日本の弱点、再興の道筋

9月14日号の日経ビジネスの特集は「働き方ニューノーマル」」。実はこのところ、同誌の特集が概ねコロナ対策と回復の特集ばかりでやや食傷気味であります。「再興ニッポン 今、私たちにできること」「大廃業加速」「百貨店は終わったのか」「コロナに勝つ工場」「もうやめるノルマ、コロナ時代の営業新常識」「中国のコロナ後」「アフターコロナ資本主義」「コロナで見えた優良企業と幻滅企業」…とこの数カ月はコロナオンパレードであります。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

日経ビジネスだけに限らず、多くのメディアが取り上げるのはコロナ後の世界、変革の時代、元には戻らないコロナ後といった話だらけであります。もちろん私もそれを主張してきたし、そうあるべきだとは思います。論じられている内容についても概ね賛同できるのですが、さて、それが本当に現実的であるのだろうか、と私は思うのです。

全国の観光地、有名寺社を思い浮かべてみるとあることに気がつきます。伊勢神宮でも福井の東尋坊でも福岡の太宰府天満宮でもその道筋には同じような店がずらっと並んでいます。団子や土産物店を売る店が同じような商品を同じ価格で販売しています。なぜでしょうか?商圏に入り込むことで一安心し、そこから先は足並みを揃えるという行動規範が第一主義なのであります。

たまにデパートの紳士服売り場に行くとブランドごとに専門店化していますが、2-30あるであろう専門店はどこも同じものを飾っています。秋になれば秋物を、冬になれば冬物を飾りますが、カジュアルやビジネス用途といった違いがあってもどれも似たようなものばかりで結局、デパートに行って気迷いし、何が何だか分からなくなって手が出なくなったということはよくあります。ところが街を歩いていてふと見るとしゃれた服が飾ってあったりして「あぁ、これこれ」という具合で買ってしまうのです。

我々は韓国や中国のことをモノマネと言いますが、日本にもその傾向はずっとあります。ライバル社が新しい商品を出し、それが売れているとなれば「わが社も同じものをぶつけましょう」という戦略」はごく当たり前。しかも「わが社のそれはより品質が良く、価格も安い」という日本が最も得意とする「改善版」「改良版」を打ち出すわけです。ビールや飲料各社はその典型です。

日本企業は国際化したか、と言われれば否です。かつてはそれでも中小企業が売り上げ増進のために海外視察や海外のトレードショーに出展したりしましたが近年、その影は薄くなりました。昨年でしたか、ある地方都市の視察団20数名がバンクーバーにいらっしゃって懇談会をしたのですが、結局、北米のハードルが彼らには高すぎて手も足も出ないという感じのようでした。

私は今、バンクーバーを拠点に戦っています。29年間のカナダ事業で日本人向けビジネスは全売り上げの1%に満たないと思います。例えば昨年末に買収した日本語の書籍販売事業ですら8割がローカル向けなのです。教科書も日本語学校向けなどは別として主力の大学向け教材は対象が全員非日本人ですし、一般書籍や雑貨も日本人は少ないのです。日本人向けにビジネスをしてもよいのですが、成功しないのです。その理由は販売ボリュームが違うことと日本人は価格から入ることでビジネス対象として非常に難しい相手なのです。

以前、500室以上ある高級ホテルの経営に携わっていた頃、総支配人から「日本の旅行会社への卸売りを止めたい」と申し出がありました。日系の旅行会社からの価格や条件の要求が尋常ではない上に宿泊客と文化的ギャップが埋まらず、スタッフも苦労しているのがその理由でした。そこで「客単価がよく、やり取りもスムーズなアメリカ人向けに振り向けたい」というのです。その数、年間数千室規模ですが、日本向けを止めたとたん、業績が急拡大したことがあります。

日本の弱点、私から見れば「世界から相手にされにくい」であります。確かに個別の商品やサービスはよいものがあります。しかし、それを生かせていないし、売る方法も違う気がします。ネットで何でも売れるかと言えば売れるときもあるし、ターゲットに届かないこともあります。欧米は思った以上に人のコネクション、そして信頼関係の樹立、さらにはリファレンスが重要だと思います。

半年ほど前、役所との事業許可の折衝に於いて難しい条件を付されて「これは飲めない」と拒絶したことがあります。しかし、どうにか解決しなくてはいけません。悩んでいたとき、ふと、何年もやり取りしていないけれどかつてその役所の担当のトップだった方を思い出し、連絡を入れました。するとすぐに議員を紹介してくださり、その議員を介して折衝した結果、その条件が外れたのです。なぜ、そんなことが起きたかと言えば元役所のトップだった人と私はその昔、街角で井戸端トークをする関係で双方をよく知り合い、信頼関係が構築されていたことは言うまでもありません。

冒頭の日経ビジネス、9月7日号の「再興ニッポン」で柳井正氏が「世界はコロナで変わったんじゃない。うわべだけのものが全部ばれ、本質的なものが要求されるようになった」と述べています。その通りなのでしょう。本質とは何か、その本質を売るのは誰か、どうやってアプローチするのか、それはネットでどれだけ検索しても出てきません。人と積み上げる関係の中でこそ育まれるものです。

我々はネットで何でも解決できると考えがちなっています。これはとても危険で落とし穴が待っています。ネットは便利だけれど顧客は浮気性。絶対的関係はそんな生半可なものでは生まれないでしょう。お互いの信頼とは一歩ずつ築くのは今も昔も変わらないはずです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月16日の記事より転載させていただきました。