月額10万円のベーシックインカムを考えてみた

2020年09月24日 17:01

BS-TBS「報道1930」より

竹中平蔵氏が「毎月7万円のベーシックインカム」を提唱して話題になっている。ネット上の反応のほとんどは「7万円では生活できない」という批判だが、支給額だけ問題にするのはナンセンスである。BIは既存の財源を置き換える制度なので、財源と一体で議論しないと意味がない。

それを理解するために、月額10万円のBIを考えてみよう。国民全員に(大人も子供も)一律10万円を給付すると、4人家族で年額480万円。これなら最低限度の生活はできるだろうが、支給総額は年間約150兆円。今年度の一般会計予算(当初+補正)とほぼ同額の財源が必要になる。

今年度の税収は63.5兆円しかないので、現在の政府支出にまったく手をつけないと、政府債務が150兆円の純増になり、国債を増発することになる。これは市中銀行では消化できないので、すべて日銀が引き受けるしかないが、大量のマネーが市中に出て財政インフレになる。政府債務と物価水準には、FTPLによれば

物価水準=名目政府債務/財政黒字の現在価値

という関係があるが、毎年150兆円の国債を発行すると名目政府債務は8年で2倍になる。物価水準は2倍以上になって大幅な円安になり、実質所得も金融資産の実質価値も半分になる。これは国民全員に50%のインフレ税をかけたのと同じで、シムズのいう「実質債務のデフォルト」である。

金融資産は外貨や実物資産に換えられるので経済は大混乱になるが、これを政府が統制すれば所得分配は一挙に公平になり、社会保障の大きな不公平も是正できる。これは論理的にはありうるが、若者が暴力革命でも起こさない限り不可能である。

社会保障はゼロサムゲーム

BIの問題は、財源をどうするかという問題につきる。政治的に実現するには、既得権を守る必要がある。所得再分配はゼロサムゲームなので、すべての人がハッピーになる解は存在しない。既存の社会保障給付をすべてBIに置き換えても126.8兆円なので、毎月10万円は出せない。

内閣府の資料

一つの考え方は定額支給の国民年金と生活保護と児童手当と雇用保険をBIに置き換えることだが、これでは31.9兆円しか捻出できない。もう一つの財源は所得税を払っている人がすべて受ける定額の基礎控除で、これは18.1兆円あるが、それをBIに置き換えても合計50兆円。あと100兆円足りない。

従来のBIの議論はここで立ちすくんでしまうが、解決の道はいろいろある。一つは規模を縮小し、給付つき税額控除として実現することだ。これは一定の所得以下の人には所得税を還付するもので、財務省が賛成しているので政治的に実現できるが、既存の政府支出に手をつけないと財政赤字が増えるので、国債でまかなえる限度に限られる。

財源は累進消費税で

もう一つは増税である。従来の議論はこれを所得税で代替することになっているが、負の所得税の元祖フリードマンも所得税がベストの解だとは考えていなかった。所得税(法人税を含む)は所得を操作しやすく、まじめに納税するサラリーマンが損する税制である。彼が望ましい財源と考えたのは累進消費税だった。

そのしくみは簡単で、毎年申告している所得から貯蓄額を引いて消費額とみなし、高額の消費税率を高くするものだ。これはアメリカでは昔から提案されており、2015年には民主党が法人税を廃止して累進税率の連邦消費税を創設する法案を議会に提出したが成立しなかった。

日本で法人税(毎年12.1兆円)をすべて消費税で置き換えると、消費税(21.7兆円)は平均6%ポイント上げなければならない。これを所得税率と同じ累進税率にすると最高税率は55%になるが、消費税についてよくいわれる「逆進的だ」という批判を黙らせる効果はある。消費税率ゼロ以下の人には負の消費税を還付すればBIになる。

消費税率をEU並みに平均25%まで上げると、税収は(個人・法人あわせて)約50兆円。これに社会保障財源と基礎控除の50兆円を合計すると100兆円で、竹中氏の「毎月7万円のBI」が出せる。残りの50兆円を国債でまかなえば、毎月10万円のBIは不可能ではない。

消費税率を平均25%に引き上げることは政治的にきわめて困難なので、それまでは過渡的に国債を財源とする変動型ベーシックインカムにし、月額5万円から徐々に支給額を引き上げてもいい。差額は個人所得税で調整し、歳入中立とする。

日本の社会保障は危機的な状況にあり、このままでは現役世代の負担が加速度的に重くなり、彼らの可処分所得が絶対的に減る。この大きな世代間格差を是正する第一歩として、BI的な直接給付は検討に値すると思う。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長(学術博士)

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