文春報道に違和感…ビズリーチは政争に巻き込まれた?

2020年09月04日 11:30

きのう(9/3)発売の週刊文春に「経産省に新疑惑  今度の癒着相手はビズリーチ!」という記事が掲載された。概要は文春オンラインの予告記事でも読むことができる。

記事の中身は、中小企業庁が昨今の事業承継問題の打開のため、後継者探しに悩む中小企業経営者の支援などを行う「事業引き継ぎ支援センター」で、ビズリーチの事業承継マッチングサイト「ビズリーチ・サクシード」との連携を、中小企業庁がいち早く進めてきたことを「癒着」だと問題視しているようだ。

文春記事では、中小企業庁の前田泰宏長官がビズリーチ創業者の南壮一郎氏との対談記事に登場するなど、関係性が近いことを指摘しており、引き合いにしている「前田ハウス」問題など、持続化給付金を巡る電通案件を彷彿とさせる「新疑惑」だと文春は言いたいらしい。

南氏(左)と前田長官の対談記事(ASCII.jpより)

文春の記事を額面通りに受け取ってしまうと、「ビズリーチ!」のCMでおなじみの新興企業と経産省・中小企業庁が怪しい取引関係を何かしているのではないかとの感想を持ってしまうだろう。しかし、上述の予告記事を最初に見た一昨日の段階では、個人的に疑問がつきなかった。

十数年の友人付き合いから感じた記事への違和感

私は南氏と十数年の友人付き合いで、現在グループで1300人を超えるビズリーチについても社員がひと桁の時代から存じているが、まず南氏は政治的な案件にムダに深入りするようなリスクを取る人ではない。かといって政治性のある案件にウブでもなくて、楽天球団の創業に参画した頃に、渡辺恒雄さんがまさにドンとして君臨していたプロ野球界という、政治性の強いスポーツコミュニティで鍛え上げられており、裏舞台では数々の因習と格闘・苦心して乗り越えていった話も聞かされていた。

そこから類推するに、政治とか役所とかが絡むような「面倒臭い」世界に関わるなら、距離の取り方をうまくやっていたはずで、実際、これまでもビズリーチでは地方創生の転職案件など公共性のある案件に積極的に進出はしているが、役所向けの案件では営利性より話題性を重視していた印象がある。

ビズリーチ・サクシードは立ち上げ当時に取材もしたことがあるが、今回の件について、事実関係を会社側に(公式な窓口から)あらためて確認したところ、事業引き継ぎ支援センターと利用合意書を取り交わすなど正規の手続きを踏んでおり、センター側と「委託関係・金銭の授受(受発注取引)はありません」(広報担当者)という。

電通案件では、関連団体を通じて中小企業庁は総額600億円にのぼる取引関係があったが、ビズリーチ側とは無償だ。もちろんサイト内での事業承継がうまくいったときの“成婚料”でマネタイズはしているが、少なくとも電通と違い、本件では官との金銭的な取引はしていない。そのあたり、文春は「無償取引」の事実はなぜか記事にしていない。

それでも、文春や文春に垂れ込んだ側からすれば、「商機」の面で優遇しているではないかという言い分はあるだろう。春先に「事業引き継ぎ支援センター」と真っ先に利用合意をしたマッチングサイトはビズリーチ1社だったことも事実だ。

しかし、率直に行ってそれは機を見るに敏なビズリーチ側の営業企画力とスピードが他社より先んじただけだ。ネタの材料にしている前田長官と南氏の対談記事などの「親密関係」も、前田長官が相手が話題の会社、経営者ということで妙に気に入ってしまった感ではないか。でなければ対談記事に特定企業の経営者と登場することもあるまい。

経産省側が慌てて公募に切り替えたという話も事実なのだろうが、突き詰めれば経産省や中小企業庁(ひいては前田長官)サイドのガバナンス、コンプライアンス対応の問題ではないのか。

“社会部脳”の記者たちの切り取りは十分か?

私も社会部記者の経験があるから、文春などの週刊誌も似たような「社会部脳」の記者たちにありがちで想像がつくのだが、新進気鋭の企業はなにかと攻撃の対象になりやすい。経済記者はまだ心得があるが、ビジネス経験がないから複雑な利害関係の調整、あるいはそもそもの取引の順序、組織の動き方というものに「社会部脳」では理解できず、ずいぶんと一面的な話になったり、関係者の利害が対立したときに一方のシナリオに吹き込まれて騙されやすい。

今回の記事でも商工会議所関係者、あるいはその商工会議所が運営しているセンターの職員がいろいろと文春側に吹き込んでいるが、事業承継マッチングサイトのプレゼンスは、ローカルレベルの事業承継事業の関係者にとっては脅威や嫉妬、敵視の対象になっていることはないのだろうか。IT企業のローカル参入では地場の関係者との利害衝突は、よくある話だ。

時節柄、安倍首相辞任で政権を支えてきた官邸官僚や、その主力だった経産省内も不穏な動きがあるやに聞こえる。首相交代に伴う霞が関の力学変化の余波なのかはわからないが、いずれにせよ文春の記事は一方的に感じる。

※ビズリーチのCMのイメージです(oldtakasu/写真AC)

ビズリーチのように役員も社員も若い人が圧倒的に多い企業は、魑魅魍魎も生息している永田町・霞が関まわりの“有職故実”に不案内な人のほうが多いはず。社員の親御さんも文春を見て心配していそうだが、これも「有名税」だと思ってめげずに頑張るしかないだろう。

ちなみに私は南氏の友人として客観的な事実をもとに弁は書いたが、あくまで自主的な執筆だ。本記事を書くにあたって内容について忖度、癒着関係はない。

(本稿はアゴラの見解ではなく筆者個人の論考です)

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新田 哲史
アゴラ編集長、報道アナリスト

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