疑似科学商品はこうして生まれる:研究者、メディア、メーカーの思惑

2020年10月16日 06:00

先日話題となった歯周病とアルツハイマーの関係に関して、歯科医院でもお問い合わせを頂いております。本件は急速に話題が広がったために急遽注意喚起となる論稿をだしましたが、同様の事例は無数にあります。

(拙稿)国民民主党・玉木代表の歯みがきによる認知症予防は本当? ― アゴラ(2020年10月9日)

そのほとんどは反論を受けないままニッチ向けの商品となり、市場に定着してしまいます。たとえば健康サプリとして知られるコエンザイムQ10などは十分な効果が立証されていません。

(参考)コエンザイムQ10 ― Gijika.com(明治大学科学コミュニケーション研究所)

このような科学を拡大解釈した「疑似科学」に基づく商品は今後も次々に登場するでしょう。そこには研究室と市場の構造的な関係性があります。

写真AC:編集部

1.科学者は論文で有効性をアピールする

一般的なイメージでは科学論文は淡々と実験結果を書き連ねているイメージがあるかもしれませんが、それでは良い論文になりません。論文の「考察」部分ではある程度自由に書けるので、研究で明らかになったことが、どのような治療につながるか、どのように世の中を変えていく礎になるかを、しっかりアピールする必要があります。

研究内容が臨床応用に直結するものでなかったとしても、これらを明記することは研究全体の意図を明らかにするために必要です。そうでなければ、酵素一つ、神経伝達物質一つの研究が何を意図しているかは、専門家であっても読み解けないでしょう。

「自分の研究は自分にしかわからないんだから、しっかり伝わるように書かきなさい」と指導教官に教わったことを思い出します。

論文においては、続くセクションで「研究の限界、今後の展望」を記載してバランスをとるのが通例となっていますが、一般人がそこまで読むことは稀でしょう。

 2.記者はタイトル30文字に全力を注ぐ

私自身も副業ライター養成スクールで学び、ウェブライターとして記事を掲載させていただいている経験上、記事のタイトルは重要です。オンラインメディアの時代、ほとんどの記事はタイトルのみが表示され、そのリンクを踏んでもらえなければ後に続く数百~数千文字の記事が読まれることはないからです。

そこでは「可能性がある」などといった曖昧な表現に文字数を割く余裕はありません。「?」や「か」などの疑問形を文末につけるテクニックはありますが、むしろ強く言い切ってしまったほうが訴求力があります。

このような仕組み上、タイトルで言い過ぎた分は記事内でフォローするという姿勢であれば十分良心的なのかもしれません。またネタ元となる研究発表が成果の喧伝に熱心なあまり、「研究の限界」を省略してしまうことはあるかもしれません。

本来は科学論文を書いた経験のある記者が、「研究の限界」に関する質問を投げかけた上でバランスよい記事を作成するのが望ましいと思いますが、国内の現状をみると高望みかもしれません。

3.メーカーは商品化してマーケティングするのが仕事

研究の限界」を無視した科学記事に基づいてメーカーが商品化するのは拝金主義的だと批判があるかもしれませんが、これは科学の発展の一翼を担っている側面があります。

商品化して研究結果がマネタイズできれば研究資金が調達でき、さらなる研究が進むかもしれません。また商品化する過程で生産体制を確保することは、研究規模を拡大するうえでも重要です。

こうして資金と生産体制を整える中で、本当に意義のある研究も生まれてくる可能性もあります。これらの取り組みは国の補助金に依存しない研究資金調達であり、学問の自由と独立性を保つために重要です。

一方でメーカーが資金供与して大学に委託研究を依頼したものの、メーカーにとって望ましくない研究結果がでる場合もあります。そうした場合にメーカー担当者から研究者へ心無い言葉が投げかけられたり、場合によっては都合の良い解釈のデータのみ公開するということは、それなりにあり得る話です。

 まとめ:専門家の発信でバランスを

このように疑似とはいわないまでも不十分な科学的裏付けで商品化されていくのは、構造的に避けられない部分があり、なおかつ一定の社会的意義も含まれている側面もあると言えます。

しかし効果が期待できないことが分かっている高額な商品を、過剰なマーケティングで販売することに、倫理的な問題があるのはいうまでもないでしょう。科学の権威をかさに着た商品の優良誤認が行き過ぎると、科学や医療そのものへの信頼が揺らぐのではないかと危惧しています。

昭和の昔は、なんでも良かれと思うものは購入するという時代でした。令和の今、消費者は投資先を厳選するために、情報を必要としています。

こうしたニーズを受けて発展してきたのが1980年頃から始まるEBM(エビデンスに基づく医療)だと思うし、2000年頃から行われているシステマティックレビュー(データベース検索に基づく再現性のある総括)ではないかと思います。

厚労省、医療業界団体、あるいは専門家個人においても、疫学に則った発信を行うことでバランスをとり、科学への信頼を維持する取り組みが重要なのではないかと考えています。

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中田 智之
歯学博士・医療行政アナリスト

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