尖閣問題で「国有化以来」という表現を止めよう

2020年09月15日 06:00

顧問・麗澤大学特別教授   古森義久

尖閣諸島の日本領海への中国艦艇の侵入に関しては、日本メディアの多くがいつも「日本政府による尖閣諸島の国有化以来」という表現を使う。日本が国有化の措置をとったことが中国側の侵入の原因であるかのような表現である。

尖閣・魚釣島(政府サイト:編集部)

朝日新聞のごく最近、2020年9月7日の記事にも以下のような記述があった。

「日本の民主党政権が12年9月に尖閣を国有化。すると中国は反発し、公船の航行は一気に月20日以上に増えた」

ちなみに上記の記述で「公船の航行」というのは日本側の領海や接続水域への侵入のことである。しかも「公船」というのは中国の人民解放軍の指揮下にある中国海警の武装艦艇のことなのだ。さらに以上の記述で最悪なのは、日本側が国有化の措置をとったから中国が反発し、侵入の回数を増し始めたのだ、というような理屈である。

そこには「日本政府による尖閣諸島の国有化→→中国艦艇の日本領海への侵入」という因果関係が描かれている。その背後には日本側の国有化がなければ、中国側の侵入もなかっただろう、というような思わせが浮かんでいる。

以上の朝日新聞の記述に象徴される因果関係の示唆は間違っている。

中国側の尖閣への不当な攻勢や侵入は2012年9月の国有化の以前から顕著になっていたからだ。その一つの曲がり角は2010年9月7日の中国漁船による日本の海上保安庁の巡視艇への違法の体当たりだった。この中国漁船は日本領海内で違法な操業をしていた。日本側が取り締まるのは日本が主権を有する法治国家である限り、自明であり、責務だった。

体当りする中国漁船(産経新聞YouTube:編集部)

だが中国漁船はこの日本側の取り締まり、つまり違法操業の停止と日本領海からの退去を単に警告として求めたことに対し、日本の巡視艇に故意に衝突するという更なる違法行動に出たのである。この辺りの事実関係はすべて日本側のビデオに記録された。

日本側はこの漁船を拘束した。乗組員も身柄を拘束した。その後すぐに中国側の普通の乗組員は釈放し、船長だけ拘束を続けた。日本の法律に沿った当然の措置だった。日本側は中国人船長を公務執行妨害現行犯などで逮捕し、起訴する構えをみせていた。ところが突然、日本の検察は同船長を釈放してしまった。

その釈放は当時の民主党政権の菅直人首相が中国政府からの圧力と恫喝に屈して、検察側に「釈放しろ」と命令した結果だった、という真相を当時の前原誠司外相が2020年9月になって証言した。

官邸HP、Wikipedia

中国側では当時、日本側の中国漁船拘束に反対して、日本へのレアアースの輸出を止めた。中国に駐在していた日本企業の4人を軍事機密の保護規則に違反したとして逮捕した。中国各地で反日の抗議やデモが始まった。みな中国政府の尖閣対策としての反日威嚇行動だった。そして日本側がこうした中国の威嚇に屈した後も、尖閣水域への中国艦艇の侵入を増していった。

そもそも中国側の日本領海侵入は漁船体当たり事件の前から増えていたのだ。そんな侵入の増加への日本側の抑止策が体当たり漁船の捕獲だったのだ。

一方、日本のメディアがよく指摘する「日本政府による尖閣諸島の国有化」はこの漁船摘発事件の2年後だった。2012年9月である。この日本側の動きにも中国の反発は激しく、日本領海への侵入を増加させた。だが日本側の国有化はあくまで中国側の果てしない侵入行動への防衛策だったのだ。

日本の主要メディアはこの辺の事実関係を全く無視するかのように「日本政府の尖閣国有化以来、中国の活動が活発に」という趣旨の表現を繰り返す。いかにも日本側の行動が中国側の違法行動の原因となったかのような表現なのである。

この辺の事実関係を正確に認識して、もうこの「国有化以来」という記述や止めるべきである。その代わりに「中国漁船の体当たり以来」、あるいは「中国漁船の違法衝突以来」という記述に変えるべきだろう。

なぜなら中国の尖閣への軍事がらみの攻勢、日本領海への違法の侵入が増え始めたのは、2010年9月の中国漁船体当たり事件前後からだからだ。「日本政府の国有化」といのは、あくまでその中国側の違法攻勢への防御的な対応だったのだ。

古森  義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1981年、米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。1983年、毎日新聞東京本社政治編集委員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年9月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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