バフェット氏は総合商社がお好き?

岡本 裕明

バフェット氏Twitterから

ウォーレン・バフェット氏が日本の5大総合商社の株式の5%程度を取得し、最大9.9%まで買い増しすると報じられています。正直、驚きました。

アメリカの株式市場で日本の会社の名前が出てくることはあまりなく、ソフトバンクは例外的として、最近ではせいぜいセブンイレブンのスピードウェイの2兆2千億円のコンビニ買収ぐらいだったと思います。それでもコンビニ事業がアメリカで陽があたる業種ではないのでサラッとしたものでした。

今回の商社の5%株式取得に関して当地の報道では「Buffett Hunts Abroad With $6 Billion Wager on Japanese Firms(バフェット氏、海外に触手、日本企業に6ビリオンドル<6000億円>の賭け)」(ブルームバーグ)とあり、「ハント(直訳では狩猟)」と「賭け」という言葉を使っているところに記者の疑心暗鬼な気持ちを読み取ることができます。

バフェット氏は長年、決して日本株ファンではありませんでした。過去もほとんど日本株に投資したことはありません。そもそも過去、日本株の代名詞だったハイテク関連の投資は好きではなく、インフラ関連や生活必需関係に投資の軸足を置いていました。2016年にアップルを遅まきながら購入、これが当たり、バフェット氏率いるバークシャー ハサウェイ社のポートフォリオ上、アップルの占める割合が5割を超えてしまいました。

一方、今までお気に入り銘柄であった航空関連や銀行株をコロナの時期に次々に売却したのは時代の変化を見通した可能性もあります。つい先だってはこれまたあり得ない世界第2位の金鉱山会社の株式に投資をしました。こう見ると8月30日で90歳になったバフェット氏はその立ち位置を大きく変えつつあるようにも感じます。(もう一つの見方は投資先やポートフォリオなどの決定についてバフェット氏ではなく同社の他の人が決める影響力が強まっている可能性もあります。)

総合商社を英語でいうとtrading house、trading companyというのですが、日本独自のビジネスで適正な訳がなく「Sogo Shosya」という日本語がそのまま英語としても使えます。それでも80年代ならともかく、近年では商社も海外であまり表舞台に上がってこないのでknown as を前書きにつけないと意味が通じなくなっています。

ではなぜ日本独特のビジネスである商社だったのでしょうか?私は天然ガス関連のドミニオンエナジー、金採掘会社のバリックゴールド社に投資した点を踏まえ、資源を頭に描いているのではないかとみています。 ご存じの通り、資源株はその値動きが荒く、長いサイクルの中では極端な場合、10倍ぐらいの株価変動が起きます。現在、鉄鉱石は中国の需要が高まっていることもあり、金より値上がり率が高く、その方面の投資家では金より銀、銀より鉄鉱石という感じであります。

kscz58ynk/写真AC

また原油価格も40ドル台が定着する一方、天然ガスの需要も今後、日本を含め、安定的に伸びてくるはずで当面資源関係産業に明るさがみられると予想した向きがあります。ただ、資源、鉱山株は日本では少なく、カナダやオーストラリアに有力企業や成長企業がずらっと並んでいる中で敢えて資源のない日本の商社を投資対象としたのは商社の資源取引の役割を見出したのかもしれません。

ご記憶にあるかと思いますが、数年前、資源価格が暴落した際、多くの商社は非常に大きな損失を決算で計上しました。その際、一部の商社のトップは資源取引の比率を下げると発言していましたが、実情は商社から資源をとるとかなりスカスカになってしまいます。つまり、商社にとって資源取引は屋台骨であることは間違いなく、今後、様々な資源の活用などで市場の流れを見ながらフレキシビリティを持たせ、器用にビジネスをこなすのではないか、と考えたのではないでしょうか?

商社と我々の生活には直接的に触れ合うことはあまりないと思います。コンビニと商社の関係は知る人も多いと思いますが、基本は商社は関連の食品卸会社を通じた販売と流通という裏方を通じて稼ぐ仕組みになっています。また多くの輸入される食材、穀物、肉や魚も商社が絡んでいますが、スーパーマーケットで商社の名前を見ることはまずありません。

ただ、確実に言えることは真の意味での日本の食やエネルギーのみならずあらゆる生活、産業物資の供給とそのインフラを支えている強大な企業群であることは確かでバフェット氏がそこに目を付けたのなら鋭い、と改めて感服するばかりであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月1日の記事より転載させていただきました。