが絶妙のタイミングだったわけで計ったような展開でした。本件は本文の方で。

では今週のつぶやきをお送りします。

トランプが押し上げるアメリカ株式市場

ウォール街(Wikipedia:編集部)

ダウの年初来高値は2月につけた29551㌦。これに対して現在は28653㌦でその差は3%程度まで詰めてきています。他の代表的指数、S&Pやナスダックは既に新高値更新をしていますので私が1-2カ月前につぶやいた「ダウ3万㌦も夢じゃない」というのは当たるのかもしれません。コロナ禍でなぜ、と言われればFRBの低金利政策への長期コミットメントがあります。そもそもマネーに対する感性が高く、世界のマネーが集まりやすいアメリカ株式市場で株式に投資せざるを得ない状況が生まれたといえます。ある意味、トランプさまさまであります。

例えばカナダで元本保証型定期預金金利はコロナ前まで年2%を超えていました。今は0.2%台です。10分の1となったのにそれを定期預金で放置するのは実にバカバカしいのです。今週はカナダの銀行決算が出そろい、想定以上の利益を確保しています。コロナで下向きということはなく、モールは人であふれ、店舗に入るには入場制限もあり行列を覚悟する状態です。自転車はバカ売れ状態が続き、ある自転車店は「今週300台入荷したけど292台は予約売約済み」という状況にあります。

あえてネガティブな話と言えばカナダのレストラン業界でしょうか。当地の新聞によると業界の調査で29%の飲食店がもう限界、31%があと3カ月が限界と答えています。両方合わせて60%。もちろん、これが全部潰れるわけではありませんが、個人事業主で借金をしながら店舗展開していたところは大打撃となりそうです。

ご苦労様でした、安倍首相!

辞任会見で国民に感謝の意を示す安倍首相(官邸サイト:編集部)

辞任の報に接した時、感慨深いものを感じました。相当ご無理をされてきたのでしょう。一国の総理として第一次政権と合わせると8年8カ月もの間、引っ張ってきました。スーパーマリオに扮した首相はまさに「スーパー晋三」でありました。ただ、先日も指摘したように誰にも栄枯盛衰があります。安倍首相のそれは2017年初め。そしてその後は厳しい試練となりました。

コロナで様々な絵図が変わる中、後任のリーダーシップは安倍首相以上に重責になります。下馬評がいろいろ出ておりますが、個人的にあえて予想をすれば誰がやっても次の首相は短命になるとみています。理由は安倍首相との比較論が出てしまうからです。これは与野党内部からのみならず、世論やマスコミも含めてということになります。この重責にどこまで耐えられるか、そしてコロナ対策や積みあがる外交、更にアメリカの大統領選次第で様々なシナリオが書き換えらえるとなればその重みでつぶされても何らおかしくないでしょう。

これを書く金曜日、北米の株式市場には安倍の「あ」の字も出てきません。ニュース性としてはスルーされています。これには二つの意味があるかもしれません。一つは日本の経済的プレゼンスが落ちていること、もう一つは次への期待感が低いことであります。経済規模では世界第3位を誇っていますが、アメリカの US News & World Reportでは総合7位。海外に住む者の肌感覚からすると個人的にはベスト10ギリギリあたりではないかという気がしています。

大丈夫か、日本企業

ジャパンディスプレイ白山工場(同社公式サイト:編集部)

液晶パネルのジャパンディスプレイが主力である石川県の白山工場をシャープに売却すると発表しました。シャープは台湾の鴻海に売却した後、活力を取り戻しました。売却前のシャープの混乱ぶりと比較するとなぜここまで違うのでしょう?モーリシャス沖の重油流出事故でもハイテクの重油処理剤があるのにその処理と環境保全に日本がリーダーシップを出せないでいます。企業におけるロボットの活用も国際比較では下がってきています。トランプ大統領はアメリカ製造業の復活を掲げていますが、日本のお家芸はどこに行ってしまったのでしょうか?

思うに細かい技術はよいものをもっています。改善をしたり圧倒的スペックの商品を作る点はいまだに世界のトップクラスだと思うのですが、それが全く水平展開しないのです。ずいぶん前にiPhoneの開発の話をここで書いたのですが、あれが世に出回った時、日本の携帯は技術的には更に1世代以上先を行っていたのにあのアイディアが出せなかったのです。ホンダも電気自動車を発表しましたがEビジネスが盛りの今、「街乗りコンセプト」はまだありなのか、インパネに5画面もありエレクトロニクスだらけで年配の方には厳しいのではないかなど、ターゲットが分かりにくいモデルであります。

今の日本全体の弱点は議論百出がSNSの時代と共により鮮明となってきたこと、そしてその議論が激しく対立し、大きくまとまることができず、サル山の大将を数多く生み出したこと、それらがブラックボックス化と縦割りを貫き、協力体制、挙国一致体制を取れないことにあると思います。どうすればよいのでしょうか?方法論だけでも一冊本が書けるほどあると思いますが、私があえて一つだけ挙げろと言われたら国民大シャッフル作戦かなと。人々がもつ才能を見直し、今の所属意識をいったん横に置き、適材適所と風通しの良い社会に作り替えることかと思います。まぁ、こんなことを言うと議論百出でしょうけれど。

後記

私たちが開発計画を進めている当地のシニアホーム建築事業は役所の土地用途変更許可の第2段階の承認が月曜日に下り、昨日は近隣説明会を実施、来月には公聴会が予定されます。わずか10床のホームの開発なのに役所との交渉や作業は既に1年過ぎ、ようやく遠くにゴールが見えてきた感じがします。私が92年に当地に来て携わった大型の不動産開発許認可取得プロセスは5年を要し、役所に60億円相当の見返りを差し上げるという内容でした。一方、日本で10床のシニアホームなら許可まで1-2カ月でしょうか?ただそのスピードが迅速であればよいとは限らないところにこの国の都市計画のうまさを感じないわけでもありません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年8月29日の記事より転載させていただきました。