菅政権は新政策のグランドデザインを欠く

2020年09月29日 06:00

23日、デジタル改革関係閣僚会議で発言する菅首相(首相官邸HP:編集部)

デジタル庁創設、携帯電話料金の引き下げ、地方銀行の再編、不妊治療の保険適用など、菅政権は次々と新政策を発表しています。各論が脈絡なくばらばらと浮上しているという印象です。

河野・行政改革担当相は、「縦割り110番」(ホットライン)、押印(ハンコ)廃止など、これまた細切れです。ホットラインは4000通を超える意見が殺到して1日で停止です。

会見する河野大臣(政府インターネットテレビ:編集部)

フォーマットを決めておき、分野や課題ごとに区分けして受け付け、AI(人工知能)で集約し、デジタル処理するのが普通です。一方でデジタル庁構想、他方はアナログ方式の情報処理とは、ちぐはぐです。

押印廃止は意味のある課題です。それには決裁方法の変更の検討が先に必要なのに、いきなり押印廃止が飛びだしてくる。

それぞれ必要だとしても、ワイドショーが飛びつきそうなテーマが並んでいる感じです。グランドデザイン(全体構想、総合戦略)を欠いたまま、各論が走り出していることを懸念しています。

代表的なエレクトロニクス企業での経験が長かった知人の指摘はこうです。デジタル庁の創設なら、「まずDX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタル技術による業務やビジネスの変革)の全体構想を示し、それを達成するための工程表と予算を明示するが必要だ」です。

さらに「計画=plan、実行=do、評価=check、改善=actというPDCAサイクルを繰り返し、業務を継続的に改善していく」「デジタル社会を目指すなら、IT教育の貧困、IT教師の不足、海外へのIT留学の忌避などの対策など、課題は無数にある」と指摘します。

平井デジタル改革相は「小さく生んで大きく育てる」と発言しました。「小さく」から始めたら、次々と各論が出てきて、身動きが取れなくなる。菅首相も「早急に準備組織を発足させる」と、慌ただしい。これでは拙速に陥りかねない。

会見する平井大臣(25日、政府インターネットテレビ:編集部)

日本にはすでにグランドデザインがあるのに、それとの関係はどうなっているのか。経産省は18年に、グランドデザイン「DXを推進するためのガイドライン」をまとめています。菅首相は官房長官当時、経産省出身の今井総理補佐官と犬猿の仲でしたから、意図的に黙殺しているのでしょうか。

このガイドラインは「製品、サービス、ビジネスモデル変革し、業務、組織、プロセス、企業文化を変革し、競争上の優位を確立する」ことを目標しています。日本は経済社会のデジタル化が遅れており、このままでは「2025年の崖」に直面すると警告しています。

「2025年の崖」とは、「2025年以降、DXの遅れで日本経済に年間12兆円の損失が生じる」との予測です。もうすぐです。消費生活を塗り替えたアマゾンのような革新的な企業も生みだせるのか。政府が旗振りすれば、こうした企業がどんどん生まれてくるというものでもありません。

スクラップ&ビルドも忘却

菅政権に欠如しているもう一つの問題は「スクラップ&ビルド」です。コロナ対策に巨額の財政資金をつぎ込んだうえ、菅政権は新政策を続々とをぶち上げている。こんなことを続けていたら、財政は行き詰る。

政策運営の基本である「スクラップ&ビルド」は捨て去ったのか。「機構・組織の新設や新規事業の開始(ビルド)にあたっては、それに見合う規模の廃止・中止(スクラップ)を同時にする」という原理です。

1府22省庁だった中央政府は、2001年に1府12省庁に再編されました。さらに各省庁の下には、林野庁、水産庁、中小企業庁、観光庁など、官僚がトップ(長官)に座る外局が多数あります。

デジタル庁は省レベルなのか、外局なのか。どちらの場合でも、政府全体の肥大化(組織、定員、予算)を防ぐために、「スクラップ」が必要になります。最近、そうした問題意識はどこかへ吹っ飛んでしまってます。

ついでに言えば、独立財政監視機関(IFI)を設置していないのは、先進国の中で唯一日本だけです。主要国の集まりであるOECD(経済協力開発機構)はIFCを「政府、政党からの独立性を有し、中立的な観点から財政状況を管理、評価、提言を行う公的機関」と、定義しています。

日本の財政赤字が世界最悪なのは、政府、政党に予算編成が委ねられているため、財政膨張に歯止めがかからないためでもあります。OECD加盟の36か国のうち、29か国が財政監視機関を持っています。

08年のリーマンショック(国際金融危機)後に、財政膨張が加速したため、それにブレーキをかける役割を担う監視機関を新設した国は、この29か国中で21か国にも上ります。日本は入っていません。

菅政権が多くの新政策を始めるからには、こうしたブレーキ役の機関を作っておくべきです。そうした声がジャーナリズムからも野党からも上がらない。残念なことです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年9月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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