安全保障はモノ中心からソフトを意識した議論へ --- 秋塲 涼太

2020年10月09日 06:00

抑止論は冷戦が残した神話

もはや現代戦において、ハードウェアに基づく抑止論が安全保障上の解決策になり得ることはない。しかし、75年の「平和」は安全保障に関する知の欠如を生み、安全保障政策は「モノ」や「兵器」そのものが解決策のような議論になりがちだ。

ハワイのイージス・アショア・サイトでの発射訓練(防衛省サイトより:編集部)

その典型は、最近の動きからも明らかだ。今年6月15日、政府が進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画が事実上の廃案となり、自民党からは代替案として「敵基地攻撃能力」を中心とした提言がなさた。政府からは島嶼防衛向けに用意が進んでいる「高速滑空弾」などをはじめとした長射程ミサイルを敵基地攻撃能力の基軸としていること発表された。これはすべてハードウェアによる抑止論を前提とする議論である

もはや抑止論、特にハードウェアに基づく「抑止」は時代遅れだ

「核抑止」「抑止論」などの議論は、冷戦という米ソ超大国間で行われた主義を巡る戦争の中で発展した考えである。力の均衡対称性を前提とすることで、その有効性が担保されいた。

しかし、核兵器または圧倒的軍事力を有している国であっても、抑止できなかった戦があるのは歴史から明らかだ。 9.11米同時多発テロ、イラク・アフガン18年戦争、ロシアのクリミア併合を抑止することはできなかった。

Wikipedia:編集部

もしハードウェアに基づく抑止が有効であるならば、これらの戦争は起きていないこうした戦争(国家主体間の国際紛争)が起きている時点で、抑止論を懐疑的に見つめること必要だろう。

テロリストは、国家主体でないことからこの議論の範疇ではないという異論も聞こえてきそうだ。しかし、その着眼は教訓とすべき最も重要な議論をもたらす。ポイントは4つ。

  1. テロリストなどの非国家主体が国家主体を揺るがすまでに強大な存在となった(アルカイダ、その後のイスラム国など)。テロリズムはその組織の政治的目的・主義思想実現するために暴力を用いて文民などを攻撃し、大衆や国家の行動・考えを操作する戦術であり、その戦術を運用する主体がテロリストである。
  2. このような非国家主体は死を進んで受け入れる。イスラム過激派はコーランの過激的解釈で「自爆」という選択肢を進んで選択した。
  3. 死を受け入れている、または覚悟している主体に抑止は通用しない。死ぬことで目的を達成できることから、それまでの過程は忠実に遂行される。
  4. 同時に、国家主体が報復として核兵器を用いることができない対象。実際に用いられたのは、ドローンや特殊作戦を局所的に運用Surgical Strikeし報復した。

「現代戦」を見つめたうえでの教訓

れらの点から学ぶべきは、敵基地攻撃能力を行使する時期と対象だ。日本での議論は、北朝鮮や中国に想定が置かれているが、これらの国々が日本に向かって核兵器や弾道ミサイルを用いて攻撃するとはどういう状況なのか。

そこまで追い込まれた状況を日本が作り出すのか?仮にそうであるならば、これらの国々も報復のリスクを承知している。または、初弾で確実な終焉を日本にもたらす「作戦」で攻めてくるだろう。

また、北朝鮮のように国家元首の意思が強く反映される極めて不安定な国家主体非国家主体のような振る舞いをする対象には、先のテロリストに対する抑止の否定に通ずるものがあるだろう。

今一度歴史を振り返ってほしい。冷戦後、国家主体同士の戦争を幾度経験したか。世界のパワーバランスが維持されている中でも紛争は実際にあった。しかし、それは、国家対非国家主体による低強度紛争など国家間の紛争になり得ない強度のものであった。さらには、こうした低強度紛争における戦術や作戦術など進化発展したのが冷戦後の世界ではないだろうか。

今回、争点となっている敵基地攻撃能力が目指すべき点は、それに基づく抑止ではなく、想定内外の敵が有する攻撃手段を「確実」に破壊または妨害し、日本の「安全」を「保障」できる能力だ。

更に考慮したいのは、日米安全保障条約に依拠したものでなく、同盟国の政治的不確実性を盛り込んだ姿勢だ。

こうした不確実性を考慮に日本が敵基地攻撃能力を保有するためには、いくつか方法がある。例えば、米ナショナルトレーニングセンターでの日本単独、日米共同訓練など様々な訓練機会をリクエストする。世界中にある米軍基地を共有できるようなリクエストを出す。このように自国防衛を賄える能力を確立したいことを示せれば、主体性がありパートナーである甲斐があると認められるのではないか。

日米共同統合演習(防衛省サイトより:編集部)

あの兵器が欲しい、この兵器が欲しいという前に、お金をかけずに、知恵を使って勝つ方法はいくらでもある。イージスアショアを調査する金で、多くの幹部自衛官を国内外の大学院へ派遣、既存自衛隊部隊の再定義・再編成など、現代に対応する組織・機能トランスフォーメーションを求めるほうがマシだ

秋塲 涼太 (あきば・りょうた)
米ミドルベリー国際大学院モントレー校大量破壊兵器不拡散・テロリズム研究修士課程修了後、米国防総省ダニエル.K.イノウエアジア太平洋安全保障研究センターにて研修生として特殊作戦領域の研究等に従事。防衛省自衛隊を経て、現在は人材コンサルとして勤務。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

過去の記事

ページの先頭に戻る↑