低金利が招く所得格差拡大

アメリカの中央銀行に当たるFRBがその政策決定会議、FOMCで2023年末まで、かつ2%のインフレが起きるまで低金利の長期化を打ち出しました。一方、低金利下の中、世界で所得格差が浮き彫りになったのも事実です。所得格差と低金利の関係について考えてみましょう。

(写真AC:編集部)

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アメリカが本格的な超低金利になったのはリーマンショックの衝撃の最中の2008年11月でした。同年1月には政策金利は3.00%であったものの徐々に下がり、同年秋に世界経済が激震に見舞われた際には金利もつるべ落としとなり、11月には0.25%になりました。その後、この0.25%という超低金利は実に7年も続き2015年11月にイエレン議長(当時)がようやく金利を上げ始めたのです。

ところがその上げ基調をイエレン氏からバトンを受けたパウエル議長が更に継承したもののトランプ大統領から烈火のごとくその金融政策に不満をぶちまけられ、19年5月までの2.50%をピークに下げに転じます。そしてコロナとなった今、再び、0.25%という「振り出し」に戻り、リーマンショックに始まった長期超低金利時代の第2幕が切って落とされているわけです。

低金利となるとなぜ、所得格差が生まれるのでしょうか?一言でいうと銀行預金から生まれる金利収入がなくなる一方、ある程度余裕資産がないと株式投資などに入り込めないからです。

日本の場合をみると30代の方の金融資産のポートフォリオは78%が現預金と保険資産です。株式は15%程度。40代や50代になると金融資産の80%以上が現預金と保険資産で株式は7%程度しかありません。ほぼ金利がゼロの時代に8割近い資産を全くお金を働かせずに大事に抱え込んでいるのです。

この背景にはいくつか理由があります。一つにはそもそもの金融資産の絶対額が少ないことがあります。平均では30代で530万円、40代で700万、50代で1200万円程度とありますが、中央値で見ると30代は240万、40代が365万、50代が600万円という水準です。

会社勤めをされている方の場合、その人の生涯収入額は社会人になった瞬間から概ね見えています。あとは支出との兼ね合いで増やす方もいますが、それでも絶対額はどれだけ会社で優秀な成績を収めても同期よりゼロが一つ多い収入を得ることは100%ありえないのです。

となるとある程度の年齢になると生涯設計を立て始めますので余計コンサバになり、しっかり貯めて老後に備えるという行動に出やすくなるのです。「アリとキリギリス」の話ではありませんが、自分だけはキリギリスにならないように、と思うわけです。

ここで4-50代で株式の割合が7%程度と30代の15%から半減しているように見えますが、総金融資産額がほぼ倍増しているので実は絶対額でみると変わらないということになるのです。かつて、日本では投資を増やそう、という働きかけが何度となく行われましたが見事に失敗していることが分かると思います。なぜか、といえばリスクマネーに資産をアロケートするほど月々の家計収支が十分ではないのです。ならばリスクを取るより減らない銀行預金の方がまだましと考える人が圧倒的に多いのです。

アメリカには古い格言があります。株式などの投資に充てる金融資産の割合は「100マイナス自分の年齢」の%を仕向けるというものです。例えば30歳なら70%が株式、70歳なら30%が株式とされます。ところが最近の低金利下で100ではなくて110-120にするべきという声があります。とすると30歳なら8-9割を、70歳なら4-5割を投資に充てよ、というわけです。かなり無謀ですね。しかし、仮に収入の絶対額が大きければ生活に必要な家計収入の額(=家計の固定費)の比率が下がってきますので投資に仕向ける余力が増えるのです。

ダウ平均を超長期で見ると途中で凸凹はありますが確実に成長しています。一方、日経平均は89年のピークからいまだに4割近く下回るのです。これでは投資に対する姿勢はそもそも違いすぎるというものです。

次になぜ、低金利が所得格差を生みやすいか、です。皆さんに今から100万円貯めてください、というとそんなに簡単にできないというかもしれません。では手持ちの100万円を200万円にしてくださいと言われたらどうでしょう?2倍です。日本で金利収入だけで達成するには数万年ぐらいかかるかもしれません。では1000万円を1100万円にと言われたらたった1割です。1割ぐらい増やすなら株式市場でスキルがある人がその気になればせいぜい1カ月もあれば達成できなくはないレベルです。つまり、株式市場に投入できる元手があるのとないのでは増え方がまるで違うのです。

金持ちがどんどん金持ちになる理由はその多くは事業家であり、自分の会社の株主だったり、金融資産や401Kで株式を大量に持っているケースが多いと思います。それらの増え方は%は同じでも絶対額の増え方が加速度的になることもあります。ここでいう加速度とは複利的運用をするという意味です。例えば上述の1000万円を一か月で1100万円に増やした場合、その増えた100万円を更に運用すれば同じ10%/月でも2カ月目は1210万円になり、10万円余計に増えるのです。それは逆に言うとじっと持っていてもだめでどんどん売買を繰り返していく必要があるともいえます。

低金利とは本来であれば企業の投資を促し、消費者に消費を促すものです。ところが実際には企業の投資には機能していますが、消費者は欲しいものが飽和しているので投資に回りやすくなり、持てる者がどんどん資産を増やす一方、そもそも景気が悪いから金利が低いわけで、資産や収入が少ない人は欲しいものが買えないどころか、仕事にありつくのが精いっぱいということになるのです。

その点からすれば世界で続く低金利政策は格差が更に増すのは摂理ともいえるわけで、今後、その開いたギャップが社会の中でどう捉えらえられるかが着目されるところになるでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年9月17日の記事より転載させていただきました。