ベーシックインカムは「全国民への公平なバラマキ」

池田 信夫

コロナ騒動では、どさくさにまぎれて10万円の給付金が実現した。このように全国民に一律に払う直接給付が所得再分配としては理想で、経済学者は昔から提言してきたが、実現しなかった。それが実現したことは、歴史的な意味をもつ。

これは財政政策の革命だ、とフィッシャーは論じているが、この革命を一歩進めるのがベーシックインカム(BI)である。10万円の一時金ではなく、国民全員に定額の給付金を定期的に支給するのだが、ここで二つの考え方がある。

一つは政治的に可能な範囲で給付つき税額控除(EITC)として既存の社会保障に上乗せし、財源を国債でまかなうことだが、あまり財政赤字が大きくなるとインフレになる。民間の貯蓄超過額30兆円が限界だろうが、これは一人あたり毎月2万円で、景気とともに変動する。

もう一つの考え方は、既存の社会保障をBIで代替することだ。たとえば国民年金(基礎年金)の支給総額は25兆円、生活保護は3.8兆円、児童手当は2.1兆円、雇用保険は1兆円で、合計31.9兆円。これをBIの財源に充当すると、毎月2万円が支給できる。

これにEITCを組み合わせると、固定2万円+変動2万円の変動ベーシックインカムができる。これは4人家族で最大16万円だから今の生活保護とほとんど同じだが、2%以上のインフレになったら変動部分は減額する。

ベーシックインカムの財源は消費税で

これは現役世代にとってはハッピーだが、国民年金の受給者は毎月5.5万円の受給額が4万円に減るので、強い反対があるだろう。これを乗り超えるにはBIの支給額を国民年金と同じ月額5.5万円にする必要がある。その差額1.5万円の財源は22兆円必要だ。

これを消費税の増税で埋めてはどうだろうか。フリードマン以来の「負の所得税」では給付の財源として所得税を想定しているが、給付と財源は一体ではない。2008年の米大統領選挙で共和党のハッカビー候補は、BIの財源を連邦消費税に求める案を公約に掲げた。

今年度の消費税収は21.7兆円だから、税率を10%上げれば、22兆円の差はほぼ埋まる。その代わり所得税を減税し、法人税を廃止して税収中立にする。といっても企業の払う税金をゼロにするのではなく、利益に課税する法人所得税をやめ、すべての企業から公平に取れる消費税に一本化するのだ。

消費税が「逆進的だ」という人がいるが、これは逆である。クロヨンといわれる捕捉率の差が大きく、金融資産の60%をもつ高齢者がまったく払わず、源泉徴収のサラリーマンは100%捕捉される所得税こそ逆進的な税なのだ

大富豪も年金生活者も同じ率を払う消費税は、公平で透明な税である。資産を海外逃避しても、日本で消費すれば消費税は課税できるので、これは資産課税の強化にもなる。BIで最低所得を保障し、所得税を減税して消費税を増税すれば、世代間の所得分配は公平になる。

これは税収中立でも高齢者には増税になるので、非常に強い政治的抵抗があるだろう。だがこれから日本は超高齢社会になり、成長率1%としても、2050年には国民負担率が70%になる。これをすべてサラリーマンが負担すると彼らの可処分所得は減り、将来世代は絶対的に貧しくなる。

将来の社会保障負担(鈴木亘氏の計算)

このようなゆがみをなくし、国民全員が公平に負担して公平にばらまくのがBIの考え方である。格差を是正するには、消費税を減税するより増税してBIでばらまいたほうがいい。選挙目当ての話はもうやめ、若者が日本の未来に希望をもてる税制を考えてはどうだろうか。