「万博担当相」人選が示す菅首相の鬼謀と衆院解散の行方

2020年09月17日 11:31

きのう(9/16)の菅政権の組閣人事では、河野行革担当相や平井デジタル担当相が注目されている。新政権は縦割り打破や規制緩和、デジタル庁設置を掲げている以上、政策的にこの2人が看板であることに間違いはない。他方、政局的な観点から実に興味深いのに、あまり脚光を浴びていない閣僚ポストがある。今回から設置された万博担当相だ。

就任記者会見をする菅首相(政府インターネットテレビ)

この新閣僚について産経新聞が15日昼、「大阪万博担当相 設置へ」という速報を流し、自民党の提言を受けてさも急に決まったかのように受け取られていたが、もともとは経産相が“副業”として兼務していた。ご当地、大阪選出の丸山穂高氏も指摘するように、専任大臣のポストができるのは昨年4月に大阪万博に向けた特措法が成立した時点からの「既定路線」だった。

万博特措法が成立 専任担当相を設置(日経電子版 2019年4月19日)

首相交代のタイミングと重なったが、実は安倍前首相が続投していたとしても、衆院解散前の今秋に予定していた内閣改造で万博担当相は設置する予定だったのだ。

ただし、首相交代が影響したのか「異変」があった可能性がある。というのも、安倍前首相が退任する前の時点で、大阪の自民党は少なくとも初代の担当相については大阪選出の議員から選ばれるという期待を持っており、それを裏付けるだけの強い感触を得ていた節があるようだ。

大阪との縁がない新大臣サプライズ人事

ところが蓋を開けてみれば、就任したのは東京選出の井上信治衆議院議員(麻生派)だった。井上氏は国交省キャリア出身で、2003年初当選の6期目。安倍政権の前半に環境副大臣を務めた。しかし本人は選挙区の東京・青梅生まれ。これまで大阪とのゆかりは政治的にもない。実際、吉村知事とは面識がないようだ(参照:日刊スポーツ)。

万博ロゴ(政府サイト)井上万博担当相(自民党サイト)

仮に菅首相が大阪自民の議員選出を避けたのであれば、蜜月の維新に配慮して、住民投票を前に維新とは宿敵である大阪自民にポストを与えず、大阪政界とは利害関係のない井上氏を指名した…という説は誰もが思い浮かぶ。さらに総裁選で菅氏を支持した派閥に対する論功行賞の枠にも活用でき、重量級ではないポストとあって入閣待機組解消にも打ってつけだ。

また何よりも大阪政界は「不発弾」を抱えている。先日も書いたように、菅首相が衆議院の解散をすぐに断行する上で大阪の政治事情がネックになっているのだ。

おさらいしておくと、維新が、都構想の住民投票と衆院選の同日実施(11月1日想定)をめざす一方、自民党大阪の都構想反対派の市議、元市議らが、住民投票での対立から公明党の現職がいる衆院選の選挙区に無所属で立候補すると明言。公明党側が選挙戦の情勢をかなり懸念し、直近での解散に反対している。

そうした事情から万博担当相をあえて「よそ者」にすることで不発弾を思わぬ形で炸裂するような刺激材料にしなかったというのも政権運営としては無難な選択といえる。

「公明党が狙っていた」説が出る背景

しかし、コトはそう単純なわけでもないようだ。というのも一部で「公明党が万博担当相を狙っている」(近畿選出議員)と警戒する向きがここ最近あったのだという。それが事実なのかは判然としないが、事実でなかったとしても、本当に公明党が新設ポストをゲットできれば政治的な利益は大きいから、そうした憶測が出てくるのだろう。

それは大阪が、公明・創価学会にとって衆議院で19ある選挙区のうち4人も選出されている地盤をさらに強固にするというだけではない(ちなみに東京は25選挙区のうち公明は1人)。

大阪万博イメージ(経産省サイトより)

万博担当相というと華やかなイベントを取り仕切るイメージがあるが、万博会場の大阪市・夢洲(ゆめしま)はIRの候補地にも挙げられており、開発途上の人工島としてポテンシャルが大きい。万博が終わったあとも、巨額の建設プロジェクト構想が存在し、商機を狙うゼネコンにとって夢洲は文字通り“ドリームアイランド”なのだ。首都圏の人には、さながらバブル期の頃の東京でお台場の開発を構想するような状態だといえば理解しやすいだろう。

他方、公明党は、自公の連立政権で長らく国交相ポストを担ってきた。過去には北側一雄氏、冬柴鐵三氏、太田昭宏氏、石井啓一氏といった、党代表や幹事長クラスが歴代就任し、今回の組閣で再任した赤羽国交相は5人目。民主党政権時代の3年余りこそ野党だったが、小泉政権の2004年に着任した北側国交相以来「独占」状態だ。

公明党本部(Wikipedia)

そうなると、ゼネコンは公明党に頭が上がらなくなる。そしてデイリー新潮が詳しく紹介しているように、そもそも公明党の支援母体である創価学会がゼネコンにとって「上客」なのだ。筆者自身も選挙での支援も相当なものだと聞いている。

安倍内閣でずーっと国交大臣ポストをもらい続ける公明党 その狙いは?(デイリー新潮)

仮に公明党が野心なく万博担当相のポストを得ることになったとしても、当然のことながらゼネコンは公明党や創価学会に対して、ますます揉み手状態になるのは間違いない。

菅首相「鬼謀」の人事?

読者はもうお分かりだろう。万博を政治的に取り仕切ることは、“イベントの管理人”だけでなく、関西でも指折りの大型開発案件を抱える意味合いを持つ。万博担当相は「第二国交相」ともいえるポストといってもいい。

そう考えると、実際に初代万博担当相に就任した井上氏は、自民党議員だが国交省出身。政治的には「適任」だったと言える。もちろんIRの所管も国交省だ。また、井上氏自身は初当選以来、公明・学会の手厚い支援を受けるなど関係性は良好に見受ける。公明・学会、古巣の国交省と政治的な“調整”案件が発生したとしても連携はスムーズだろう。

ここまで見て、菅首相の今回の人事は党内融和、維新対策というだけではなく、公明対策、国交省対策、業界対策としても絶妙で、深謀遠慮を超えた「鬼謀」にみえるのだが、筆者の穿ち過ぎだろうか。

この人事が解散総選挙の戦略にどういう意味を持つのか、今後が興味深い。

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新田 哲史
アゴラ編集長、報道アナリスト

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