思い切った温暖化ガス2050年排出ゼロ目標

日経電子版トップの「温暖化ガス排出、2050年実質ゼロ 菅首相が所信表明へ」の文字が目に入った時は正直驚愕でした。ポジティブな意味での驚きであります。

(首相官邸Pから:編集部)

(首相官邸Pから:編集部)

実は10月20日朝刊トップには「再生エネ規制を総点検 河野規制改革相インタビュー 風力・太陽光の設置基準緩和 自動運転車、全国展開を推進」と踊っています。

河野大臣の再生エネルギー規制総点検が前座で首相が26日に行う所信表明演説で温暖化排出ガスを2050年ゼロ目標を打ち立てるとすれば私から見れば安倍前首相がアベノミクスを発表、成功しなかった三本目の矢、構造改革が本格的に進む大きなきっかけにすらなるとみています。

私は河野大臣のユーチューブは折を見て拝見しているのですが、今までにないタイプの方で物事を正論でとらえ、政治的な頓着をしないところに美しさすら感じていました。先のインタビュー記事にも例の押印改革や医療改革をへて再生エネルギー推進に必要な「邪魔者」が何なのかを検討課題に挙げています。

その目玉の一つは21年夏に向けて策定されるエネルギー基本計画の改定になるかと思います。現在、日本のエネルギー源は原子力20-22%、再生可能エネルギー22-24%、56%が石炭・LNGなどの火力発電でありますが、この意気込みからすると石炭が中期的に消え、石油も減少させLNGが当面主力、その間に再生エネルギーの比率を大きく増やすということに見えます。

また原子力についてどのような指針を示すのかこれにも着目しています。個人的には技術力と安全性を向上させ、ある程度の比率は残し、将来的な選択肢の一つを担保することになるとは思いますが、現実解としては10-15%といったような数字になるのではないかと思います。

個人的には日本は環境負荷に対してかなりセンシティブだと考えています。分別ごみに対する周知徹底もしっかりしてますし、発生抑制、再使用、再生利用、熱回収、適正処分という循環サイクルも確立しており、世界の中でも最先端を行っているかと思います。

30年後の温暖化ガスゼロ目標はずいぶん先と思われますが、ハードルはたやすくないと思います。電力各社は石炭や石油に頼る発電をベースとして投資をしており、仮に再生可能エネルギーが余っても化石燃料を優先するというルールがあります。これがそもそもおかしな話ですが、電力会社の経営が苦しくなることを考慮しているのでしょう。しかしここは大ナタを振るわねばならないところであります。

家庭用ソーラーパネルのあり方も再度見直しが必要でしょう。買取価格が下がり魅力がなくなったこともあり出荷は減っています。私も日本で6年前に建てた建物の屋上に取り付けていますが、正直、初期投資は全く回収できるとは思っていません。しかし、各家庭の電源という意味ではインフラそのものなのです。その在り方をもう少し見つめなおすとずいぶん違う絵図が出てくるのではないでしょうか?

世界で見ると温暖化ガス排出ゼロ目標は欧州が2050年、中国が2060年です。その点からすれば日本は世界最速グループを目指すことになります。アメリカはトランプ大統領が本件に関し後ろ向きだったこともあり、大きく遅れることになりそうです。仮にバイデン氏に代わってもこの遅れは10年から数十年ぐらいになるかもしれません。日本は新技術の開発と共に「できない理由、やらない理由」となり得る政治やルール、運用上の問題を無くすことが先決でしょう。また、その技術をアメリカや世界に売り込むぐらいの器量があってもよいかと思います。

車は今後10年ぐらいで一気に電気自動車が開花してくると思われます。好む好まざるにかかわらず、だと思いますし、世代が変わると「クルマは内燃機関で動いていたんだ!」「このクルマ、エンジンがついているぜ」となるのでしょう。これは我々の年代が何を言っても無駄で新しい世代が決めることであり、消費動向に見合った商品を出したメーカーが市場トレンドを作ることになるはずです。

この構造改革は社会の立ち位置の大きな変化と企業のスタンスに影響してきます。日本生命は全ての投資にESG(企業の環境問題や社会貢献への取り組み)を考慮したものにすると発表しました。これは企業の存在が社会的責任を負うというスタンスであり、多くの機関投資家が追随することになるでしょう。とすれば無頓着な会社はもはや生き残れないともいえるのです。

安倍政権でできなかった構造改革は案外、新政権がぐいと進めるような気がしており、期待したいと思っております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年10月23日の記事より転載させていただきました。