予定価格の積算ミス:業者にとっては死活問題

2020年09月13日 06:00

日本の法令では公共契約に際して予定価格を設定することが義務付けられている。価格の安さで勝負する公共調達の契約においては、予定価格は「上限価格」として機能し、最低価格自動落札方式の場合、この予定価格を超えない範囲で応札業者中、最低価格を提示した業者が落札者となる。

写真AC:編集部

この予定価格で積算ミスが発生した場合どうなるか。こんな記事(「県発注工事で積算誤り~予定価格より低く、契約は継続:三重」)に接した。

三重県は8日、工事の予定価格を実際よりも低く積算して業者と契約したと発表した。業者との契約後に誤りが発覚。正しい予定価格で入札をすれば別の業者が落札した可能性があるが、県は「落札者が契約の継続を希望している」とし、入札をやり直さない方針。

同記事によれば、「県によると、積算を誤ったのは鈴鹿市内の農業用水路を整備する工事。四日市農林事務所の担当者が一般競争入札の予定価格を積算した際に材料費の一部を計上し忘れ、予定価格は実際より155万円ほど安い約2億1229万円とな」り、ある業者が1億9756万円で落札したが、その後、「入札に参加した別の業者から県に指摘があって積算の誤りが発覚。県は入札参加者に謝罪し、事情を説明した」とのことである。予定価格が事後公表なので、正しい予定価格を前提に応札価格を決めた業者が、後から指摘したのだろう。

(価格以外の要素も考慮する)総合評価落札方式が採用されているのであれば、事情は変わるが、記事の書きぶりからすれば影響の範囲は価格に対するそれに限定されているようだ。最低価格自動落札方式でも総合評価方式でも同じ問題が発生しているということだろう。

この予定価格の積算ミスが入札の結果に影響を及ぼすとすれば、実際の落札状況を見る限り、積算ミスによって本来であれば最低制限価格に一番近かった業者がそれを下回ることで「失格」となり、より高い業者が落札する結果となる、というものだろう。最低制限価格は予定価格にリンクしている。三重県もこの件についてそのホームページで公表しているが、そこには言及していない。もしかしたら低入札調査基準価格なのかもしれないが、問題の本質は変わらない。

発注者からすれば本来失格となるべき業者と契約する可能性を生み出したことになり、最低制限価格制度の趣旨からすれば大いに問題だ。落札を逃した業者からすれば「死活問題」となる。ただ上記記事では「正しい予定価格で入札をすれば、より近い金額で入札した別の業者が落札した可能性があるが、県は再入札をせずに現状の契約を維持する。」とだけ記載されており、これでは「予定価格に近い業者が…」と読めてしまう。

予定価格の積算ミスは、競争が激しい場合には下限価格に集中するのでちょっとしたミスが結果に重要な影響を及ぼす。復興需要等の特別な要因がないと、公共工事の発注量は過去に比べて随分と少ない。少ないパイの奪い合いの状況のところが多い。業者にとって死活問題だ。昔であれば、不満を抱く業者には随意契約を出すとか、下請けに入れるように取り計らうような、官民間、民民間の「調整」もあっただろうが、コンプライアンスに厳格な今、そういう訳にもいかない。調整が効かなければ法的紛争のリスクがその分、高まることを意味する。

三重県庁(Wikipedia:編集部)

三重県は、

「本⼯事は契約を締結しており、受注者には帰責性がないこと、再度の契約⼿続きを⾏った場合には来季の営農に⽀障が⽣じること等を勘案し、現契約を継続します。なお、⼊札に参加した全ての事業者の⽅々に対し、謝罪及び事情説明を⾏いました。」

と説明しているが、やり直すほどの重大なミスではなかったということか。

この件がどのような結末を迎えるかは分からないが、行政は過去には想定されなかったリスクに晒されているという現実を改めて認識させるケースであるといえるだろう。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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