習近平主席の著書プロパガンダ展開の独書店に国民から批判の声

欧米諸国の反中国包囲網の影響もあって、欧米エリート大学で開設されていた「孔子学院」が中国の情報機関の手先となっていたことが発覚し、欧米で次々と閉鎖に追い込まれている。中国共産党政権の要請を受けて国営「中国印刷集団」(CNPIEC)は新たにドイツの最大手書店「タリア」(Thalia)で習近平国家主席の著書を並べるコーナーを設置するなど、出版物によるプロパガンダ作戦を始めている。そこでドイツとオーストリアのメディアの報道に基づき、中国共産党政権の出版物プロパガンダ作戦を紹介する。

中国出版集団の本社(公式サイトから)

中国武漢発の新型コロナウイルスが欧州に感染を拡大して以来、中国への評価は降下し、欧州の一部では中国人フォビアすら見られてきた。そこで傷ついた国家のイメージアップのために王毅外相が8月25日から9月1日まで欧州5カ国(イタリア、オランダ、ノルウェー、フランス、ドイツ)を訪問し、欧州の反中包囲網の突破を図ったが、その成果は乏しかった。同外相が訪問する先々で現地に住む亡命中国人や人権擁護団体から、北京の人権弾圧を批判する声が響き渡った。

そこで中国最大の出版会社、国営「中国出版集団」( China National Publications Import & Export Corporation)が中国文学、詩、子供の児童文学書などをドイツのベルリンやハンブルクのタリア書店でコーナーを設けて紹介するイメージアップ作戦を展開してきた。

ベルリンのアレクサンダー広場のタリア書店では中国関連の書物が大量に並んでいる。中国研究家によると、「多くの書物は中国共産党の思想に忠実な内容だ」という。中国共産党指導者の演説内容が書かれた分厚い書物の横に、児童文学や旅行記が並んでいるといったほうが正しいかもしれない。

CNPIECのプロパガンダ作戦はドイツだけではない。ウィーンのタリア書店でもCNPIECが書店と連携して中国の習近平国家主席の政治的著書を含む中国の書籍が相当のスペースを占めて並んでいる。オーストリアの日刊紙スタンダードが今月18日、23日付で大きく報道した。

オーストリア日刊紙スタンダード電子版は「世界で傷ついた中国のイメージを改善させる中国当局の戦略」という見出しで、ウィーン市7区マリアヒルファー通りにあるタリア書店で2つの棚一杯に中国関連書籍が並んでいると報じたばかりだ。中国の書物には小説、児童文学書、北京オペラ(京劇)の入門書、気功専門書などが含まれる。本棚には中国人著作家といった中立的な広告がつき、政治的プロパガンダとは分からないように工夫されている。

少し、CNPIECを紹介する、同社は中国共産党政権が誕生した1949年に創設された。中国出版業界では最大で最も競争力のある出版物の輸出入企業だ。総資産は32億元、営業収益は43億元。国内外に44の支店を有する。同集団の公式サイトによると、創設目標は「中国を世界に知らせる架け橋になること」と明記している。CNPIECは中国でオーディオビデオ製品の輸入と外国の新聞を外国居住者や会社に販売する独占権を有している。

一方、CNPIECと業務提携しているタリア書店はドイツ最大の書店だ。1919年創設。ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州のハーゲン市に本社を置き、昨年の売り上げは12億ユーロ、340の店舗を有し、6000人の社員を抱える。

ドイツ大手書店「タリア」(タリア書店の公式サイトから)

スタンダード紙によると、は9月18日、ウィーンのタリア書店では習近平主席のプロパガンダ書籍が少なくとも2冊(例「China regieren」)が並べられていたという。ベルリン、ハンブルク、ウィーンのタリア書店で中国出版集団の中国コーナーが開かれているという。

ベルリンやハンブルクではドイツの書店が中国共産党政権のプロパガンダに利用されているといった非難の声が聞かれる。ドイツ連邦議会の「ドイツ・中国議員団」議長のダグマール・シュミット議員は、「タリアと中国出版集団との連携は余り歓迎されない。中国コーナーには中国共産党の書籍が並んでいるから、読者は惑わされるだろう。タリア書店で中国共産党の書籍を宣伝するのは中国共産党の戦略だ」と指摘している。

独週刊誌シュピーゲルは「一種の Rack jobbing (※)だ。本の販売を促進するために、出版社側に小売りスペースを提供するビジネスだ」と受け取っている。すなわち、中国印刷集団はタリア書店と小売りスペースのレンタル契約を結び、そこで中国共産党のプロパガンダをしているわけだ。(※:得意先の小売店から特定の商品の棚の管理を任され、卸売業者が巡回販売を行うこと。商品の選定・値付け・陳列から店頭販促活動まで行う。)

ドイツのメディアによると、タリア書店の広報担当者は、「中国印刷集団との連携は中国社会に関する関心の高まりを受け、読者にサービスをすることが目的だ。いつまで続けるかは未定だが、ある一定期間だけだ。政治に関する2冊を除けば、児童文学書、旅行記、詩とフィクションなどだ。タリアでは中国に批判的な書籍も置いている」と説明したという。

ZDF heute(独第2放送の番組サイト)は9月18日、「タリアは中国共産党政権のプロパガンダを応援」という記事の中で、「タリア書店は最初はヘッセン州のレーダーマスクにある『China Book Trading GmbH』との連携と答え、中国出版集団との契約という事実を隠していた」と報じている。タリア書店側にも「国民から批判を受けるかもしれない」といった懸念があったことを物語っている。

タリア書店は中国共産党政権のイメージアップに駆り出された結果、ドイツ語圏最大書店というイメージを落としたことになった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。