菅氏への一抹の不安と岸田氏立候補の勧め

2020年09月01日 11:31

岸田文雄氏(Wikipedia)

自民党の総裁選びは、菅義偉官房長官に急速に収斂しつつあるし、それに十分な理由もあるのだが、私は岸田文雄自民党政調会長も立候補した方がいいし、そこそこの得票もあったほうがいいと思っている。

私はかつて秋の内閣改造で、岸田氏を官房長官にして、菅氏を経済産業相など対外交渉を担当する閣僚に起用してはどうかと提案したことがある。

特に、いますぐ安倍外交を引き継ぐ「即戦力」であることを後継者には望みたい。外交はお膳立てを外交官にしてもらえば誰でもできるという愚か者もいるが、そんなものでない。安倍首相は丁々発止でトランプ大統領など世界の首脳とやりとりをし、日本の首相としてのみならず、世界外交の中心だった。安倍氏の後任にそういう能力を期待しないという理由がない。

そして、それをいますぐに果たせるのは、岸田氏と茂木外相だけだ。また、それ以外にも、岸田氏が憲法改正などを行うにも好都合だということもある。

そのあたりも踏まえて、「ポスト安倍:岸田・茂木・河野・稲田・菅・小泉の長所と難点」(8月23日)には、こう書いた。

憲法改正では、国民投票で賛同を得られるかが焦点になるが、安倍首相自身も含めて保守派の首相のもとで対決ムードで臨むより、リベラル色が感じられる岸田氏が「やはり第九条は改正するのが自然だ」というほうが確実に勝てそうだ。

ところが、なぜだと言いたいほど岸田氏への国民の支持は低調だ。岸田氏は最近のインタビューで、安倍政治を「分かりやすい説明」や「スピード感」が不足していると評したが、この点で岸田氏自身が、安倍首相より優れているとは思えない。

例えば、前法相の河井克行被告と、妻の参院議員、案里被告の選挙買収事件の発端は、自民党が参院広島選挙区で2議席獲得できる得票が見込めるのに、岸田派が「野党と1議席ずつでいい」と河井排除で理不尽に暗躍したためとされる。その意味で河井氏への同情もかなりある。

岸田氏は衆院広島1区選出の派閥領袖として、地元の混乱の経緯について説明すべきではないのか。

安倍内閣の政治は、満足すべきとはいわないが、官邸主導によって「スピード感」を確保してきた。岸田氏が現在以上にスピードを出すためには、コンセンサス重視という方向にはいかないと思うがどうするのかぜひ聞きたい。

「情熱が伝わっていないということは反省する」

「みなさんの話を聞いて、それを参考にして、改めるべきところは改める」

と月刊誌『正論』(9月号)のインタビューで語っていたが、やはり「首相になったら、こういう改革を断行する」という目玉を持たないと、国民の期待がわいてくるはずがない。田中角栄の列島改造に匹敵するくらい魅力的な看板が欲しい。

私は岸田氏を官房長官にでもして、厳しく記者団にも鍛えてもらって一皮むけてもらいたかった。

「令和おじさん」が菅氏の代名詞に(内閣広報室)

菅氏については、同じ投稿でこう書いた。

ただ、官房長官から首相への横滑りには反対だ。

第1に、モリカケ問題などでの説明不足の責任を引き継ぐ。安倍内閣秘密主義とはいわないが、守りの姿勢は菅長官が主導したものだ。

第2に、霞が関の人事権を8年間も握ってきたことからくる、息苦しさがある。「官僚の専門性尊重」と「政治の意向反映」との両立は難しいが、人事権者が適度の長さで交代することで風通しを良くすることが大事だ。人事権者がいずれ変わることで我慢できるのだ。

第3は、対外交渉での経験不足だ。経産相などで対外交渉を実地に経験することが不可欠だ。

1年間だけだから、外交は二の次でいいという人がいるとしたら、この1年の外交は大して重要でないということで、酷い認識だ。安倍首相が引き続きトランプとの関係などで一定の役割を果たし続けるのかもしれないが、それで大丈夫とはいいがたい。

上記の理由のうち、第1と第2は、安倍政権の8年間がいかに見事なものにせよ、長期政権なりの問題として出てきた問題であり、安倍首相が継続するにせよ、官房長官をほかの重要閣僚に転出させた方がいいと思うほどであった。

また、菅氏が首相になるのなら、いったん別のポストを経由したほうがいいと思った理由でもあった。

もうひとつ、心配なのは、「文春砲」である。安倍首相は自民党の政治家のなかでも、際だってクリーンな政治家だった。

祖父の岸信介元首相や父の安倍晋太郎元外相は、古い保守政治の世界に生きた人であるから、それなりにブラックな面がないわけでもなかった。

しかし、安倍首相自身は、父親の地盤を引き継ぎ、苦労がなかったとは言わないが、危なげなく当選し順風満帆で政治人生を歩んできた。それほどの政治資金を必要としたこともない。

側近政治というのはそういう面もあるが、むしろそれは、クリーンであることに神経質になった結果のようにもみえる。

モリカケ桜などというのは、些細でしかも何が疑惑なのかよく分からない話だ。しかも、疑惑そのものでなく、それを隠したということが問題の核心になっているのは、本来の疑惑があまりにも些細で根拠もないからともいえる。

安倍氏と同じ世襲政治家の岸田氏などは、比較的にクリーンで済んでいるのでないかと思うが、世襲でも官僚出身でもないたたき上げの政治家の場合、安倍氏とは比較にならないほど資金などの確保に苦労しているし、また、自分自身が関わっている。それは、菅氏でも二階氏でも同じだ。

それをモリカケなどで安倍氏を攻撃したのと同じレベルで難癖をつけて攻撃するなら、ほとんどの政治家は爆発炎上するのではないか。おそらく菅氏も苦労すると思う。もちろん、疑惑は追及するのは正当だが、モリカケのように、無理矢理にそれを国政上の重要問題にするのはやめてほしい。

まず、来週あたりの文春砲がそれほどたいしたものでないことを祈りたい。

しかし、それが確実でもないなかで、菅氏がダメなら石破氏しかいないという“悲劇”を避けるためにも、岸田氏も立候補してほどほどに健闘してくれるほうがなにかと好都合な気もする。

ただし、菅氏に期待もある。それは、携帯電話値下げとか、明らかにおかしいと誰しもが思っていた問題への果敢なとり組みだろう。全体のバランスはともかく、それを重ねていったら、かなり日本はいい国になるし、それができるのは、橋下徹氏と菅氏くらいだ。

日本人がコロナ戦争の勝者となる条件
八幡 和郎
ワニブックス
2020-06-17
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八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授

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