部活動を正常化するための三条件

愛川 晶

前回の私の記事「部活動が内包する搾取構造」でも触れた通り、文部科学省は部活動顧問の業務が教員にとって過重負担になっている現状を打開するため、中学・高校の部活動を学校単位の取り組みから地域単位の取り組みとする方針であり、まずは休日の部活動について、地域のスポーツクラブなどの団体が管理・運営するしくみを整備し、令和5年度から段階的に実施すると発表した。

写真AC:編集部

とにかく一歩前進という意味では評価できるが、残念ながら、私はこの件について「教員の働き方改革」の側面からのみ議論するのは間違っていると思う

根本的な問題は日本の中学・高校の部活動がさまざまな面で異常な状態のまま長年放置されてきた点であり、それを是正すれば自然と教員の負担も軽くなる。むしろ、こちらの方が正しいアプローチのはずなのだ。

しかし、教員採用試験の倍率低下や常勤・非常勤講師の不足によって教育現場は深刻な人手不足に陥っており、教員の負担軽減は喫緊の課題で、悠長なことなど言っていられないというのもまた事実。だとすれば、ちょうどトンネル工事のように部活動の正常化と教員の働き方改革の両方向から掘り進めて貫通を目指すべきである。

そこで今回は、文部科学省が今すぐに取るべき施策を三つ挙げる。つまり、中学・高校の部活動を正常化させる三条件というわけだ。

(1)中学校における部活動の強制・半強制加入制度を廃止する

私は福島県の県立高校の教員として38年4カ月勤務し、その間、最も力を入れたのが生徒の就職支援だが、採用試験の面接指導をしていて困ったことの一つが、部活動に加入していない生徒に対して「なぜ部活をしなかったのですか?」と尋ねる企業の担当者がかなりいることだ。

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本来こんな質問をすべきではないと思うのだが、それでは模擬面接にならない。仕方なく、成績のいい生徒ならば「勉強を頑張ろうと思ったからです」、成績が振るわない生徒ならば「両親が働いていて、家事を手伝う必要があったからです」あるいは「通学に時間がかかったからです」などと答えるよう指導していた。

部活動をしていない地方の高校生は言い訳を用意しないと、就職活動すらできないのだ。社会全体の意識に問題があると言わざるを得ない。

このような現状を生み出した原因として、やはり中学校における部活動への強制加入制度の影響が大きい。以前よりは少なくなったものの、2017年度にスポーツ庁が行った実態調査によると、全国の公立中学校で全員入部制度を取っている学校は32.5%。しかも、都市部では18.3%なのに対して、非都市部では44.8%と地域差が非常に大きかった。

さらに、強制まではされていないものの、校内の同調圧力などで嫌々加入せざるを得ないというケースも多く、中学2年生の部活動加入率は約9割に達するという統計がある。

全員入部制度は非行防止という観点から導入された側面があるが、現在、その通りの役割を果たしているかどうかは極めてあやしい。部活動は本来生徒の自主的な活動であるはずで、時代に合わない制度は早急に廃止すべきだ。

(2)練習時間に関するガイドラインを遵守させる

「部活が終わるのが遅く、そのあとで教材研究や雑用をすると、帰宅が午後9時、10時になってしまう」
「土日も練習試合や大会でまったく休めない」
「休日に一日中部活指導をしても、部活動指導手当は3600円(額は自治体により若干異なる)で、最低賃金よりずっと安い」
「せめて日曜日を練習休みにしようとしたら、保護者会で吊し上げに遭った」

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SNSでちょっと検索をかけただけで、顧問がつぶやく悲鳴に近い嘆きがいくらでもヒットする。

しかし、この問題に関しては、2018年2月にスポーツ庁が「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を、同年12月には文化庁が「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定し、練習時間の規制について具体的に明示している。

いずれも内容は同じで、最低でも週に2日以上の休養日(平日 1日以上、土日 1日以上)を設け、1日あたりの活動時間は長くとも平日が2時間程度、土日が3時間程度。さらに、長期休業中には連続した休養期間を取ることも求めている。

内容としては極めて妥当で、これがきちんと守られれば顧問の負担はかなり軽減されるはずだったのだが、そうはならなかった。

ガイドラインに法的拘束力はないし、違反した場合の罰則もない。したがって、平日の練習時間規制については意識すらされていない場合が多いし、土日に関しては保護者やOBが主催して自主練の名目で行われる、いわゆる「闇部活」が横行し、管理職も見て見ぬふりをしている。

彼らが一様に口にする主張は「ほかの学校はもっと練習している。自分たちだけが練習時間を削ったら、試合に勝てない」。

この件に関しては、文部科学省が各自治体の教育委員会を通じてさらに強く指導を行い、すべての学校にガイドラインを遵守させ、さらに保護者からも苦情が出ないよう内容の周知徹底を図るしかない。

(3)部活動後援会などの会費を強制的に徴収することを禁止し、寄付制度に改める

これについては、前回の記事を参照していただきたい。そこでも述べた通り、制度が突如激変するのは望ましくないが、部活動をしていない生徒の保護者からも強制的に会費を徴収するのはどう考えてもおかしい。近い将来、部活動が学校から切り離される事態を視野に入れ、任意の寄付のみを受け入れるべきである。

以上の三つが実現して初めて、「部活動の地域への移行」がスムーズに行える。文部科学省の迅速な対応を期待したい。