知られざる災害リスク:建設作業員の補償問題が注目されるワケ

2020年09月28日 06:00

コロナ禍に見舞われた今年の夏も、大型台風や豪雨災害は、日本列島を容赦なく襲った。9月に入った直後も、「特別警報級」とされた台風10号が沖縄・九州に襲来。結果的にそこまでの勢力には至らなかったものの、九州で死者2人、鹿児島県を中心に890の住宅被害が出た(※1)

今回の台風被害の報道では確認できなかったが、災害発生直後の初動対応で命がけなのは消防隊員や自衛隊員などの公務員だけではなく、災害復旧にあたっている建設作業員たちも同じだ。彼らは自治体に協力して動いているが、不慮の事故に直面した場合、その補償が十分でないことが近年注目されているという。(アゴラ編集長  新田哲史)

himawariin/写真AC

建設関係者も命がけ

先頃、発生から9年半を迎えた東日本大震災。最初の3か月弱で復旧作業に関わった建設関係者の死傷者数は112人にのぼった。はしごや屋根から落ちるなど「墜落・転落」(54人)が最多で、「はさまれ・巻き込まれ」(11人)「激突され」(9人)などの災害に見舞われたが、作業中の余震により、本震で壊れかけていた天井や壁が落下して巻き込まれるといった事故も相次いだ(※2)

また、2016年4月の熊本地震のときも建設関係者8人が死亡。昨年9月、千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号の復旧時も、屋根の補修中に転落して重傷を負うなどの事故があった(※2)

各地に広がる、建設業と自治体の「防災協定」

一方、ここで注目したいのが「防災協定」の存在だ。先述した建設業の全てではないが、各地の建設業者や建設業協会は、地元の自治体と災害発生時に備えて平時から協定を結んでいる。これに基づき、各建設業者はいざと言うとき、救助や物資輸送ルートの確保などのため、人員や重機を投入して道路上の瓦礫を撤去したり、応急的に必要な施設の復旧工事を行なったりするのだ。

平成30年7月豪雨で甚大な被害が出た岡山県倉敷市(国交省中国地方整備局HP)

2018年7月、西日本を広域で襲った豪雨災害のときには協定に基づき、地元の建設業者が出動。岡山県では72社、延べ2万4,000人が、広島県では72社、述べ2万200人が災害対応にあたった(※3)。建設業者と自治体による防災協定は全国に広がっており、沖縄では2018年に国の出先機関である沖縄総合事務局と沖縄県、建設業協会が全国で初めて国、県、協会が3者で協定を結ぶなど取り組みは増えている(※3)

防災協定が増えている背景には、自治体が有事の際に技能をもった体制を備えられるだけでなく、建設業者側にも経営上のメリットができたからだ。2008年に施行された改正建設業法により、自治体が公共工事の発注先としてふさわしいかを審査する際、防災協定を締結している業者へのポイントが5倍に増えた。

防災協定の落とし穴

防災協定が各地で普及し、官民をあげて災害対応の体制が拡充することは社会的に心強い。ただし、先述したように「最前線」に立つ建設関係者が不慮の事故に巻き込まれることも少なくない。

ここで問題になるのが、防災協定が締結されていても、自治体の事業者に対する損害賠償責任があいまいになっていることが少なくなく、当事者の補償が十分でないのだ。

災害対応に当たった公務員が被災すると、当然のことながら手厚い公的な保障がなされている。また、民間人でも消防団員や水防団員が被災しても、公務員に準じた補償制度が手当てされている(※4)。実際、東日本大震災のとき岩手、宮城、福島で死亡・行方不明になった201人の消防団員に対して最大で1人約2600万円が支給された。

東日本大震災で津波に見舞われた釜石市(OFF/写真AC)

しかし、災害対応に当たった建設業の関係者については公的な補償制度が国レベルでは十分に確立されていない。建設事業者向けには、共済保険制度があり、事故があった場合、国の労災保険給付に上乗せして支払われる仕組みはある。

ところが、共済保険を支払うための条件となるはずの労災が認定されないリスクもあるのだ。

補償不足に関心が高まる背景

徳島大学の教授らが熊本地震の災害復旧工事で被災した事例を調べたところ、建設関係者が打ち合わせ中に倒れたのに労災が認定されず、社保と会社の見舞金で対応せざるを得なかったケースが判明。この事案は、地元の建設企業から問題視されているという(※5)

AIG損保企業賠償保険部で、建設業界を長年担当してきた山本実弘氏は、「労災の認定には『業務起因性』と『業務遂行性』が必要だが、災害発生時の特殊な状況下でのそれらの判定が難しい。このため政府労災連動型の保険にしか入っていない場合は注意が必要だ」と指摘する。

同社は昨年9月、防災協定で補償が不足するリスクをカバーする保険を発売しはじめたが(※6)、建設関係者からそうしたリスクの悩みを相談されたことがきっかけだったという。

「かつては緊急対応を自発的に行う事業者が多かったが、東日本大震災を機に権利意識も変わってきた」と山本氏。津波に襲われた小学校で多数の児童が犠牲になった事案を巡り、遺族が地元の県と市の責任を訴えて勝訴したように、この10年近く、災害時のリスクに対する補償をどうするか社会的な関心が高まった背景も後押しした可能性がある。

(参照)
※1 消防庁9月11日時点まとめ
※2 土木学会論文集「災害復旧工事の労働安全衛生法上の問題点と対策について」(2011年、豊澤、伊藤、吉川)
※3 一般社団法人 全国建設業協会「公共工事品質確保に関する議員連盟総会」(第7回)提出資料
※4 消防団員等公務災害保障等共済基金サイト
※5 土木学会論文集「大規模災害時の緊急復旧工事における安全管理と労務災害保障」(2018年、井上、中野、根来)
※6 AIG損保プレスリリース「防災協定発動時の建設業の労災リスクと第三者賠償リスクを補償する防災協定プランをAIG損保が開発

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