経済格差、子どもの学習環境の偏在にも自治体は目を向けるべき --- 荻野 稔

寄稿

大田区議会議員のおぎの稔(荻野稔)です。10月2日の大田区議会決算特別委員会において、地域ごとの学力の偏在について取り上げました。経済格差が学力格差とも言われて久しいですが、子供を取り巻く環境について親の収入や家庭の状況の違いが子供の学力や学習環境の偏在になっているも考えられるではないか?とも思えるからです。

プレジデントの2019年10月の「東京・小学校区「教育環境力」ランキング【主要30自治体トップ3】」では、東京都の「東京都 児童・生徒の学力向上を図るための調査」の中から、都への情報開示請求によって自治体別の平均正答率を入手した結果と合わせて独自に作成した学力偏差値を割り出し、順位を示していました。

一部の町村地域を除く都内49区・市の偏差値ランキングで大田区は25位とのことです。大田区はだいたい真ん中くらいと評価されていました。全体では学力偏差値ランキングは文京、武蔵野、千代田、中央、目黒の順であり、同時に掲載された推計世帯年収ベスト5では、1位千代田区、2位港区、3位中央区、4位渋谷区、5位目黒区と収入と比例している面も見て取れると明らかにしました。

では、自治体の中でそうした差はあるのでしょうか

子供を塾に行かせてあげられない、勉強を見てあげられる時間のない家庭の多い地域、大田区では3月にひとり親世帯の3歳の女の子が餓死する痛ましい事件が起きました。全てのひとり親世帯がそのような危険性があるわけではありませんが、例えばひとり親世帯の方が多い地域があったらそこにはまた別の取り組みが必要ではないか?とも思うのです。どういう支援、教育がその地域、学校区に必要でそれが相手にちゃんと届いているのか?適切な教育投資や支援をするためにも実態把握は必要と思い、今回、データで分かりやすい図を業者に依頼し作成することとしました。

これから提示するのは国勢調査や住宅・土地統計調査などのデータを地図に落とした図です。平均世帯所得分布が地域で分かれていることがよくわかると思います。そして次の図が短大・大学進学率です。平均所得の違いと大学などへの進学率が一致することが分かります。

そして、次の図は国勢調査から割り出したひとり親世帯の比率です。また、同時に管理職比率の情報も一緒に提示させていただきます。これを見ると比較的に所得の低い地域にひとり親世帯が多く、比較的所得の高い地域に管理職の方が多く住んでいることも分かります。こうした地域による違いは子供の家庭環境、特に学習環境にも影響があるのではないかと考えています。

私は子供の将来が全て大学進学、学力だとは思いません。しかし経済的な理由や学力を理由に夢をあきらめる、道が閉ざされる要素というのは可能な限りなくしていかなければならないと思います。運や才能というものはあるかもしれませんが、生まれた環境や育つ環境の差、不運の要素を出来るだけ埋めていく。そうして隙間を埋めていって、最後に努力が残る。そういう環境で子供に学習に臨んでもらいたいと考えています。

今回の新型コロナウイルス感染拡大に伴う一斉休校などで子供の家庭での学習環境、ICT環境なども注目を浴びました。一億総中流のモデルが崩壊した昨今、今まで通りの公教育ではなく、地域、家庭ごとの学習環境の偏在、子供を取り巻く環境にも目を向けなければならないのではないでしょうか?

子供の貧困についての議論でも、物理的な貧困から文化資本、「子供の大人になるまで経験しておくべき体験」の不足なども問題視されるようになりましたが、子供の学習環境などの課題が深刻になっているように思います。

つまずきに応じて段階的に行う多層指導モデルMIM(ミム)という方法もありますが、これからの公教育では、そもそもの家庭での学習環境、学力の偏在にも注目し、その格差を解消するための教育への人材、予算、資本の投資が必要になってくるのではないかと考えます。

※画像の地図の利用について
私が個人で作成したものでなく国勢調査のデータをもとに事業者に作成を依頼したものでもありますので、利用されたい場合はご一報いただければ幸いです。地図の作成を依頼したい自治体、政治家、福祉、地域団体といった方からのご相談もお受けいたします。

荻野 稔 東京都大田区議会議員(無所属)
1985年生まれ。高校卒業後、クリエイター養成の専門学校で学ぶ。NPO法人で身体・精神障害者の支援に取り組み、働きながら慶應義塾大学経済学部通信課程に進学。都議秘書を経て、2015年大田区議選で初当選(現在2期目)。自殺問題やクールジャパン、著作権、ネット規制、表現の自由などの問題に力を入れている。公式サイト