「オンラインは下で、リアルは上」なのか問題

AK-69はUVERworldとコラボした「Forever Young」という曲でこう歌った。

「Yeah いつだってそうだろ ブルハ 尾崎 永ちゃんが教科書」

まさに、ティーンネイジャーの頃、このレジェンドたちの曲を聴いてきた。細かいことを言うと、それぞれ大事にしているものというか、社会との向き合い方、方向性が違うのだけど。成り上がりか、自分探しか、的な。ただ、私もこれらのアーティストに影響を受けてきた。個人的には永ちゃん、ブルハ、尾崎の順で好きなのだけど。

長年、永ちゃんのファンである。1999年からライブに通い続けている。忙しくていけない年や、逆に暇なのに何度も抽選販売に申し込んでもチケットがとれなくて涙した年もあったけど。1999年は、なんせノストラダムスの大予言の年なのだが。恐怖の大王はやってこなくて。永ちゃんはその年、50歳になった。「矢沢、続くまで、続けます!」と叫んでいたような。いま、彼は71歳。

まあ、よくある「矢沢は今年も老いを感じさせないステージだった」というテンプレは必ずしも正しくなくて。この5年くらいは、明らかに声が出ていない年や(ステージ上のMCでも認めていた)、不調でキャンセルになった公演があったことも事実なのだけど。その老いも含めて、永ちゃんの凄みを日々、感じている。

矢沢永吉、”3 BODY’S NIGHT(サンバディーズナイト)”プロジェクト

その彼が、未公開を含む未発売ライヴ映像3本を有料配信する”3 BODY’S NIGHT(サンバディーズナイト)”プロジェクトを始動。いても立ってもいられなくなり、3800円のチケットを購入し、PCの前で視聴した。配信されたのは、1999年のライブだった。まさに、私が初めてみた永ちゃんライブだ。

結論から言うと、楽しかった。懐かしかったし。彼は2000年代に入って、さらに大ブレークし。すっかりチケットも取りにくくなったけれど。当時はBOW WOWの山本恭司さんがバックバンドにおり(その後も、紅白などスポットを含め何度か起用されている)。「止まらないHa Ha」でステージをバイクで疾走るシーンもナイスで。タオル投げも圧巻だった。人生初だった。あのときのタオルはまだ持っている。

一方、3,800円分、楽しみ尽くしたかというと、そうでもなかった。ということは、はっきりと記しておく。いや、貴重な映像ではある。バックステージや、この武道館ライブのあとに行われたUSツアーの様子などもナイスだった。

とはいえ、矢沢の名言「俺はいいけど。矢沢はどうかな。」ではないが…。これでいいのかと思った部分もある。クオリティや、プレミアム感においてだ。コメント機能、チャット機能などもあったが、もっと永ちゃんコールで盛り上がりたかったのも正直なところだ。貴重な映像ではあるが、やや古いなと感じたり。その映像だが、運営側の書き込みでは、一部、配信が重いなどの現象も起こっていたようで。

今後も永ちゃんは配信企画をやると見ている。そのときに、矢沢ならではのプレミアム感をより期待したい。いつも、想像以上のクオリティで圧倒してきた永ちゃんだが、今回は世の中基準では合格点でも、矢沢基準では及第点くらいではなかったか。

この問題は突き詰めると、ビジネス関連のセミナーにしろ、大学の講義にしろ、音楽やプロレスにしろ、「オンラインは下でリアルは上」問題というものがあると思っている。私はそうは思っていないのだが、オンライン=悪という論調も散見され。結論から言うと、オンラインにもリアルにも石も玉もあり。ただ、新しい試みであるがゆえに、模索していて石が多かったり。また目立つのだろう。

自己保身ではないが、同僚や他大学の取り組みを見ていても、大学のオンライン講義も進んでいるものはますます進化しており。リアルではできないこと、やりにくいことが実現しており。コメント、投票、チャット機能を駆使したり、オンデマンド型の様々なファイルと、リアルタイムの講義を組み合わせたり。ゲストスピーカーもお願いしやすくなった。一方、先日、You Tubeの番組に出演したときもたれこみがあったが、WordやPDFの資料を共有して終わりというなかなかひどい講義も世の中にはあるようで。

私の趣味の音楽やプロレスについては、振れ幅が大きいかなというのが率直な感想だ。音楽にいたっては、「監視カメラによる盗撮じゃねえの?」というレベルの音質、画質のものもあり。一方、見逃したから詳しくは述べないが、先日のサカナクションの配信が、オンラインコンテンツの新しい世界を切り開いていたようで好評だった。

オンラインといえば、たまに無観客配信ものというのがあり。無観客ならではのテンションというものもあり。コロナショックの前、今から2年前のX JAPAN台風直撃による幕張メッセ無観客ライブは壮大な罰ゲームみたいなものだったが。あのときのYOSHIKIのテンション、好きだ。先日、再放送されていて。いま冷静にみると、リハの中継みたいだったが。そして、改めて、X JAPANは上手いバンドではなく、凄いバンドだと気づいた次第だが。

イベント動員の基準は緩和されたが。オンラインものの模索は続く。今後に期待しよう。

ANTHEMライヴアーカイブス・ストリーミング

この秋には、私が好きな、妥協しないバンド、ANTHEMがオンラインアーカイブ配信を行う。彼らならではの素敵なサムシングがあると信じている。


編集部より:この記事は千葉商科大学准教授、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2020年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。