コロナワクチン治験中断:多様性を科学できない専門家だけでいいのか?

2020年09月10日 06:00

英ケンブリッジにあるアストラゼネカ本社(Wikipedia)

アストラゼネカ社が進めていたコロナワクチンの治験が日本を含め、全世界で中断となった。このワクチンはチンパンジーのアデノウイルス(風邪のウイルスの一種)にコロナウイルスのスパイクタンパク遺伝子を組み込んで作るようにし、人の体内で免疫反応を起こす仕組みだと公表されている。

常識的には、有効性を判断できる段階にはないので、中断は重篤な副作用が起こったためと考えられる。注射部の痛みや軽い発熱は感染症ワクチンではよく見られるので、それではなく、かなり重い症状が出たものと推測される。

アデノウイルスは遺伝子治療にも用いられたもので、アデノウイルス自体が重篤なアレルギー反応を起こすことが知られている。その可能性とコロナウイルスのスパイクタンパクに対する免疫反応が起こり、それが何らかの形で被験者に重篤な反応を起こした可能性が考えられる。現時点では何とでも言える。

以前に、コロナウイルス風邪と川崎病の関連性がある可能性をこのブログでも紹介した。また、欧米では、血管炎や脳梗塞が合併したと報告されている。抗コロナ抗体、あるいは、抗コロナTリンパ球が、われわれの体(血管)を敵だと誤認識して攻撃したのかもしれない。

アデノウイルスによって引き起こされたアレルギーなら、他の製薬企業の開発しているワクチンで同様の反応が起こる可能性は低いが、もし、コロナに対する免疫反応が誤認識で起こす副作用ならば、今後のワクチン開発に大きな影響を与える。

そして、ABO血液型がコロナ感染の重症化に関連する可能性に関しても触れたことがあるが、ABOの違いは糖鎖をつける酵素の働きの違いで起こっているので、ウイルスのスパイクタンパクの糖鎖修飾の違いが、ウイルスがわれわれの細胞に入りこむ強さの違いに関わることも可能性として残る。したがって、この副作用が糖鎖修飾とHLAの組み合わせに関連している可能性もある。

ウイルスそのものはかなりわかってきたものの、人の免疫系の個人差による重症化や感染しやすさなどはまだまだブラックボックスの中だ。ウイルスや人の多様性などちゃんと分かっていない専門家会議でいいのかと改めて思う。

PS: テレビで中断は脊髄炎が原因ではないかと言っていた。中断に至った患者数が問題だ。1人であれば、免疫反応が上がった偶発的なものかもしれないが、複数だとかなり厳しい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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