性善説と性悪説からみたITの暗号技術の展開

岡本 裕明

日経に興味深い記事が掲載されています。「フェイスブックの暗号化、日米英などが見直し要求へ」であります。いわゆるメッセンジャーやワッツアップといった対話アプリでやり取りした内容がその送信者と受信者以外誰も見られなくなる技術を同社が搭載する意向に対してファイブアイズや日本を含む複数国が犯罪防止上、それに反対しているというものです。

Stock Catalog/Flickr

Stock Catalog/Flickr

性善説にたって考えればプライバシーを最大限維持する発想からは郵便でいう「信書」とも同様で、当事者同士のやり取りに対する機密性は高い方がよいことは確かです。例えば日本の場合には憲法21条で「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」とあります。これを受けた法律については電気通信事業法、有線電気通信法、電波法などでそれらが具体的に定められており、罰則規定があるものもあります。

日本でも犯罪捜査に於いてSNSなどのやり取りの証拠を得るためにそれらの会社に内容の開示を求めてもかつてはなかなかそれに応じてもらえなかったという警察の苦労話もありました。これが地球儀ベースとなると様々なことが日常茶飯事起きており、それが不正行為に対する捜査目的であればアクセスが必要なのは理解できるところです。

ところが今回フェイスブックが作った技術はフェイスブック社すら見られなくなるというものでこれでは捜査協力しようがないというものです。各国の当局が焦るのも無理ありません。

世の中、全員がシロですべてのルールに従っているかと言えば相当多くの方は何らかの違反をしているはずです。単に気が付かないだけのこともあるでしょう。程度の問題はありますが、私のように外国に住んでいていればなお更ながら性悪説に立たざるを得なくなります。

ところで日銀を含め、各国政府でデジタル通貨の研究が進み、日本ではその実証実験が来年あたりから始まりそうです。なぜデジタル通貨にするのか、報道ではリアル通貨に比べて扱いが楽で安全だということを第一義に挙げていますが、私はそうではなく、マネーの動きが一目瞭然でありその結果、犯罪捜査などに極めて有効に活用できる点があまり表に出ない重要なメリットだとみています。

普段考えたこともないと思いますが、銀行のATMから出てくる紙幣や釣りでもらうお金はその前に誰が持っていたか知ることは不可能です。そしていったん自分の財布から出ていけば紙幣の番号を控え、それを追跡してもどこに行ったか解明するのはほぼ不可能かと思います。現金の秘匿性とはここにあり、悪さがいくらでもできる悪の温床とも考えられています。よって以前にも書きましたが今や「銀行は現金がお嫌い」の時代で、なるべく扱いたくないし、当地のATMでは1000ドル(8万円)までしか出ないし例えば一定額以上の通貨を他通貨に両替する場合、本人確認と連絡先、使用目的を聞かれます。

デジタル通貨になればこれが透明になり、長い目で見ればあらゆる脱税は捕捉できることになります。つまりデジタル通貨はある意味、性悪説に立った技術とも言えます。

こう見ればフェイスブックが今回検討している誰にも見えないやり取りを可能にさせるプログラムは時代に逆らっているように見えます。一方で一部の繊細な方には憲法21条の「通信の秘密はこれを犯してならない」に違反するのではないか、という意見もあると思いますが、現実社会でプライバシーを含め、どこまでそれが維持されているかと言えば厳密にいえばなくなりつつあると思っています。

たとえば最近の社会事件ではへぇ、こんな事件の犯人も捕まるんだというケースが増えていると思います。決め手は街中のカメラであります。これが中国やドイツに行けばカメラだらけで街を歩けば自分をさらすようなものとなります。顔認証も増えていますがそのデータはあらゆるところで集められています。海外から帰国した際に通関で顔認証で入国していると思いますが、あれで法務省にデータが全部取られています。

中国ではそれに対して「悪いことをしなければ関係ない」と平然としたものです。バンクーバーでも道路を走ればオービス(自動交通違反取り締まり機)が至る所にありますが、これだって交通ルールを守っていれば関係ないわけで技術の使い方と人々がそれにどう理解を示していくのか、時間とともに大きく変わっていく過程にあるということではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月12日の記事より転載させていただきました。