政治分野における男女共同参画(パリテ)について学ぶ

2020年10月12日 06:00

7月に「氷河期世代と学生のための英語塾」というオンラインサロンを開きました。

基本的には英語で政治や経済についての記事を読むことで、英語の読解力をつけながら時事問題を考えるようなサロンです。もちろん英語に対する解説等もつけるのですが、どちらかというと海外を中心とした政治経済を学ぶ要素が強いサロンです。

会費は月200円にしてなるべく幅広い人たちの学びのサロンを提供したいと思っていますので、ぜひ一度覗いてみてください。

oldtakasu/写真AC

最近は一つのテーマを一週間で学ぶというスタイルにしています。9月にはフランスにおけるパリテ法(政治分野における男女共同参画を進める法律)の特に「政党助成金の減額」の効果について以下の論文から学んでみました。

Parity Sanctions and Campaign Financing in France: Increased Numbers, Little Concrete Gender Transformation

ちょうどタイミング良く、自民・野田聖子幹事長代行がHUFFPOSTとのインタビューでこのフランスで採用されている政党交付金をパリテの未達成度に応じて減額する制度について言及していました。

「女性候補の割合に応じて政党交付金の配分を」 自民・野田聖子幹事長代行が提案

今回はオンラインサロンでの計6回の投稿を再編集してこの「パリテ罰金制度」について考えてみたいと思います。

ちなみに上記の英文の論文を読むのがしんどい方はかなり長めですが別の日本語での論文もありますのでご参照ください。

フランスにおける女性議員の増加のプロセスとその要因:クオータ制導入の頓挫からパリテ法の制定・定着まで(村上 彩佳)

フランスにおけるパリテに向けた運動

フランスでは1970年代左派の社会党の党内での女性比率(クオータ)の導入が党内のフェミニストから求められましたが、党内の抵抗と憲法違反の疑い(クオータの導入により男性の権利が制限されるため)からクオータの比率は高まりませんでした(1979年時点で20%)。

パリテ法など、フランスの女性政策を推進し、ミッテラン政権では女性権利相を務めたイヴェット・ルーディ氏(Wikipedia)

フランスは90年代に入っても女性議員の数は伸びず、このことは政治課題として認識されるようになってきます。1995年の大統領選では右派のジャック・シラクはパリテに理解を示し当選後「パリテ監視委員会」を設置します。

パリテ実現に向けていくつかの方策が検討されましたが、各選挙区で男女1名ずつを選ぶ方法は憲法上問題ありと考えられ、政党助成金をつかって「推進」する方策が検討されます(このときは補助金を与える方向で、罰金制ではなかった)。クオータ制から助成金でのインセンティブ付けに方向が変化したことにより憲法論議の壁が下がり、政策の実現性が増します。

1999年には憲法改正と選挙法の改正が審議されることになります。国民議会および元老院(Senate)における改憲議論の詳細はこちらの論文を参照。

こうしてフランスは憲法改正を経て2000年に交付金減額を含むパリテ法が成立します。

交付金減額の仕組み

実際に政党交付金がどのように「減額」されるのかをみていきましょう。

政党交付金減額率=(男性候補比率ー女性候補比率)× 減額定率

減額定率は2007年まで50%、2012年に75%、2017年には150% になっており、2017の選挙では候補者の男女比率が6:4だと男女比率差の20%に減額定率の150%をかけた30%の助成金が減額されるという厳しいものです。

罰金制度の導入により左右関係なく少数政党(国民戦線、緑の党)は早々と日本の衆院にあたる国民議会の候補者の男女割合を50%:50%に近づけます。左派の共産党と社会党も候補者数では2007年の国民議会選挙時にはそれぞれ46.5%、45.2%と半数に近づけます。

2002年の女性候補率は全体で38.9%、2007年で41.6%となり候補者における女性率では向上が見られました。

しかし議員(つまり当選者)における女性比率は2002年で12.3%、2007年で18.5%と一気に下がってしまいます。これは新人の女性候補が勝利が難しい選挙区を与えられてなかなか当選できていない実態がありました。これが候補者率で交付金を減額するシステムの悪いところで、とにかく候補者数で女性を増やせば減額は免れるので各政党ともその努力をするのですが、それが各選挙区での女性候補の勝利につながってはいなかったのです。

女性議員率の推移

それでは候補者における女性率ではなく、議員における女性率はどのように推移したでしょうか。

フランスの国民議会においては女性の議員率はパリテ法が制定される以前は低く、1993年時点で6%、97年に11%、パリテ法成立後の2002年でも12%で、ようやく2007年から19%、2012年に27%、2017年に39%と着実に伸びています。

