2人のアルメニア外相が語った「和平」

2020年10月11日 14:00

モスクワ発の外電によると、旧ソ連共和国のアゼルバイジャンとアルメニア両国は10日、ロシアの調停を受けてナゴルノカラバフ自治州をめぐる戦闘を停戦し、和平協議に入ることで合意したという。10日正午(現地時間)を期して停戦に入るが、両国間で和平協定が締結されるかは全く不明だ。先月27日に勃発した戦闘で民間人を含め約400人の犠牲者が出た。

世界で最初にキリスト教を国教化(301年)した国アルメニアは地理的には西にトルコ、東にアゼルバイジャン、南にイランといったイスラム教国に囲まれている。そのアルメニアとアゼルバイジャン両国は旧ソ連時代はモスクワの管轄下にあったが、アルメニア系住民が大多数を占めるアゼルバイジャン共和国内のナゴルノカラバフ自治州は1991年9月、アルツァフ共和国(ナゴルノカラバフ共和国)として独立を宣言。

パパジィアン外相とオスカ二ャン外相との会見記事(1993年12月15日付と2002年3月5日付の世界日報掲載)

自治州の領土に加え、アゼルバイジャンの一部領土を占領、同時に隣国アルメニアへの帰属を要求する動きが出、アゼルバイジャンとの間で紛争が続いてきた。今年に入り9月27日、アルメニアとアゼルバイジャンは戦闘を再開し、トルコ側がアゼルバイジャンを軍事支援するなど、戦闘は拡大の兆しを見せていた矢先だ。

当方は1990年から2000年にかけ、2人のアルメニアの外相と会談する機会があった。最初は1993年12月、全欧安保協力会議(CSCE)主導のミンスクグループが設立された直後、和平調停の見通しについて、バハン・パパジィアン外相(当時)と会見した。

1998年10月には、ワルダン・オスカニャン外相にナゴルノカラバフ自治州問題の和平へのシナリオを聞いた。そして2002年3月にオスカニャン外相と再会見し、同自治州の帰属問題のほか、対ロシア、対トルコ関係について聞いた。

当時のインタビューの取材ノートを捲りながら、3回のアルメニア外相との会見を振り返って気が付いたことは、1993年の最初の会見から2002年の会見まで10年余りの時間があったが、ナゴルノカラバフ自治州の帰属問題で双方に大きな歩み寄りは実現されなかったことだ。その18年後、戦闘が再び始まった。今月10日の停戦がいつまで続くかは不明だ。バルカンのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でも目撃したが、民族紛争は領土問題が絡むと和平実現は一層難しくなるからだ。

和平協議が再開される前、アルメニア外相が過去、インタビューの中で何を語ったかを少し振り返り、今後の見通しを考える上で参考にしたい。

①パパジィアン外相との会見記事の見出しは「経済再生のためにも平和が必要」。数カ月前にナゴルノカラバフ自治州防衛軍とアゼルバイジャン共和国軍の間で停戦協定が締結され、ミンスク・グループが和平調停に乗り出していた時だ。アルメニア側は当時、ナゴルノカラバフ自治州防衛軍はアゼルバイジャン内の占領地から撤退する一方、アゼルバイジャン共和国軍も同自治州北部から撤退すると共に、同自治州とアルメニア間の封鎖を解除する。それらが実現された後、ミンスク・グループは和平会議を開催するという和平案を有していたが、アゼルバイジャンがその和平案を拒否し、実現できなかった。

同外相は、「ナゴルノ紛争はイスラム教とキリスト教の宗教戦争ではなく、ナゴルノカラバフ自治州のアルメニア人の自治権要求とそれを弾圧するアゼルバイジャンとの対立だ」と主張。「ナゴルノカラバフ自治州には約1400のキリスト教建造物があるが、イスラム寺院は3つしかない。この事実は同自治州が歴史的にアルメニアに属していたことを示している」と語った。

和平交渉が締結できれば、ロシア平和軍の派遣も考えられること、対トルコ関係では、「宗教の問題に拘らず、両国関係の改善に努力する意向」を表明した。ただし、「トルコがアゼルバイジャンを軍事支援していることは事実だ。トルコ軍のほかアフガニスタン・ムジャヒディンがナゴルノカラバフで戦闘している」と証言した。ちなみに、トルコには主にイスタンブールに約5万人のアルメニア人が住んでいる。

②オスカニャン外相との会見記事の見出しは「(ナゴルノ自治州の)地位問題に前提条件付けず」だ。アルメニアでコチャリャン新政権が誕生した直後のインタビューだ。同政権はアゼルバイジャンとの和平協定締結に積極的だった。

両国間の難問、ナゴルノ自治州の地位問題の解決策として、1)アゼルバイジャン帰属の自治州、2)独立国家建設、3)アルメニア併合、の3つのシナリオの他に、「アンコンベンショナルな地位」として、スペインとフランスに挟まれたアンドラ公国のような立場を提案し、「アルメニアは和平交渉で妥協する用意がある。和平を実現するためには国内の世論に反して決断しなければならないことがある」と語った。外相は会見最後に、日本に対して、「日本企業がカスピ海油田開発に積極的に関与してくれることを期待する」と述べている。

③オスカニャン外相との再会見の記事の見出しは「安保体制の基礎はロシアとの関係強化」だ。外相は、「わが国は和平交渉を進める一方、経済関係の促進などを同時進行させ、両国間を取り巻く環境を改善していくのが得策と考えるが、アゼルバイジャンは和平協定の合意を前提条件と主張し、それが実現できるまで両国間の経済関係の促進に乗り出す考えがない」と指摘、双方にスタートラインで相違があると述べた。

外相は、「エネルギー分野、水源の共同保存など、あらゆる分野でアゼルバイジャンと協力する考えだ」と述べた。ロシアとの関係では、「ロシアとの関係は歴史的なもの、非常に強固だ。アルメニアにとって安保問題は最優先課題だ」と指摘。アルメニアはロシアの同盟国であり、旧ソ連6カ国でつくる集団安全保障条約の加盟国だ。

対トルコ関係では「わが国は以前から、前提条件なしで関係改善を希望しているが、トルコは常に両国関係の正常化問題をナゴルノカラバフ紛争とリンクさせてきた。トルコ側が前提条件を撤回すれば、アルメニアは直ちに、関係の正常化に乗り出す」と述べている。

ちなみに、アルメニアとトルコの間には19世紀末から20世紀初頭にかけオスマン帝国の少数民族だったアルメニア人が強制移住させられ、殺害された通称「アルメニア人ジェノサイド」の歴史的難問が横たわっている。アルメニア側によれば、50万人から最大150万人のアルメニア人が虐殺されたという。トルコ側はアルメニア人の虐殺は認めているが、その数は少なく、ジェノサイドではなかったという立場だ(「オスマン・トルコのアルメニア人大虐殺」2018年5月22日参考)。

10日の停戦合意と「その後」の和平協議がどのような進展をもたらすか予測は難しい。明確な点は、2020年の両国周辺の政治情勢はそれ以前とは異なっていることだ。

ロシアがアルメニアとアゼルバイジャン両国に妥協を強いることが出来るか、アゼルバイジャンの背後にいるトルコが和平協議に関与してくるかなど、不透明な要因がある。例えば、東地中海の天然ガス田開発問題でギリシャと連携し、トルコと対立しているフランスがロシアと連携して和平交渉に関与する動きを見せている。

ただし、厳冬を控え、アルメニアとアゼルバイジャン両国は少なくとも来春まで停戦を維持したい意向ではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年10月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

過去の記事

ページの先頭に戻る↑