孫正義氏はなぜオプション取引に走ったのだろう?

2020年09月08日 11:31

ソフトバンクG 2020年3月期 第2四半期 決算説明会

孫正義氏の山師ぶりを改めて見せつけられたのがソフトバンクグループのアメリカ個別株の巨額のオプション取引であります。オプション取引を一言で説明するのは難しく、一言で書いても理解できないと思いますので敢えていたしませんが、デリバティブ取引であり、ドイツ銀行や日本の商社などがそれでずいぶん苦い思いをしたこともあります。

報道ではコールオプション(買う権利)のように報じられています。一切中身がわからないので推測でしか言えませんが、そんなストレートな手法で40億ドル(4200億円)も個別株式のオプションに投じるとは思えません。それなりの複雑なスキームを組んでリスクヘッジをしたものではないかと思われます。

かつて、ドイツ銀行が天文学的金額のデリバティブを行っていたと報じられていましたが実際には買う権利と売る権利をリスクヘッジのために両方行うことでデリバティブ総額は売りと買いで2倍となり天文学的になりましたが、実態は全然違うという落ちがあったのを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

今回のソフトバンクグループのデリバティブは日経が報じるようにブル コール スプレッド(権利行使価格の低いものを買い、行使価格の高いものを売る)の可能性を示唆するものもあるし、エクィティスワップを行ったという見方もあります。いずれにせよ、専門的すぎるし、事実が不明なものを論じてもしようがないのでここには立ち入りません。

私がびっくりしたのはソフトバンググループという会社が上場する投資会社であるわけでデリバティブで資金運用することをいくらそれを予告していたとしてもその巨額な運営とリスクを考えると上場企業として正しい経営方針なのかどうか、ここには疑問符がつきそうです。

特にオプション取引は勝てない取引ともいわれます。8割の負けと2割の大勝でバランスが保てるかどうかというわけです。しかも勝ち負けははっきり出ます。株式の長期投資ならば10年後に株価が戻ることもあるでしょう。オプション取引はそんなことはできません。

ではなぜ孫氏がオプション取引をすることを指示したのでしょうか?オプション取引は高度な知識とテクニックを要しますが、アメリカの市場、特にナスダック市場で個人のオプション取引が急増していました。それは2018-19年水準の3倍ともいわれています。一説にはコロナで家にいることが多くなり、政府からの何らかのコロナの補填資金が手元に入った人たちが高いレバレッジが可能なオプション取引に走ったとみるのが正しい見解だろうと思います。つまり、通常の株式よりはるかに小さい資金で大きな稼ぎを生み出せるオプションに賭けたというわけです。

ソフトバンクグループが「クジラ」と言われているならそのあたりにいた魚影の群れを一気にオプションで食ってしまったということでしょうか?それならば先週の木曜日以降の市場の大荒れは納得できるかもしれません。

しかし、それでは市場の中期的繁栄を自ら潰すリスクにも直面しているといえます。例年9月から10月は市場が荒れるのは機関投資家が9月末に向けていったん持ち高を整理するなどがあるからとされています。いずれにせよ、高値でロシアンルーレット状態にある市場をかく乱する要因となったことは確かでしょう。孫正義氏は相場師ではなく、事業家であるべきです。

孫氏の今回の取引でふと思い出したのがジョージ・ソロス氏が英国ポンドを相手に大勝負を打った話です。1990年、英国が国内の反対を押し切って欧州通貨制度に加入します。ところが同年10月に東西ドイツの統合で東ドイツ向け資金の需要が大きく、欧州通貨の金利は上昇、連動してしまったポンドの金利も上昇し価値が上がっていきます。一種の架空のポンド価値、バブルとも言える状態が起きていたのです。これに違和感を覚えたソロス氏が100億ドルともいわれるポンド売りを敢行しイングランド銀行がソロス氏という個人に負けたという歴史的な話であります。

ソロス氏はそれで大儲けした以上にポンドの価値が適正水準に戻ることにより英国市場に活気が戻ってきたという「美談」がついて回ります。ならば孫氏はナスダック市場が行き過ぎていることに警告を発し、個人投資家の熱を冷やし、適正なところまで落ち着かせることによりソフトバンクグループが投資しているIT関連銘柄の株価を本来のあるべき水準に引き戻し、数年というタームで利益を得ようとしたのでしょうか?

言い換えれば2000年代初頭に起きたITバブルとその崩壊の二の舞を防ぐためだったとすればこれは美談になります。

孫氏がそこまで考えたかどうかはわかりません。レイバーホリディが開ける9月8日は一斉に仕事モードに戻る日です。その時、市場がどのような反応をするのか、ある意味、楽しみでありますが、個人的にはいずれにせよ、一定の落ち着きを取り戻してほしいとは思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月8日の記事より転載させていただきました。

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