しかし選挙の詳細をみてみると2012年は左派の勝利による政権交代、2017はマクロン大統領率いる新党「共和国前進」の大躍進があったため、多くの選挙区で現職が敗れて女性の新人が当選するいわゆるターンオーバーが発生しました。つまりこの2回の選挙における女性議員率増加の主因は各政党のパリテ推進ではなく、政党間で議席の移動が発生した大きなターンオーバーによるものだったと言えるでしょう。

官邸サイト

日本に制度を輸入するにあたって考慮すべき点

フランスでの交付金減額制度は女性候補率を上げる上で一定の成果はありました。しかし「女性議員」の比率を上げるためには女性候補が各選挙区で勝利しなければなりません。すなわち各政党が自らの強い選挙区で女性候補を立てられるかということと関わってきます。

しかしこれは簡単なことではありません。そもそも「自民王国」「民主王国」などと呼ばれる地域は存在しますが、これらの地域には大抵選挙に強い現職が多数いるからこそ「王国」になるわけです。当選回数が多く選挙に強い現職は大抵それぞれの党の幹部ですから「パリテのために女性新人候補と交代してください。」とはならないのです。

さらに現在の小選挙区比例並立制のもとでは小選挙区で落選しても比例復活があるので、制度的にターンオーバーが発生しにくくなっています。そうでなくとも衆院は任期が最大で4年、平均すると3年で選挙がありますので、比例復活ができなかったとしてもよほど高齢でない限り引退せずに次の選挙を目指すでしょう。

日本においては左右関係なく当選回数による党内序列が非常に大きく、かつターンオーバーが少なくなる制度設計のため女性に限らず「現職議員」を「新人候補」で差し替えるということは現職議員が高齢による引退をしないかぎり基本的には発生しないと言えるでしょう。

そうなると、女性議員率を向上させるために交付金減額などを導入しようとも政党間の議席の移動(つまり政権交代)が発生しないことには難しいと思われます。

パリテの議論を深めるために

日本においてはパリテを巡って議論が成熟していない部分もあります。「女性の声を届ける」「女性の意思を政治に反映させる」という目的では、選挙権は男女平等に一票ずつ与えられていますから女性の自由な投票行動が担保されていればある程度は実現しています。

「パリテ」の本質というのは女性が高度な政治判断を下すポジションに「直接」いるべきだ、という考えです。ですので「候補者」では意味はありません。実際の「政治権力」を一部の女性が手に入れるべきだという考えだといえましょう。女性議員が増えても閣僚や各委員会や党の部会などで、実際の「権力」を手に入れられているかが真の意味での「パリテ」の達成を左右します。

「象徴的な存在」として女性候補や女性議員が誕生するというのは女性が直接権力を掌握する一過程に過ぎないのです。よく「ジェンダー・ギャップ指数」で世界何位だからという議論を目にしますが、「パリテ」の議論を深めるには表面的な数字や象徴的な女性登用という議論を超えた、女性による直接の権力掌握の意義を深掘りすることでしょう。そしてこれは究極的には「権力闘争」の一環といえます。

野党が自分たちが政権を握れば社会がより良くなると主張することや、自民党内でも「次期総裁候補」の議員は自らの政権構想を練り上げ社会をいかに良くするかを主張する。これらは「権力奪取」のための活動つまりは本質的には「権力闘争」です。

「パリテ」においても表面的な数字を超えた議論としては「女性議員」こそが社会をよくすることができるという社会的理解が重要ですし、党内や議会内での議論においても「パリテ」は究極的には「権力闘争」という覚悟が求められます。

フランスにおいて国民議会での女性議員の増加は政党間の議席の移動という要素に助けられたこと、また女性議員が増加しても外交、経済、国防などに関連する委員会などでの女性比率が低いなど「権力の掌握」という点からはまだ課題があるようです。

しかしここまでパリテが進んだのは数十年にわたるフランスにおけるフェミニスト議員達の党内・議会内での闘いの成果といえるでしょう。日本のフェミニスト議員にもまずは「制度変更」と「女性による権力掌握の意義」という二つの難しい内容を国民に説明して社会的な支持を得ることが求められます。非常に難しい課題だと思いますが、日本をより良くするための闘いを推し進められるよう私も応援しています。

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与謝野 信
ロスジェネ支援団体「パラダイムシフト」代表

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