バロンズ:Fed、インフレ目標修正でパンドラの箱を開けたか

2020年08月31日 11:30

バロンズ誌、今週のカバーは州政府・地方政府の財政問題を掲げる。リチャード・ラヴィッチ氏は、NYであらゆる州・地方政府の財政問題を潜り抜けてきた。NY州経済公社の会長を務めた1975年には、破綻に瀕したNY市を立て直し、MTAの議長時代は1980年に発生したストライキで防弾チョッキが必要になった。NY州副知事となった2009年には、金融危機と困難な財政協議から予算を救わなけれならなかった。しかし、ラトヴィッチ氏はコロナ禍に見舞われた今ほど、財政面で厳しい現実に直面したことはないという。とはいえ、3.9兆ドル規模の地方債市場は活況に沸き、利回りは1950年以来の低水準にある。7月に州政府や地方政府が合わせて約34年ぶりとなる420億ドルの債券を発行したが、順調に消化した。米連邦準備制度理事会(FRB)の緊急貸出制度が下支えする面もあるが、果たして今後もラリーを維持できるのか。詳細は、本誌をご覧下さい。

(カバー写真:Tamsin Slater/Flickr)

(カバー写真:Tamsin Slater/Flickr)

 

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週のテーマは米連邦準備制度理事会(FRB)の平均インフレ目標の導入を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

Fedの新たな政策により低金利は長期化、ただし金融市場は乱高下へ―The Fed’s New Policy Means Rates Will Stay Lower Longer. The Price: Financial Turbulence.

パウエルFRB議長は、安易な願い事に気を付けるべきだ。物価を引き上げる上で新たな枠組みを導入し雇用の最大化を狙うが、歓迎せざる結果、すなわち株式市場や債券市場の乱高下につながりかねない。

カンザスシティ地区連銀が主催する経済シンポジウム、通称”ジャクソン・ホール会議”で、パウエル氏は”長期的な目標と金融政策戦略”の修正を発表。最大の変更は、2%超の物価をを容認する姿勢を打ち出したことにある。超低金利を長期化させると共に、低位の失業率を長きにわたって認める方針を表明したも同然だ。また、雇用の最大化に対しても”不足分(shortfall)”を軽減するといい、文言を”逸脱(deviations)”から変更した。小幅な文言の修正にみえるが、ノムラ・インターナショナルのルイス・アレクサンダー北米首席エコノミストによれば、ここが非常に重要だという。今後は、雇用の最大化を達成したと思われる失業率を下回ったとしても、必ずしも利上げに踏み切るとは限らないためだ。

TDバンクのストラテジスト・チームは、少なくとも2024年後半まではゼロ金利政策を維持すると見込む。

ベテランのFedウォッチャーは、新たな政策の枠組みをめぐり1960~70年代に通じるものがあると指摘する。当時、物価の上昇が低い失業率を生み出したためだ
しかし、TSロンバードのスティーブン・ブリッツ首席エコノミストは「政策が70年代風に戻ったといっても、物価への対応は当時と異なるだろう」と指摘する。当時、ベビーブーマー世代が労働市場になだれ込み、ほとんどの消費財は米国内で生産され、労働者は労働組合組織率は高く、一連の動きは賃金上昇につながっていた。翻って現在、労働人口は伸び悩み、高コストの労働は海外の安い労働力あるいは安価なテクノロジーに取って代わられた。コロナ禍以前の雇用の伸びをみても低賃金職である小売や娯楽・宿泊に集中し、その結果、賃上げ率は失業率が歴史的に低い水準で推移していたにも関わらず、抑制的だった。

仮に回復が昔通りに進めば、賃上げはFedが物価目標を達成する上で一助となるはずだ。ブリッツ氏は、国内回帰から生じる雇用や建設部門から雇用が生じれば、連邦政府のインフラ整備につながる場合もあると見込む。ただインフレが真っ先に現れる部分は家賃であり、その一方でクノロジー進化やグローバリゼーションなどが引き続きディスインフレ圧力を与えるだろう。

消費者自身はというと、物価安を認識していない米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値をみると、物価見通しは2%を上回る。おそらく、低所得者層などは、ディスインフレ圧力の恩恵に預かっていないのだろう。

チャート:PCE、平均時給の伸び率(作成:My Big Apple NY)

チャート:PCE、平均時給の伸び率(作成:My Big Apple NY)

逆に、Fedの新たなインフレ目標の修正で最も多くの利益を得るのは、金融市場だ。米連邦政府も、1兆ドルの財政赤字を抱えるものの、利払い負担は1%以下に相当するため、Fedの政策の受益者だ。

その反面、財政赤字が膨らむなかで金利を低位安定させるということは、Fedが購入する米国債の規模も大きくならざるを得ない。Fedは、事実上の”現代貨幣理論(MMT)”を導入したも同然だ。

いずれにしても、パウエル議長の講演を受け、米10年債利回りは6bp上昇し0.74%をつけ、米30年債利回りも1.5%と6月半ば以来の水準へ急伸した。

しかしながら、Fedは資産インフレの発生に成功した。カーソン氏は「資産価値が既に既に相当高い状態にあるなか、より大きな問題は新たなインフレ目標が投機的マネーの流入を引き起こし、金融市場にリスクを与えることだ」と注意を促す。同時に、カーソン氏は「金融市場で”根拠なき熱狂”が広がるとき、あるいは経済が不均衡を生み出すとき往々にして軌道修正が入るが、酷い痛みを伴う」とも警鐘を鳴らす。

Fedの緊急貸出制度のうち”メインストリート貸出プログラム(MSLP)”など一部は、銀行の貸出を側面支援する狙いがあった。しかし、ブリッツ氏いわく緊急貸出制度の影響で「リスク資産へ資金が進み、資本が不適切に配分されてしまっている」という。同時に、インフレ目標の修正は、金融緩和という助け船でFedが株式市場を支援する”Fedプット”を安置させたに等しい。しかし、そうはいっても米株安に直面しないわけではない。例えば日本株市場は、日銀が未曽有の緩和策を打ち出した後も、1990年のピークを下回って推移している。

Fedは新たな政策を導入した一方、フォワード・ガイダンスの修正には手を付けなかった。とはいえ実際問題、ゼロ金利政策と大規模な資産買い入れは、失業率が高止まりする限り継続するのだろう。米株高に沸くウォール・ストリートと世界恐慌以来の困難に直面するメイン・ストリートとの乖離は、今後も続く見通しだ。

――米企業の破綻件数が増え、セールスフォースやコカ・コーラが続々とリストラが増加するなかでも、この米株高。9月以降、米大統領選を控え調整が入ったとしても、おかしくないような雲行きです。しかも、S&P500はこれまでに6営業日続伸してきましたが、9営業日以上の続伸となると2004年11月以降までさかのぼらねばなりません。そろそろ、ガス抜きのタイミングを迎えてもおかしくないでしょう。

しかし、米大統領選イヤーではボラティリティが低下しやすい点にも留意しておきたい。しかもトランプ大統領もバイデン候補も、雇用回復を目指す点では一致しています。Fedの超緩和策も継続する見通しであり、新型コロナウイルスなど不測の事態が発生しない限り、上値追いの基調は変わらないように見えます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年8月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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