10月からの電子帳簿保存法改正 〜 システム導入で留意すべきこと

2020年09月20日 06:00

※画像はイメージです(William Iven/Pixabay)

2020年10月1日に電子帳簿保存法が改正されます(※1)。クラウド系会計システムの多くが対応しており、各社の営業活動が活発になっているようです。

彼らが、最も力を入れているのが「経費精算」システムです。社員の出張や、備品購入など、手がかかる精算業務を効率化する、というものです。

スマホでレシートを撮影し、自動仕訳されたデータをクラウド上に保存する。撮影画像のスキャンに加え、オペレーターがチェック・修正を行い、読み取りミスを防ぐ。そういった優れた製品・サービスも登場しています。もはや、アウトソーシングと言ってもいいのでは? と思うほどです。

また、「導入で、XX万円の経理コスト削減! 」など、アピールにも余念がありません。

しかし、そうしたサンプル事例や、謳い文句をそのまま受け取って、導入したものの、期待した効果が享受できない。そういったことが少なくありません。原因は「事前準備」不足です。そのため、実務で運用しづらい。管理レベルが低下する、などの失敗がおこっているのです。

2020年08月15日の記事『「効率化」をうたう会計システムが売れない理由』においては、システム会社側の視点から問題点を考察しました。

今回は、導入する企業側の視点で、システム導入は、どのように行うべきか。どのような準備が必要なのか、を考察してみたいと思います。

単純な事例で納得していないか

「経費精算は、どこの会社でもだいたい同じ作業をやっている。だから汎用的なシステムで十分」
こういった意見が散見されます。

それほど単純ではありません。「実務」は複雑、「管理会計」はさらに複雑です。

どの程度複雑なのか。システム会社のサンプル事例と比較してみましょう。

単純なサンプル

多くのシステム会社が提示しているサンプル事例は、以下のような交通費の精算です。

1.交通系ICカードの読み込みや、領収書などのスキャン
2.自動仕訳「旅費交通費」の計上(伝票発行)
3.従業員への支払い(振込データ作成)

単純でわかりやすいですね。サンプルとしては申し分ないです。

しかし、単純だから「判断」の必要がない。だからこそ「機械的」に処理できる、ともいえます。

交通費が全て「旅費交通費」とは限らない

実務は少し複雑になります。

電車賃やタクシー代だからといって「旅費交通費」になるとは限りません。取引内容により、以下のような勘定科目に分かれます。

1.接待交際費
接待目的の交通費です。自社パーティーの来客送迎に使った、タクシー代などが該当します。

2.売上原価(=直接経費)
製品製造にかかわる交通費です。受注製品の、打ち合わせのための電車代などが該当します。

期末になっても、まだ販売されていない製品や、製造途中の製品(仕掛品)のための交通費は、翌期に繰り越され、当期の費用にはなりません。したがって、「どの製品の交通費なのか」といった情報が必要になります。

3.立替金
他社負担の交通費で、後日請求するものです。従業員を他社に派遣しているケースなどで用いられます。

こういった場合、交通費は実費請求することが多く、タクシー領収書や外勤精算票などの添付が求められることも。「どこに請求するか」といった情報が必要になります。

4.旅費交通費(販管費)
上記のサンプルと同様、発生した期間の費用として処理されます。

このように、実務は、サンプルに比べ、やや複雑です。内容で「判断」するため「機械的」処理が難しい。結果「手動」で処理することが多くなります。

管理会計を行う場合

管理会計を行う場合は、さらに複雑になります。

部門別・地域別・事業別など、セグメント別の損益計算書を作成している企業も、多いのではないでしょうか。

セグメント別損益計算書の作成には、各費用ごとのセグメント情報が必要です。上記サンプルの場合、「どの事業のために使った交通費なのか」といった情報を、付与しなければなりません。

どのセグメントに該当するかは「管理方針」に基づいて「判断」します。機械的処理が難しいため、「手動」で処理することが多くなります。

実務や管理会計においては、「手動」処理せざるを得ないケースが多々あります。新システムを導入し、作業効率を向上させるためには、どのような準備をすべきでしょうか。

経理部門は仕様を確定させておく

経理部門において実施しておくべきこと。それは、業務の単純化と、仕様の確定です。

事前に、複雑な処理を極力単純化・パターン化し「判断」箇所を減らす。従業員が判断しやすい「勘定科目名」を採用する、など行っておくと、仕様確定が円滑に進みます。

そのうえで、必要な作業や情報を「仕様」としてまとめましょう。そして、導入予定のシステムが、「仕様」に、どこまで対応できるか。対応できないケースは、どのように処理するか。その結果、総作業時間は削減されるのか、などを検討しておきます。

社長は管理方針を決定しておく

社長が実施しておくべきこと。それは、管理方針の決定です。

経営者は「思いつき」で管理項目を増やしてしまうことがあります。「ビジネス雑誌で読んだこの方法を試したい」「異業種交流会で、こういった管理手法を聞いた」など。こういった、「思いつき」の影響を受けるのは経理部門だけではありません。多くの場合、情報が不足するため、現場に調査をかけることになります。結果、現場の作業が滞ることもあるのです。また、こういった「思いつき」全てをシステムに盛り込むと、カスタマイズ費用も莫大になります。

「思いつき」を防ぐための、ポイントは2つ。「何のために」管理するか。「誰に向けて」発信するか、を明確にすることです。

「何のため」に管理するのか。事業部長の評価のため。新規事業のPDCAを回すため。融資をうけるため。「誰にむけて」発信するのか。事業部長に向けて。金融機関に向けて、などが該当するでしょう。

この「何のため」「誰に向けて」の2点を明確にし、管理方針を決めておく必要があります。

導入は慎重に

電子帳簿保存法改正に伴う、システム会社の提案の多くは、システム総入れ替えではなく、経費精算のみの部分導入です。安価なコストと効率化は大変魅力的です。

しかし、今回の改正に続き、2023年10月には消費税のインボイス方式導入(※2)が控えています。また、今後のコロナの影響も読みづらい状況です。

導入にあたっては、自社の財務状況と、経理業務・管理方針を考慮し、慎重に検討すべきでしょう。

[参考]
※1
紙で最低7年間保管する事が義務付けられていた、国税関係の帳簿書類を電子データで保管する事ができるようにするもの。2020年改正は、クラウド上のデータなどで、ユーザーがデータの改変ができないもの(クレジットカードの利用明細のデータなど)はタイムスタンプが不要になる、など。

※2
販売する課税事業者が、請求書にインボイス(課税事業者登録番号)を記載し、仕入側に交付する義務を負う。インボイスを発行できるのは、登録された課税事業者に限られ、免税事業者は発行できない。

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